【スズキ アルトラパン 試乗】女性の、女性による、女性のためのクルマ…中村孝仁

試乗記 国産車
スズキ アルトラパン
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  • 部屋感覚でデザインされたインテリア
  • トレイ下の収納はこのように開く。左の小さな収納はカップホルダー。使わない時は隠す。これも女性ならではの感覚か。
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  • 全体に色使いは明るい
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昨年のスズキ自動車の調べによると、『アルトラパン』の女性ユーザー比率は、何と90.2%。ここまで女性ユーザー比率の高いクルマを僕は知らない。そこで、今回のモデル開発にあたっては女性のワーキンググループが大いに活躍したという。

同社の第一カーライン、製品企画の高橋修司氏や、四輪技術本部四輪安全・情報設計部部長、熊谷義彦氏は口を揃えて、男性では絶対に思いつかないような細かいところが製品に反映されていると話す。確かに、実際に乗ってみて、へー…と感心するところが多々あった。

例えば圧迫感をなくしたいと考察されたのが、ダッシュボードの低さ。これによって前方視界は開け、ピラーの位置などを含め、確かに圧迫感は少ない。シートポジションの如何に関わらず、スカットルの低さは相当なものだ。

収納スペースについても室内そのものを部屋感覚で作り上げていて、ダッシュボードには引き出し式の収納があり、そこにはティッシュボックスがすっぽりと収まるし、カップホルダーは角形で、これは500mlの紙パック飲料を収めるための工夫だそうである。カップホルダーといえば丸と固定観念に固まっていた身にはかなり新鮮だ。さらにガラスはUVカット、IRカット(X、S、Lグレード)。後者のIRカットとは直射日光のじりじり感を抑制するものだそうで、これは何も女性だけの恩恵ではなさそうである。

デザイン的な工夫も、特にインテリアでは部屋をキーワードにした印象を強く持つ。メーターとナビゲーションディスプレイ、それにウッド調で設えたダッシュオーバートレイの関係は、部屋に例えるとメーターが時計感覚、ナビディスプレイはフォトフレーム、そしてウッド調ダッシュオーバートレイは机のイメージということで、言われてみればなるほどと、膝は打たなかったけれど納得できる。

それに室内全体の色使いが明るく、4色用意される内装色にも黒の設定はなく、一番暗くてブラウンどまりだ。それに外装色もパステル調中心に12色も設定があり、通常は黒艶消し無塗装が一般的なフェンダーフレアも、ブラウンもしくはネイビーが使われ、モデルによってはルーフと2トーン化したボディにこのカラーフェンダーフレアが加わると、ボディは3トーンという豪華なものになる。

とまあ、見事なほど細かいところに配慮の行き届いた新しいラパン。何も女性に媚びたというよりも、これまで男性中心で女性は加わっても精々カラーコーディネイトぐらいだった開発の分野が、大幅に広がって使い勝手を改善してくれたため、むしろ男性ドライバーが乗っても使い易いと感じる部分が多かった。唯一、音声による「こんにちは」だの「see you」だのというお知らせ機能は少々うざいと感じてしまったが…。

メカニズムと走りに関しては、基本的にはまさに『アルト』である。即ちR06Aと呼ばれる新開発されたエンジンとCVTの組み合わせで、パフォーマンスもアルトと同じ。しかし、アルト以上だと思えたのが快適性の高さである。とにかく乗り心地がいい。

先代と比較して実に120kgの軽量化を果たしているにもかかわらず、ペラペラした印象など皆無。それどころかむしろどっしとして、はるかに大きなクルマの乗り心地を感じさせてくれる。因みに120kgの軽量化、先代の800kgから680kgへと引き下げられているもの。このクラスのクルマでこれだけの軽量化をすると普通は無理が出ると思えるのだが、実際色々とあらを探してみても、ほとんど見つからなかった。

例えば見た目のところで言えば、シートベルトアンカーを固定するナットがむき出しだったりとか、ホイールインナーの燃料のパイプラインがむき出しだったりとかいう部分。しかし、それらが現実的なネガ要素かと言われると、全くそうではなく、その分37%もの圧倒的燃費改善と、軽いがゆえの軽快な走りを得ることが出来、プラスの要素しか見つからない。

室内の広さには感心させられる。今回は例によって3人乗車を試してみたから、後席のインプレッションもある。そこで感じたのはやはり乗り心地の良さだ。突き上げ感はほとんど皆無に近く、ハーシュネスの収まり感は見事というほかはない。この軽さでよくもこれだけの乗り心地を実現したものだと感心せざるを得なかった。

一方でドライバーズシートでのインプレッションは、パフォーマンスの点ではパワーと排気量を考えれば、まずは及第点。音振対策についても相当にいろいろ省いているはずなのに、これなら十分及第点。ハンドリングは初期応答性が少々クィックで、これは男性ドライバーにとっては有難いセッティングかも知れないが、女性には少々ナーバスかもしれない。

そして一番気になったのはCVTのハンチング。これはアクセル一定で走っても走行感覚が一定せず、加減速を繰り返すような印象の状況を指すが、今回の試乗車の場合これがかなり激しかった。あとは、時速13km/hを切るとアイドリングストップモードに入るのだが、ブレーキの液圧が少しでも緩むと(即ちブレーキペダルの踏力が緩むと)すぐにエンジンがかかってしまうこと。これは以前からも指摘されていたものだが、改善されている印象はなかった。

とまあ、不満はこんな程度。確かに女性の女性による女性のために開発されたクルマかもしれないが、男性ドライバーでも恩恵はしっかりとある。しかし、カタログを見てもメカメカしい記述は一切なく、エンジントランスミッションが顔を出すページはただの1ページもない。

■5つ星評価
パッケージング ★★★★★
インテリア居住性 ★★★★★
パワーソース ★★★★
フットワーク ★★★★
おすすめ度 ★★★★★

中村孝仁(なかむらたかひと)AJAJ会員
1952年生まれ、4歳にしてモーターマガジンの誌面を飾るクルマ好き。その後スーパーカーショップのバイトに始まり、ノバエンジニアリングの丁稚メカを経験し、その後ドイツでクルマ修行。1977年にジャーナリズム業界に入り、以来37年間、フリージャーナリストとして活動を続けている。

《中村 孝仁》

中村 孝仁

中村孝仁(なかむらたかひと)|AJAJ会員 1952年生まれ、4歳にしてモーターマガジンの誌面を飾るクルマ好き。その後スーパーカーショップのバイトに始まり、ノバエンジニアリングの丁稚メカを経験し、さらにドイツでクルマ修行。1977年にジャーナリズム業界に入り、以来45年間、フリージャーナリストとして活動を続けている。また、現在は企業やシニア向け運転講習の会社、ショーファデプト代表取締役も務める。

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