【インタビュー】通信モジュールを必須としないPHVテレマティクス…トヨタ自動車 友山茂樹常務役員

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トヨタ自動車 友山茂樹 常務役員
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1997年12月「21世紀に間に合いました」の言葉とともに初代プリウスは誕生した。その予言通り、今世紀のクルマに求められる最大の要素は「環境性能」になった。2011年、プリウスはさらなる進化を遂げて、HVとEVのハイブリッド「プラグインハイブリッドカー」になった。新たに投入されたプリウスPHVは、電気インフラとの連携が果たされて環境性能の底上げが行われた。

そして、もうひとつ。トヨタはプリウスPHVの投入にあわせて、"情報性能"の部分でも新たな一歩を踏み出した。PHV専用のテレマティクス「PHV Drive Support」の導入である。

トヨタはこの新たなテレマティクスサービスにどのような狙いを込めたのか。トヨタ自動車 常務役員の友山茂樹氏に聞く。

■PHV Drive SupportはなぜG-BOOKではないのか

-----:プリウスPHVでは「PHV Drive Support」というサービスが用意されますが、なぜ従来の「G-BOOK」とは異なる名称にしたのでしょうか。

友山茂樹常務(以下敬称略) G-BOOKはGPSを利用するカーナビの支援サービスです。PHV Drive Supportは、トヨタのPHVをすべてサポートするサービスという位置づけですので、あえてG-BOOKとは分けているのです。

-----:PHVの基本的な機能、サービスがPHV Drive Supportである、と。

友山:そうです。ですから、プリウスPHVはすべてPHV Drive Supportが標準装備としてついてきます。その上で、お客様がG-BOOK対応カーナビを搭載していただくと、(PHV Drive Supportに加えて)G-BOOKもご利用いただけるという形になります。

-----:G-BOOKの延長線上ではなく、まったく新しい情報プラットフォームとしてPHV Drive Supportを作ったのはなぜなのでしょうか。

友山:トヨタでは、次世代環境車の主流はプラグインハイブリッドカーになると考えています。そして、こういった次世代環境車を購入する方は、とても環境意識が高い。であれば、彼らに(新しいエコカーである)プラグインハイブリッドカーを最大限に活用するための情報サービスを標準でつけるべきだと考えたのです。

-----:カーナビが標準装備のレクサスの「G-Link」と異なり、G-BOOKはトヨタのカーナビをオプションで選んだ人の情報サービスとなっている。だからこそ、G-BOOKではなく新たなPHV Drive Supportとして標準搭載にこだわる必要があったわけですね。

友山:PHVの場合は、お客様の利用方法によって実際の燃料消費も大きく変わります。例えば、先に行われた豊田市での実証実験では、PHVでとても高い燃費が出る人もいれば、一般的なハイブリッドカーと同等の燃費しか出ない人もいました。PHVの性能をしっかりと引き出す使い方を是非していただきたい。そこでPHV Drive Supportを標準装備にし、すべてのドライバーを支援していく必要があるという判断になりました。

------:PHVは新たなクルマですので、使い方に対する「啓蒙」と「支援」が必要なのですね。

友山:ええ、その一環として投入したのが「オーナーズナビゲーター」です。これはiPadなどタブレット端末やPCから利用するアプリケーションですが、ここではプリウスPHVの納車前に、クルマの特性や効果的な使い方を知っていただくためのコンテンツを用意しています。

-------:G-BOOKなどのテレマティクスは基本的に"納車後に利用してもらう"ものですが、PHV Drive Supportの提供は"購入検討段階"や"納車前"から始まるわけですね。

友山:その時期がいちばん新車に対するモチベーションも高いですから、積極的に学んでもらうには最適なのですよ。

-------:PHV Drive Supportでは、SNSの「トヨタフレンド」搭載やFaceBook連携などソーシャル関連の機能も充実していますが、オーナー同士の情報交換やコミュニティ形成を誘発するような仕組みは用意されるのでしょうか。

友山:現時点ではありませんが、将来的には考えていきたいですね。

◆バッテリーと充電拠点に対する戦略

------:実際にPHVを購入したあとのサービスは、リモートでPHVの状況を確認する「eConnect」、「バッテリーいたわりチェック」や「充電サービス」などが特徴的ですね。

友山:充電関係のサービス拡充はこだわった部分です。例えば、充電サービスでは、ディーラー設置のG-Stationから3年間無料で1時間の充電を受けることができます。

-------:G-Stationの展開はトヨタ車ディーラーが基本、ということになるのでしょうか。

友山:ええ、無料の充電サービスについては、現時点では『トヨタ車ディーラーのみ』という形で考えています。しかし、コンビニエンスストアやスーパーなど他のリテーラーにつきましても、すでに大きな引き合いがきています。将来的には異業種のビジネスとのアグリケーションというのはあり得るでしょう。(提携先の)会員サービス連携などは十分に考えられると思います。

