【HV U-Car 最前線】「無理だ」…それでも社内を説得して実現させたハイブリッド機構保証

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トヨタ自動車 U-Car事業部 T-Valueプロジェクトリーダー 天野成章氏
  • トヨタ自動車 U-Car事業部 T-Valueプロジェクトリーダー 天野成章氏
  • T-Valueでは専用の機材を使い徹底的にクリーニングする
  • ハイブリッド診断書を出して、ハイブリッド機構にまつわる不安を取り除く
  • U-Carの品質を見極める査定士の役割も重要だ
  • トヨタ自動車 U-Car事業部 T-Valueプロジェクトリーダー 天野成章氏

新車販売台数の大幅な増加が期待できない国内市場にあっては、保有ベースのビジネスが鍵になる。各メーカーは車検入庫やU-Carでのバリューチェーンでのビジネス機会増大にリソースを投下している。その一例が、トヨタにおけるU-Car施策である「T-Value」だ。

メーカーがU-Car(中古車)事業に力を入れるのはなぜか。そして、販売の主力を占めつつあるハイブリッドU-Carの商品力をいかにつけていくのか。トヨタ自動車 U-Car事業部でT-Valueプロジェクトリーダーを務める天野成章氏に聞いた。

◆U-Carの品質を揃えて信頼を勝ち取る

---:まずはT-Valueを始めたきっかけからお伺いします。

天野:適正価格が不明瞭だったり修復歴が分からないなど、中古車業界はグレーなイメージがあります。これに対し、トヨタの販売店が売っているU-Carは「ちょっと高いけれど信頼できる」という印象を持たれていました。ですが、それら280社ある販売店さんがそれぞれ独自の努力で販売されていたわけです。

そんな中、食品の偽装などが社会問題化されるような時代となり、安心・信頼を求める人がどんどん増えてきました。もともとトヨタのU-Carには1年間走行距離無制限の「ロングラン保証」やルームクリーニングなどもやっていましたから、そうしたトヨタ販売店さんの強みを際立たせるようなものが必要ではということでT-Valueを立ち上げたのです。

---:T-Valueの導入によって、一物一価と呼ばれる中古車の品質をできるだけ均質化することで、信頼性を高めようとした、と。

天野:専用の洗浄機で内外装を徹底的にキレイにする「まるごとクリーニング」をするのもトヨタ販売店ならではのスケールメリットを活かしたもので、シートのクリーニング機材は、T-Valueの商品化工場には全て入れています。このあたりは専業店との差別化を図りました。車両検査証明書も、トヨタが認定して、きちんと試験を受けて資格を持った検査員によるものです。U-Carを安心、信頼し、納得して買ってもらえるようにしたいということなんです。

◆トヨタ認定検査員制度を設け販売店の査定士を鍛える

---:検査員の認定を受けるには何らかの試験をパスすることが条件なのでしょうか。

天野:初めて認定を受ける方は、まず導入テストに合格する必要があります。このテストの合格率は4割と厳しいものです。さらに認定後は、どんなに優秀な検査員であっても3年に1回は更新テストを受けてもらうんです。安心・信頼をうたう以上、高い査定のスキルを持ったプロに検査してもらうためです。

---:T-Valueはその後、T-Valueプレミアム、T-Valueハイブリッドと拡充していきますね。

天野:T-Valueプレミアムは少ない走行距離・高年式の高級車が中心で、中古車のなかでもとくに品質に自信のあるいわば「上澄み商品」という位置づけです。また、T-Valueハイブリッドは時代の趨勢でしょう。U-Carを買われるお客様にとっては初めてハイブリッドに触れる機会になる方が多いはず。調査をかけると、そうした人たちはやはり万が一の故障時の修理代金に不安があることが改めて分かり、トヨタのハイブリッドカーに安心して乗っていただけるようにハイブリッド機構の10年保証を思いついたんです。T-Valueハイブリッドはこの春からスタートしました。

スピード感をもって実行に移したT-Valueハイブリッド

---:ハイブリッド機構にも長期の保証を、というアイディアはいつ思いついたのですか。

天野:昨年の3月末のことです。

---:1年前ですか! 自動車メーカーらしからぬスピード感ですね。

天野:4月に企画書を書いて8月9月に調査をしたり社内でのヒアリングし、10月には販売店さんに話をして今年4月には始まりましたから、たしかに、スピード感がありましたね。社内では無理だという声も多かったのですが、品質保証部門やサービス部門などにも説得して回り、販売店からの「ハイブリッド機構保証は武器になる」との後押しなどもあっての実現でした。

---:ハイブリッドの販売台数割合も年々増えていることから、これからハイブリッドU-Carはますます増えることは確実です。今後の展望は。

天野:T-Valueを販売店へ浸透させることはもちろんですが、お客様にもさらによく知っていただくことに取り組みたいですね。認知度アップだけでなく、T-Valueがどういうものかを理解してもらえれば。これらを地道に切り開きながら、お客様がどこのトヨタ販売店さんに行ってもT-Valueの説明をきちんと受けることができて、納得して買えるようにできればと思います。中古車というのは価格の受容性や修復歴の有無などがお客様にはわかりにくくややグレーな業界というイメージもあるかもしれませんが、T-Valueを通じて誰もが安心・信頼してトヨタのU-Carを買えるものにしたいのです。

《嶽宮 三郎》

《まとめ・構成 北島友和》

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