音響技術のメーカーXperiは2025年10月に開催された「ジャパンモビリティーショー2025」において、IMAXシアターに準じる音響体験を車内で体験できる「RIDEVU(ライドビュー)」アプリの展示を行った。
従来の自動運転時代のコックピットエンタテイメントの可能性を感じさせるものだった。
◆メルセデスベンツ車内でIMAXシアターを体感する
展示会場に設置されたメルセデスベンツ『Eクラス』の車内で、映画『スパイダーマン:ファー・フロム・ホーム』の一部を視聴した。このEクラスには17基の高性能スピーカーとフロントのエキサイターが搭載されており、車内という限られた空間で劇場に近い音響体験を実現するとしている。
車内のデモでは、ガイドが同乗し「前後左右からだけではなく、頭上や斜めからも音に包み込まれ、まるでその世界にいるかのような感覚を生み出します」と説明した。実際、アクションシーンでは音が前後左右に立体的に移動し、特に背中方向から包み込まれるように響く。その音響効果は、たしかにIMAXシアターを連想させる。乗り込む前に広報スタッフから「予想を大きく超えますから」と言われたが、嘘ではなかった。
映画を映すダッシュボードの液晶サイズは12インチ程度でたいした大きさではない。しかし、音響の迫力のおかげで没入感は劇場に近いと言ってもいい。
「RIDEVU」は、ソニー・ピクチャーズエンタテインメントが提供している車内向けビデオストリーミングサービスだ。◆DTS:XとIMAX Enhancedの技術的背景
この音響体験を支えているのが、Xperi傘下のDTS, Inc.が開発した「DTS:X」というイマーシブオーディオ技術だ。DTS:Xは、従来の2次元(前後左右)のサラウンド音響に加えて、前述の通り上下方向や斜め方向からの音響展開も可能にする。これにより、音が空間を移動する表現が可能となり、視聴者を音で包み込む体験を生み出す。
一方、IMAX Corporationは映画館用の映像・音響プラットフォームとして知られるが、家庭用や流通向けには「IMAX Enhanced」という認証付きコンテンツと機器エコシステムを提供している。このIMAX Enhancedで、DTS:Xが重要な役割を果たしている。
◆車内が「第三の視聴空間」になる未来
今回のデモで使用された「RIDEVU」は、ソニー・ピクチャーズエンタテインメントが提供している車内向けビデオストリーミングサービスで、日本ではソニー・ピクチャーズの映画作品やメイキングなど数百タイトルが視聴できる。RIDEVUメルセデス・ベンツのコックピットエンターテインメントシステムのアプリの一つとして搭載されており、IMAX Enhancedコンテンツを数百タイトル視聴できる。
今後発売されるソニーホンダモビリティの「AFEELA」ブランドもRIDEVUを採用する予定だ。
Xperiブースでは、通常の2チャンネルのステレオ音声をリアルタイムで11チャンネルのサラウンド音声にアップミックス(変換)して臨場感を楽しめるシステムのデモも体験できた。単純に2チャンネルを11チャンネルに拡張するのではなく、ボーカルの位置をセンターに定位させるなど、音源に適したサラウンド化を実現している。
2チャンネルから11チャンネルサラウンドへのリアルタイムアップミックスのデモシステム。今回はシミュレータだが、将来的にはクルマに搭載されていくという。
生成AIの急速な成長で自動運転の進化も急加速している。それもあってか車内のエンターテイメント空間化の動きも強まっている。単なる音の良いオーディオを超えた、体感的なエンターテイメント空間を実現する音響技術は高級車以外でもニーズが高まっていきそうだ。





