BMWのグランドツアラーが、ひと味違う進化を遂げた。新型『R1300RT』は先に登場した『R1300GS』系の水冷ボクサーツインを継承し、Rシリーズ史上最強の145psを実現。専用設計のシャシーに、アップデートされた前後サス、軽量ホイールまで揃えてくるあたり、走りへの本気度もただごとじゃない。
モードは「ロード」「レイン」「エコ」の基本に加えて、PROモードや電子制御サスといった最新装備も選べる。ツアラーでありながら、旅先のワインディングでも一枚上手──そんな“大人の余裕”を感じさせる一台だ。
◆クラッチ操作不要の「ASA」の快適さを味わったら戻れない

スリムかつ直線的な“箱型”デザインはどこか『R1300GSA』を彷彿とさせるが、その完成度はまるでGTカー並み。重厚感よりも機能美とスタイリッシュさで勝負してきた印象だ。ちなみに同エンジンを積む『R1300R』にも乗ってみたが、驚いたのはその乗り味の違い。トルクの厚みは共通だが、RTのほうがまろやかで上質。BMW開発チームの話では実際にはエンジンマップも共通らしいが、駆動系が車種ごとに最適化されているとのこと。40kgの重量差も相まって“ちょっとマイルドな怪力”といった感じ。これは旅バイクとして理想的かも。
試乗車にはクラッチ操作不要の「オートマチック・シフト・アシスト(ASA)」を装備されていたが、アクセルオン・オフだけで発進・停止・シフトチェンジができる快適さは、一度乗ったら戻れない。少しスリムになった電動スクリーンは手元スイッチで滑らかに上昇し、走行風を完璧にプロテクト。

フルアップすれば高速巡航中もまるで“無風・無音”の別世界に突入する。さらにカウル左右に新設された可変式サイドトリムが、側面からの風を絶妙にいなしてくれるなど、徹底的に空力性能が磨き込まれている。
高音質スピーカーから流れるBGMを聞きながら、景色を眺めていると「あれ? これバイクだったよな」と錯覚するほどの快適さだ。改良された「EVOテレレバー&パラレバー」の前後サスペンションはドイツが誇る世界一の高速道路、アウトバーンでも全くブレない安定感。ふとメーターを見ると200km/hの数字が目に飛び込んできた。この余裕しゃくしゃくの快適さは、もはや飛行機レベルだ(笑)。
◆走行モードで姿勢まで変わる知能派ツアラー

注目の新装備「DCA(ダイナミック・シャシー・アダプション)」は、選択したライディングモードに応じて、サスペンションの特性だけでなく車体のディメンション(姿勢)そのものを最適化してくれる画期的なシステムだ。元々R1300RTは従来型のR1250RTに比べてエンジン搭載位置も前寄りで、ライポジもよりスポーティに設計されている。これを前提として、DCAは「ロード」「レイン」「エコ」ではソフトなスプリングとフラットな姿勢で安定性を重視。一方「ダイナミック」「ダイナミックPRO」では、サスが締まり、車高が上がって前傾姿勢となり、キャスター角も立ってフットワークも俊敏に。ミュンヘン郊外の高速ワインディングを攻められるコーナリングマシンへと早変わりする。
スペック上の変化は理解しつつも、その予想を超えた“走りの質の違い”に正直驚かされた。さらに細かなセッティングも可能で、快適ツアラーとスポーツバイクという二面性を1台で楽しめるという、まさに“知能派マシン”の真骨頂だ。

そして見逃せないのが、オプションで選べる最新のライディングアシスタント。前走車との車間を自動でキープするACC(アクティブ・クルーズ・コントロール)に加え、前後の衝突警告(FCW/RECW)、車線変更警告(SWW)まで備えた死角なしのパッケージだ。
とにかく“安全で、快適に、速く、遠くまで”を突き詰めたR1300RT。スポーティな刺激と極上のラグジュアリーを高次元で融合させた、まさに“走りのグランドツアラー”と呼ぶにふさわしい存在だ。

■5つ星評価
パワーソース:★★★★★
ハンドリング:★★★★
扱いやすさ:★★★★
快適性:★★★★★
オススメ度:★★★★★
佐川健太郎|モーターサイクルジャーナリスト
早稲田大学教育学部卒業後、出版・販促コンサルタント会社を経て独立。編集者を経て現在はジャーナリストとして2輪専門誌やWEBメディアで活躍する傍ら、「ライディングアカデミー東京」校長を務めるなど、セーフティライディングの普及にも注力。(株)モト・マニアックス代表。バイク動画ジャーナル『MOTOCOM』編集長。日本交通心理学会員。MFJ公認インストラクター。