先代『アルトエコ』の魅力は徹底した軽量化をはかり、転がり抵抗を高めるためエコタイヤに空気をパンパンに入れても、乗り心地を犠牲にしていなかった点だ。新型アルトはあえて「エコ」の冠を外したものの、中身はアルトエコの進化版。最大のハイライトはFF/CVT車同士で先代比60kgの軽量化を、全高を45mm低め、燃料タンク20Lから27Lへの増量(重さ5kg増し)を行いながら果たしたことと、R06Aエンジンを軽量コンパクト化したことなどで、“量産ガソリン乗用車燃費世界一”をうたってきたHVの『アクア』と同じ37.0km/リットルの超絶な燃費性能を純ガソリン車で達成したことだ。しかしながら、燃費を追求していくと、ある程度乗り心地が犠牲になる。多くの燃費自慢のコンパクトカーなどもそうだ。ところが、新型アルトは新開発プラットフォームの採用、曲げ、ねじれ剛性先代比30%の向上などによって、乗り心地に定評ある先代をしのぐ乗り心地と操縦性のバランスを実現したのだから驚きだ。さて、スタイリングは、今では『ワゴンR』に代表されるハイト系、『スペーシア』などがひしめく容量系の陰に隠れた感ある軽セダン系の復権を目指すべく、顔つきやリヤセクションに特徴を持たせたものに大変身。パッケージングも進化し、エンジン、エンジンルームのコンパクト化で前席を前に、後席を後ろ寄りにセットすることが可能になった。全高を低めたことで前席頭上で45mm、後席頭上で25mm狭まった(実測値)ものの、後席ひざ回り空間は身長172cmのドライバー基準で先代の140mmからLLクラスミニバンの現行『エルグランド』2列目席同等の430mm!! まで拡大。大人が足を組めるどころじゃない、驚愕の広さなのである。おかげで後席は座面長が伸ばされ(シートバック高も)、掛け心地も向上。ヘッドレストが装着されないグレードは別として(F/Lグレード)、Sグレード以上なら後席にしっかり快適に座れる軽セダンになったと断言したい。エンジンの動力性能は先代と同じ。が、60kg軽量化された分、加速性能に余裕がでるのは当然の理屈。今回、ミッションはCVTが基本。そしてスズキらしい5MT、先代4ATの代わりとなる、『キャリイ』で一足早く採用されたシングルクラッチのセミAT=AGSをベースグレードのFに用意する。タイヤサイズは145/80R13が基本で、最上級グレードのXのみ165/55R15となる。ここではFF/CVTの最上級Xグレードを試乗した。開発陣は60kgの軽量化で大人4人が乗車しても、先代同等の加速力、軽さ感がある…と説明する。が、正直、それほどでもなかった。確かに出足はスッと前に出るのだが、エンジンのノイズ、回転フィール、加速感がいかにも3気筒感あるもので、そう感じにくいのだ。例えばプジョー『308』が軽量化された分以上に走りが軽く感じられるのは、機械のスムーズさ、回転部分の軽さを伴っているからだ。とはいえ、60km/hあたりからの再加速ではさすがに軽さが出てくる。軽さ感を削ぐノイズなり、振動が走行ノイズなどによって打ち消されるからかもしれない。もちろん、加速性能で先代CVT車を上回ることは間違いない。また、静粛性も優秀。60km/h巡行時に聞こえてくるのはロードノイズのみ、という具合なのである。全高、重心が下がった結果、フットワークもレベルアップ。姿勢変化はごく少なく、カーブではじんわりロールする安定感の高さ、マナーの良さを披露。パワステはスイフト譲りの操舵(そうだ)力可変タイプがおごられるが、重くなったシーンで「ちょっと重すぎか?」という印象があった。もっとも感動したのは、だから「軽さ」ではない。むしろ乗り心地である。15インチタイヤの空気圧が240kPaと適切なのもあるが、とにかくボディーがしっかりしていて、段差やキャッツアイ、ゼブラゾーンの乗り越えでも不快なショック、ボコボコした低級音、振動がほとんど伝わってこない。下手なエコスペシャルコンパクトカーよりはるかに快適なのである。街乗り試乗での実燃費は25km/リットル前後(写真参照)。郊外ならそれ以上行くと予想できる。実燃費もまた、アクア同等ということだ。アクアと並び、世界のクルマの中で、もっともガソリンスタンドに行く頻度が少なくなる可能性がある1台であり(燃料タンクも増量された)、純ガソリン車としてこれはもう、快挙、実用車の鏡と言っていい。■5つ星評価パッケージング:★★★★インテリア/居住性:★★★★パワーソース:★★★★フットワーク:★★★★オススメ度:★★★★ペットフレンドリー度:★★青山尚暉|モータージャーナリスト/ドックライフプロデューサー自動車雑誌編集者を経て、フリーのモータージャーナリストに。自動車専門誌をはじめ、一般誌、ウェブサイト等に執筆。ペット(犬)、海外旅行関連の書籍、ウェブサイト、ペットとドライブ関連のテレビ番組、イベントも手がける。現在、犬との自動車生活を提案するドッグライフプロデューサーとしての活動も広げている。
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