3 | 世紀末の輝き |
SUVのイメージは、日本では仕事で山岳を走破するクルマであり、欧州では貴族が原野で狩をするためのクルマを指す。実際のSUVは、前述の通りスポーツ・ユーティリティ・ビークルの略称で、アメリカのライフスタイルから生まれたクルマなのだ。そんな訳で、日欧の生活観からは、SUVについてのリアリティが持てないのも仕方がない。
広大な国土で繰り広げられるアメリカ人のライフスタイルを想像すると、大げさなタイヤや、豪華な室内、何よりも巨大なボディサイズについても理解が可能となる。さらに、セカンドカーとして生活に馴染んでいたピックアップトラックの発展型だと分かると、さらに納得がいくというものだ。
アメリカらしさを謳歌したフルサイズSUVもこのようなライフスタイルから生まれたが、欧州的な価値観の広まりによって、現在ではすっかり影を潜めてしまった。エコロジーなど欧州的な価値観の深まりによって、SUVはリーズナブルなボディサイズとデザインで生き残るか、或いは消滅するかの選択を求められそうだ。
世紀末とは、繁栄した時代の終末の退廃と爛熟と、終わろうとする時代に対する興奮や変化への切望が渦巻く時代を指す言葉だ。多様なSUVの誕生を、世紀末の状況と見立てて、その輝きを享受するのも楽しみ方の一方法かもしれない。
D視点: | デザインの視点 |
筆者:松井孝晏(まつい・たかやす)---デザインジャーナリスト。元日産自動車。「ケンメリ」、「ジャパン」など『スカイライン』のデザインや、社会現象となった『Be-1』、2代目『マーチ』のプロデュースを担当した。東京造形大学教授を経てSTUDIO MATSUI主宰。【D視点】連載を1冊にまとめた『2007【D視点】2003 カーデザインの視点』をこのほど上梓した。