ボルボ最新ディーゼル技術に見る、高性能・低価格化の波

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ボルボ V40クロスカントリー D4と、ディーゼルエンジンのレプリカ
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  • ボルボ S60 D4 Rデザイン
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7月23日にボルボが日本投入を発表したディーゼルエンジン「D4」。ミディアムセダン『S60 R-DESIGN』とコンパクトクラス『V40 SE』の両モデルでそのD4を試してみたところ、190ps/400Nmのパワー感、良好な回転上がり、低振動、低燃費など、今日のハイパワークリーンディーゼルらしさが十分に出ているパワーユニットに仕上がっていることが確認できた。

このエンジンの技術面で興味深く感じられたのは燃料噴射装置。排気量1968cc、排気量1リットルあたりの比出力96.5psは比出力114.3psの上位エンジン「D5」に次ぐ数値で、5年ほど前までの乗用ディーゼルのトップランナー級に相当するもの。にもかかわらず、そのD4の燃料噴射装置は高価なピエゾアクチュエータではなく、安価なソレノイドアクチュエータ型なのだ。

搭載される「i-ART」というシステムはボルボが開発パートナーに選んだデンソーが2012年に完成させたもの。コモンレールの最高蓄圧が2500気圧に達するという超高圧型で、インジェクターにセンサーを埋め込んでインジェクター内の圧力と温度を常時モニタリングし、軽油の噴射タイミングと噴射量を動的に制御することを可能にしたものだ。温度や負荷はもちろん、経年劣化によるインジェクターの性能劣化に対しても限界まで補正するという。

これだけの高機能を持ちながら、インジェクターの形式自体はソレノイドであるため、コストは安い。初出が、トヨタがブラジルで販売している商用車『ハイラックス』であったことからも、もともとは小型商用車のようなコスト制約の厳しいモデル向けの技術であったことがうかがえる。

かつて、ディーゼルの排出ガスが世界で問題視された頃は、排出ガスのクリーン化を達成するだけでもピエゾが必須と言われたものだった。が、今日では低出力型はソレノイド一色になっている。そこにボルボがリッター100ps近い高性能クリーンディーゼルであってもソレノイドでまとめ上げることが可能であることを示してみせたことは、ディーゼル技術のコモディティ化、低コスト化がかつての想定より早いスピードで進む可能性を示唆していると言える。

デンソー関係者は「ハイエンドエンジンの世界では、ピエゾアクチュエータの優位性はまだある」としながらも、コスト面ではソレノイドがピエゾに対して圧倒優位に立っていると認める。今日、2リットル級ディーゼルのパワー競争はフォルクスワーゲンの122ps/リットルを筆頭に、比出力110ps以上の世界で争われている。その領域では今後もピエゾが必要とされるのだろうが、そのすぐ下のクラスについてはプレミアムセグメントも含め、今後、ソレノイドがデファクトスタンダードになっていくだろう。

まだまだガソリンエンジンに比べるとコストが高いディーゼルだが、比出力70ps級の世界ではマツダが1.5リットルをNOx(窒素酸化物)触媒レス、ソレノイドインジェクターで作るなど、さらなるコスト低減の工夫が次々に飛び出してきている。価格が下がれば、ディーゼルは顧客にとってもっと魅力的なものになる。今後の行方が興味深い。

《井元康一郎》

井元康一郎

井元康一郎 鹿児島出身。大学卒業後、パイプオルガン奏者、高校教員、娯楽誌記者、経済誌記者などを経て独立。自動車、宇宙航空、電機、化学、映画、音楽、楽器などをフィールドに、取材・執筆活動を行っている。 著書に『プリウスvsインサイト』(小学館)、『レクサス─トヨタは世界的ブランドを打ち出せるのか』(プレジデント社)がある。

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