-----:将来的な設置箇所拡大の計画はいかがでしょうか。

友山:2012年3月末までに1500ヶ所を設置します。その後も順次設置していく計画です。また、G-StationではWi-Fiスポットのサービスを展開する計画です。G-Stationは充電の拠点というだけでなく、情報通信インフラとしての役割も持っているのです。

-------:トヨタ車ディーラーで無料充電サービスを行うというのは、ディーラー側の入庫率向上を狙ってのことなのでしょうか。

友山:まずはお客様の利便ですが、ディーラーにとっても年に2回の入庫をしていただくと次回買い換え時の再購入率が30%ほど向上するというデータがあります。また、ディーラーに頻繁にきていただくことで、PHVに関するサポートやアドバイスも提供しやすくなります。

------:PHVでは従来以上に、ディーラーとユーザーが"つながる"わけですね。ところで今回のサービスの中には、「バッテリーいたわりチェック」というものもあります。これは具体的にどのような狙いで導入されるのでしょうか。

友山:プリウスPHVはリチウムイオンバッテリーを搭載していますが、このバッテリーは特性上、分解してリサイクルすることが難しい。ですから、あらかじめリユースを考えなければなりません。このリユースを前提にしますと、バッテリーの利用履歴を残しておきたい。リユースされる時期が、7年後なのか10年後なのかはわかりませんけれども、今から履歴管理を100%行っておくことに意味があるのです。さらにリチウムイオンバッテリーですと、(従来型のニッケル水素バッテリーよりも)使用状況による寿命や性能の変化が大きい。できるだけバッテリーをうまく使っていただくためにも、テレマティクスの活用が必要なのです。

◆なぜ、DCM標準搭載にならなかったのか?

-----:さて、ここで疑問なのが今回のeConnect利用において、クルマ側に車載通信モジュールの「DCM」が標準装備になっていないことです。

友山:ご指摘のとおり、今回のプリウスPHVはふたつの通信方式になっています。ひとつは「DCM」方式で、こちらは内蔵通信モジュールを用いて常にセンターと通信ができるようになっています。もうひとつが「CAN-BT」方式で、Bluetoothでお客様のスマートフォンとつながり、そこ(スマートフォン側)からPHV Drive Supportのセンターと通信します。

-----:リモートでの充電状況把握や(スマートフォンからの)リモートエアコン(編集部注:標準装備のワイヤレスキーにもワイヤレスドアロックと同じ検知範囲でのリモートエアコン機能が付いている。)はDCM方式のみが対応になっていますね。それならば、なぜDCMを標準装備としなかったのでしょう?

友山:これがレクサスならば、当然ながらDCMが標準装備ということになりました。しかし、プリウスPHVはすべてのお客様にPHV Drive Supportを提供する一方で、多くの方にお買い上げいただける価格帯も用意しなければなりません。そういった背景もあり、DCMはメーカーオプションナビとのセットオプションとなりました。一方のCAN-BT方式は、スマートフォンを意識した普及型のテレマティクスサービスと言えます。

-----:CAN-BTはスマートフォンを介して通信をするのでしょうか。

友山:CAN-BTはクルマのパワースイッチをオフにする際に、CAN情報をスマートフォンに転送し、そこからセンターに情報を送ります。(高燃費運転に必要な)基本的なサービスはきちんと提供されます。他方で、クルマから離れた場所でも充電状況がわかるなどの違いがあるDCM版はより高級なグレードという位置づけになり、PHV Drive Supportの利用料だけでなく、通信料も3年間無料という扱いになります。むろん、G-BOOKのフル機能も提供されます。

-----:トヨタでは将来的にスマートグリッドの構想も持っていますが、その際に常時通信が可能なDCMが標準装備になっていないということは不利な要因にならないのでしょうか。

友山:そこは考えられています。CAN-BTでも駐車して充電ケーブルを接続したタイミングの電池情報は、スマートフォン経由でセンターに送られます。その後の充電情報は各戸に設置されたH2Vマネージャー経由でトヨタスマートセンターが把握できます。

-----:なるほど。家にいる間は、クルマは通信する必要はないのですね。センターとつながる必要があるのは、充電管理を行うために宅内に設置されたH2Vマネージャーの方である、と。

友山:そのとおりです。むろん、DCMがあれば常時接続ができるのでメリットはあるのですが、そうすると通信キャリアに支払う基本料や通信料が発生してしまう。このコストはユーザー側にはねかえるわけです。であれば、少しでも多くの人にPHVを買っていただくために、実用性に支障のない範囲での普及モデルの設定が必要だと考えたのです。

------:普及モデルでも通信モジュールを使うという観点では、ホンダのインターナビが「リンクアップフリー」という形で実現していますが。

友山:単なるエコドライブ支援のためだけに使うということでしたら、安価な通信モジュールで普及価格帯でも標準装備していくという方法論は確かにあるのかもしれません。しかし、我々は通信モジュール搭載の意義として、「安心・安全」をまずは掲げています。エアバッグ連動の緊急通報サービスなども実現することを考えますと、通信モジュールにもきちんとした品質や信頼性が必要です。DCMはまさにそれを実現しているわけですが、そうしますと"通信モジュールを安く標準搭載する"というのは難しくなります。

