下期業績は実質下方修正相次ぐ
タイの洪水による生産減が回復途上にあった自動車メーカー各社の業績に、まさに冷水となって襲いかかっている。1日までに第2四半期決算を発表した5社のうち、通期の営業利益予想を上方修正したのは軽自動車販売が好調なダイハツ工業のみ。据え置いた3社の上期業績は従来予想を上回っているので、下期は実質下方修正となる。タイの4輪車工場が水没しているホンダは、従来予想をご破算にして未定とした。
ただ、東日本大震災の時のように部品供給網が広範かつ長期に痛むことはなさそう。決算発表時の各社首脳の説明からはタイ工場での生産再開時期が、おぼろげながら見えてきた。復旧に時間を要すホンダを除けば、11月中がひとつのメドとなりそうだ。
三菱自動車工業の益子修社長は、部品の制約で生産が止まっているタイ工場について「(10月中旬から)1か月半程度のライン休止も視野に入れていく」という。11月いっぱいは、再開が難しいかもしれないという見方だが、逆に見れば部品調達は同月中には何とか復旧できるのではとの観測である。
◆大震災時のように時間はかからない
日野自動車の白井芳夫社長は、部品の欠品問題が11月中に収束すれば「今年度の業績見通しは達成可能」と話す。具体的な復旧時期への見解ではないものの、「部品の手当ては、大震災の時のようには時間はかからないだろう」と見ている。
11月に入り雨季は終了する。部品メーカーを含め「新たな浸水被害は出ない見込み」(トヨタ自動車幹部)という。ホンダ以外の各社の組立工場は、浸水などの被害は受けていないので、生産が停止している部品メーカーの復旧とともに、再開への展望が開けてくる。
各社はクリティカルな状態に陥っている部品について、当該部品メーカーとともに復旧の手立てを1点1点進めている。例えば金型が水没している場合は、新規発注するか、水がひいた後に使える可能性が高いのでそれを待つかといった具合だ。
ホンダは自社工場の一部設備について、耐水性能がどの程度あるか、同一設備を使って「水没試験を行っているものもある」(池史彦専務執行役員)という。
◆ホンダ、問題部品は数点に絞られる
問題となる部品は、大震災の時と同じように電子部品が中心となっているものの、当時とは相当事情が異なる。ほとんどの部品メーカーは日系企業なので、日本にマザー工場があり、またアジア周辺国でも代替生産が可能なケースが多いのだ。
ホンダの場合、問題となりそうな部品は「数点に絞られるだろう」(池専務)と見ている。同社は、むしろ自社工場の復旧が最大の課題となる。池専務は「下半期はほとんどダメな状態が続くのでは」と、長期化を覚悟している。タイ工場の能力は年24万台であり、仮に今年度末まで止まると、単純計算で12万台規模の影響が出る。
加えて、タイ製部品の調達が途切れることにより、日本など同国以外の生産拠点への波及も始まっている。これは各社共通の事象だ。ただ、それでもホンダのアジア地域での影響は「最大12万台プラスアルファ」(同社関係者)と見ることもできる。
その一部は期末に向けて挽回生産も可能だろう。なお予断は許さない情勢だが、日本の自動車産業全体では、この洪水ショックの影響は軽微に抑えることができるのではないか。懸命の作業を続ける関係者の頑張りに期待したい。