【池原照雄の単眼複眼】日野、EVトラック普及への現実的アプローチ

エコカー EV
ヤマト運輸、日野、トヨタによるEVトラックの実証車両
  • ヤマト運輸、日野、トヨタによるEVトラックの実証車両
  • 日野が開発した実証運行用のEVトラック
  • 日野が開発したEVトラックの荷室内部(冷凍・冷蔵仕様)
  • 日野EVトラックシステムレイアウト
  • 日野EVトラックシャシ

異例のFF方式で軽量化を図る

積載量1トンの小型トラックのEV(電気自動車)が、間もなく東京で走り始める。日野自動車がトヨタ自動車と協力して開発し、宅配便最大手のヤマト運輸と実証運行を行う。わずか2台からの発進となるが、使われ方を徹底追求したEVトラックができあがった。輸送分野でのゼロエミッション車普及への有効なアプローチとして注目されるだろう。

実証運行は、東京の板橋区と町田市にあるヤマトの営業所で約1年間行う。車両は日野およびトヨタブランド各1台で、ヤマトは冷凍・冷蔵庫などを備えた「クール宅急便」用のトラックとして使う。

この車両のベースとなったのは、日野が2011年の東京モーターショーに『日野 eZ-CARGO』として参考出品したバンタイプのコンセプト車。出品時は実物大の「模型」状態だったが、1年余りで実際に市街地を走るEVトラックに仕上げた。

最大の特徴は、軽量化による航続距離の確保を図るため、トラックでは異例のFF(前輪駆動)方式にしたことだ。現行のFR(後輪駆動)トラックでは、前部に置いたエンジンの動力をプロペラシャフトという長くて重いパイプ状の部品で後輪に伝えている。

バッテリーはリーフよりちょっと多めのレベル

プロペラシャフトが不要になると、軽量化だけでなく荷室の床を低くできるというメリットももたらす。このEVトラック用に開発した新プラットホームは、荷室床面までの地上高が440mmと、まさに「超低床」を実現した。現状のエンジントラックのほぼ半分であり、荷室にはツーステップだったのがワンステップで入れる。

低床化により、荷室内は人が立って作業できる1.8mの室内高を確保し、かつトラックとしての全高は2.3mと低い。一般的な地下駐車場に入ることのできる高さだという。

搭載するバッテリーはリチウムイオン電池で、容量は28kWh。日産自動車のEV『リーフ』の24kWhにちょっと足した程度だ。これで、冷凍装置などを搭載しない場合だと、満充電から100km程度走ることが可能という。

使われ方からコンセプトをしっかり定める

日野がこのEVのコンセプトモデルを出展した2011年の東京モーターショーでは、三菱ふそうトラック・バスが、その時点で実走行可能な小型EVトラック『キャンターE-CELL』を出品していた。搭載したリチウムイオン電池は40kWh、満充電からの走行距離は約120kmだった。既存のトラックをベースにしたEVのため重めであり、バッテリーの単位容量当たりの走行効率は、まだ改良の余地がある。

もっとも、日野のEVも実証用車両は冷凍装置などを積んでいるため、100km走行とはいかない。同社の遠藤真専務は「夏場に冷凍装置や運転室のエアコンなどを効かせた状態でも20kmないし30kmは走行できる」性能の確保を目指したという。走行距離が限られる市街地集配車という明確なコンセプトで開発を進め、バッテリー容量は割り切って少量にした。

使う側のヤマトは「超低床など、EVならではの新しい価値が加わっており、市街地での集配の作業効率向上に期待したい」(芦原隆執行役員)とし、航続距離も問題ないだろうと見ている。EVに限らず次世代車の普及には、コストやインフラといった課題が付きものだ。それらを克服して前進するには、より明確な使われ方をイメージした車両開発が重要と改めて考えさせられる。

《池原照雄》

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