------:今回、CAN-BT方式を新開発したのは、DCMとの役割の違いや、今後さらに普及価格帯のPHVが出た時にも対応できるように、ということでしょうか。

友山:そう、今後のPHVでは"つながらない"というのは考えられません。その上で、将来、コンパクトカークラスまでPHVを普及させていこうとすると、DCM方式だけでの展開というのは商品設定上むずかしい。また、PHVをグローバル展開していく上でも、キャリアとの共同開発が必須のDCMだけですと、不利な面があります。

-----:ところで、CAN-BTの通信部分を、BluetoothではなくWi-Fiにするという方法は検討されなかったのでしょうか。スマートフォンとつながるのでしたら、今だったらBluetoothよりWi-Fiの方が有利な面もありますが。

友山 するどい指摘ですね (苦笑)。ただ、現時点でいいますと、トヨタが考える車載条件に見合うWi-Fiモジュールが見つからなかった、というのが答えになります。ただ、近い将来は、クルマと"つながる"部分の無線通信は、Wi-Fiが主流になっていくと考えています。実際、H2VマネージャーにはWi-Fi機能を持たせていますし、G-StationにもWi-Fi機能があります。

-----:先ほどG-Stationについては、トヨタの情報インフラのひとつとおっしゃっていましたね。

友山:これはセキュリティ技術の確立とセットで行っていきますが、将来的にはG-StationとPHVがWi-Fiでつながり、地図の更新や車載ソフトウェアの更新を(G-StationのWi-Fiインフラを通じて)行うことを考えています。これは2013年から2015年にかけて、段階的に実現していきたいですね。

-----:カーナビの部分でお聞きしたいのですが、PHV時代になりすと、カーナビからできるエネルギー効率の向上領域はさらに広がりそうです。最適なルート設計が変わってくると思います。

友山:その通りだと思います。カーナビとテレマティクスを駆使してルートや充放電タイミングの最適化を行えば、数%のエネルギー効率向上の効果は出ると思います。そして、そういったドラスティックな制御がしやすいのは、EVよりもPHVの方なのです。近未来のメーカー純正カーナビというのは、今よりももっとスマートになり、ナビ機能そのものがひとつのコンテンツになるでしょう。例えば、オーナーの利用スタイルをDCM経由で自動的にセンターに蓄積し、何も操作をしなくても"平日であれば、会社までの最適なルートを自動設定し、最適なエネルギーマネジメントを行う"。そういった世界になると思います。

◆テレマティクスはドライバー支援から次の段階へ

-----:PHV Drive SupportではiPhoneをはじめとするスマートフォン連携の機能を強化しています。しかし、その一方で、過去のプリウスオーナーは中高年層が多い。現在のスマートフォンの主なユーサー層は20~30代であり、プリウスの顧客層との間には年代的なミスマッチがあります。せっかくスマートフォン向けにPHV Drive Supportのサービスを展開しても、プリウスPHV購入者の多くは従来型の携帯電話しか持っていない、ということも考えられるわけです。

友山 :確かにスマートフォンは普及途中にありますが、国内で考えれば、トヨタ系列の販売店でも(auの販売代理店として)iPhoneやAndroidのスマートフォンを扱っています。ですから、プリウスPHVを購入し、PHV Drive Supportを使う際には、従来型のケータイからiPhoneなどスマートフォンに買い換えていただくことをお勧めしていきます。

-----:あえて従来型のケータイには対応しない、と。

友山:これからのことを考えれば、そうなります。またPHVのグローバル展開を考えても、(海外市場とプラットフォームの共通性がある)スマートフォンを軸にサービス展開をしていく方が理にかなっているでしょう。

-----:しかし国内市場での販売で考えた場合、当面のPHVの購入は「持ち家・自宅車庫」が前提ということになります。となると、やはりプリウスPHVの購入者層があがってしまいます。この層へのスマートフォン浸透度を考えますと、スマートフォン連携機能がどこまで使われるか不安が残ります。

友山:確かにそういう見方はあるでしょうが、我々としてはプリウスPHVはこれまでより幅広いお客様にご購入いただるのではないかと期待しています。さらにPHVのようなスマートなクルマを購入して使いこなそうと思う方は、ケータイもスマートフォンにもチャレンジしていただけるという期待もあります。

-----:今回、PHV DriveSupportによってトヨタの考える「つながる世界」がまた一段、ステップアップしました。今後、その世界はどのような方向に進んでいくのでしょうか。

友山:これまでのテレマティクスサービスというのは、「安心・安全」や「運転支援」といったドライバーサポートに重点が置かれたものでした。しかし、PHVから、テレマティクスは社会や住宅と一体となって価値を生み出すものになっていきます。今後のクルマは単なる移動手段ではなく社会システムを構成する重要な要素であり、そこに新しいモータリゼーションがあると言えるでしょう。クルマは電動化とIT化でコモディティ化してつまらなくなるという声もありますが、PHVでは新しい楽しさを追求していきたい。PHV Drive Supportはそれを実現するためのものです。

《神尾寿》

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