1 | エコ時代のカッ飛び屋 |
2009年フランクフルトモータショーでワールドプレミアムされたフォルクスワーゲン『ゴルフR』新型が日本に上陸した。コンパクトな2リットルエンジンで、ゴルフ史上最強の265馬力を発しながら、12km/リットルを超える低燃費がアピールポイント。
後ろから迫ってくるゴルフのフロントバンパー下に大きな3分割のエアインテークを認めたら、ゴルフRなので先を譲ったほうがよい。後姿のセンターの2本出しのエキゾーストマニホールドが駄目押しをしてくれる。フロントのエアインテークやアルミホイールが、以前のポルシェ『911カレラS』に見えるのはウイットかもしれない。
ボディサイズは、全長4220mm×全幅1790mm×全高1490mm、車両重量は1530kg、そして車両価額は504万円となっている。「ゴルフGTI」比較で、全長が10mm、全高35mmと変化は僅かだが、車両重量は240kg、価額は139万円もアップしている。
運転に神経を集中するスパルタンなクルマなら、運転以外での些細なことは気にならない。しかし、神経質なクラッチミートもない2ペダルMTの安楽ゴルフRでは、内装のプアーさを発見する暇を与えるなど、コンセプトの曖昧さを感じさせる。高額を納得するのは、エコ時代のカッ飛び屋を標榜するゴルフRに敬意を払う人に限られそうだ。
2 | クルマ好きは判官贔屓 |
30年ほど昔のことだが、ドイツのアウトバーンでポルシェ、BMW、そしてメルセデスなどが、追い越し車線を走る庶民のクルマをパッシングで蹴散らしながら、淡々と走っていたのが、印象深かった。アウトバーンは、高価な高速車の独壇場であり、桧舞台でもあったのだ。
そんな時代に、国民車を意味するフォルクスワーゲンの「ゴルフGTI」がアウトバーンの追い越し車線に割って入ったのは、嬉しい出来事であった。ヨーロッパの人が「GTI」と言うとゴルフGTIを指すといわれるように、このネーミングに特別の愛着が湧くのは、そんなエピソードによるところもある。
1976年に誕生したが初代ゴルフGTI は、日本には正規輸入されなかった。当時のクルマ好きは、大枚300万円をはたいて並行輸入で入手するなど、日本での初代ゴルフGTIの人気の高さを、窺い知ることができる。
強いものへの憧れや賞賛は、生き物の本能だが、弱いものが頑張るのを目にして応援したくなるのは、日本人の特性であるような気がする。しかし、日本人の好む言葉である判官贔屓の気持ちは、クルマ好きにとっては世界共通なのかもしれない。
3 | 優等生カーメーカーへの期待 |
昔からカーメーカーは、自社の製品の性能や安全性を高めて、顧客の信頼に応える努力をしてきた。このようなメーカーの自発的な努力とは違って、法的な規制として有名なのが、アメリカで1972年12月に改定された大気汚染防止のための「マスキー法」であろう。
この法案は、実施に至らず廃案となるが、このような法的な規制は、工業化が進むに従って、クルマ固有のものではなく、多くの製品、食品、さらに工場等にも広まっている。科学技術の普及が人々への恩恵をもたらすだけではなく、人や、自然への弊害が明らかになってきたからだ。
法規制に則った衝突安全、低燃費、そして有毒排気ガスの低減を図りながら、走る楽しみの実現に努力しているのが、カーメーカーの近況といえる。結果として、安全性の確保のための車両重量増加と、それに対応した高馬力、大排気量エンジンのクルマが多くなっている。
このような時代に逆らって、ゴルフRではエンジンをサイズダウンし、エコ時代の優等生カーメーカーとしての姿勢を明らかにした。しかし、「R」を冠するクルマなら、車両重量についても踏み込んで、初代GTIのように、周りのクルマをブッちぎるのが、開発者の本音だと期待したい。
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