【ホンダ N-BOXスラッシュ 試乗】他と一線画す、実力派純正オーディオ…井元康一郎

試乗記 国産車
ホンダ N BOX スラッシュ X
  • ホンダ N BOX スラッシュ X
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  • ハイパワーオーディオ「サウンドマッピングシステム」は上位グレード「X」に標準装備される

ホンダが昨年12月22日に発売した、スタイリッシュさを前面に押し出した軽トールワゴンモデル『N-BOX スラッシュ』を短時間テストドライブする機会があったので、ファーストインプレッションをお届けする。

スラッシュはFWD(前輪駆動)モデルで全高1670mmというトールワゴンスタイルだが、スペシャリティカー、デートカーのような性格づけがなされている。その演出のためのデバイスのひとつが、上位グレード「X」に標準装備されているハイパワーオーディオ「サウンドマッピングシステム」。

4スピーカー+4ツイーター+1スーパーウーファーの9個のスピーカーを瞬間最大出力360Wのパワーアンプでドライブ。さらに車体側もオーディオ効果を高めるため、普通車のようにルーフにも遮音材を追加するなど、“走るリスニングルーム”という仕立てにこだわったという。

試乗車のカーナビのハードディスクにインストールされていた女性ボーカリスト・絢香の歌、ジャズのテイクファイブ、パルシブなビートのハウスミュージックの3曲で性能を試してみた。

◆大音量でも“聴ける”高い許容性

まずはパワー感。これはベーシックカーにメーカーが標準装着するオーディオとしては申し分ない。360Wという軽自動車には過剰とも思えるピーク出力自体もすごいが、スピーカーユニット側の許容性もきわめて高いものだった。試しにオーディオカスタムカーファンがよくやっているように、オーディオのボリュームを最大に上げ、ハウスを流しながら走ってみた。FOSTEX製のバックローディングホーン型スーパーウーファーのパワーはすさまじく、バムバムというドンカマチックのビート音でシートがまるでボディソニックのように振動するほどだ。

サウンドデザインの悪いカーオーディオシステムだと、それだけボリュームを上げればうるさくてとても聴き続けられるものではないのだが、サウンドマッピングは低域から高域まできっちりフラットにキャリブレーションされており、大音量でも耳をつんざく轟音という感覚がないのが新鮮であった。また、大音量再生時も演奏のディテールはそれほど失われず、音楽としてしっかり聴けるのも美点であろう。

◆設計上の工夫で質を上げる

次に音像について。クルマのキャビンはスピーカーをリスニングに最適なように配置するのが難しいため、音の立体感を作るのは容易ではない。その難しさはN-BOX スラッシュも同様なのだが、フルレンジコーンユニットに加えて室内の四隅にツイーターを配置するという比較的簡単な手法で良好な音場を作り上げることに成功している。絢香の曲をかけると、左右からではなく前方から声が聞こえてくるようなイメージだ。ジャズのほうは上級ホームオーディオに比べると楽器の配置感は明瞭ではないが、カーオーディオとしてはプレミアムブランドも含めて比較しても上々の部類に入るだろう。

軽自動車用ユニットはコスト制約が厳しいため、カーオーディオのクオリティを上げるのは難しい。スラッシュもそこは悩みどころだったらしいが、スマホとのデータリンクが可能なヘッドユニットやオプションのカーナビのオーディオ部を、普通のプリメインアンプ(音楽の信号処理から出力増幅を1つのユニットで完結させる方式)ではなくプリアンプ(音楽の信号処理だけを行い、別体のパワーアンプでスピーカーをドライブできるように増幅する方式)として信号系の雑音を減らすなど、設計上の工夫で乗り切ったという。

◆ビジュアル面の演出が欲しい

もったいないのは、オーディオの設計の良さとリンクした視覚的演出が皆無なこと。特に内装オプションの「カリフォルニアダイナースタイル」や「テネシーセッションスタイル」でリスペクトされたアメリカ中西部のカルチャーは、東部13州のお上品さ、合衆国政府の統治圧力に対する反権力、野趣というファクターが色濃いのだから、メンフィスやニューオリンズのナイトクラブのような光の演出があってもよかった。

日本では絶版になってしまったクライスラーの大型ミニバン『タウンアンドカントリー(日本名:グランドボイジャー)』など、悪趣味になる境界をぎりぎりで見切って、素晴らしいアメリカ風のインテリアイルミネーションを実現させた先例もあるので、そういったものに学んでさらにカスタマイズしてほしいところだ。

◆他を寄せ付けない実力派

最後にライバル比較。サンプルオーディオを聴いた限りでは、軽自動車、サブコンパクトクラスでは他の追随をまったく許さない出来であった。コンパクトクラスからミドルクラスとの比較でも、純正オーディオ相手ではほとんどのモデルの上を行く。

オプションのプレミアムサウンドシステムも、マツダ『アクセラ』のBOSEサラウンドシステムのようにしっかり作ってあるものはいいが、高級車含め、ブランドロゴ以外は何の価値もないという雑な設計のものも多い。そのような“名ばかりのプレミアム”には十分に勝てる実力がありそうだった。機会を見てクラシックのオーケストラ、ソロ、モダンジャズ、メタルなど、幅広く聴いてみてあらためて資質を確認してみたい。

《井元康一郎》

井元康一郎

井元康一郎 鹿児島出身。大学卒業後、パイプオルガン奏者、高校教員、娯楽誌記者、経済誌記者などを経て独立。自動車、宇宙航空、電機、化学、映画、音楽、楽器などをフィールドに、取材・執筆活動を行っている。 著書に『プリウスvsインサイト』(小学館)、『レクサス─トヨタは世界的ブランドを打ち出せるのか』(プレジデント社)がある。

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