キモは「六角形」と「黒色」? スズキ車の進化系をめざした『eビターラ』が見せる「スズキらしいデザイン」とは

スズキ eビターラのデザインスケッチ
  • スズキ eビターラのデザインスケッチ
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  • スズキ商品企画本部四輪デザイン部エクステリア課長の前田貴司さん
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  • スズキ eビターラのデザインスケッチ「A案」
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  • スズキ eビターラのデザインスケッチ「B案」
  • スズキ eビターラのデザインスケッチ「B案」

スズキはブランド初のBEVとなる『eビターラ』の日本仕様に関する先行情報を公開した。電気自動車としてのパワートレインや航続性能に注目が集まっているが、完全新規モデルとして生み出された新世代のスズキデザインからも目を離せない。eビターラのデザインはどのようにして誕生したのか。そのこだわりをエクステリアデザイナーに聞いた。

◆スズキならではのデザインとは

スズキ初の登録車のBEVであることからそのデザインはハードルが高かったのではないか。スズキ商品企画本部四輪デザイン部エクステリア課長の前田貴司さんにそう尋ねると、最初に2つのアプローチを考えたという。まず、「EVなので新種の乗り物っぽく、いままでのクルマで使って来た手法とは全く違うことをするというもの」。そしてもうひとつは、「あえてスズキが出すのですから、SUVの『ジムニー』や『エスクード』などの(テイストを感じさせる)進化系に見せるという方向性がありました」と企画当初の考えを明かす。

結果からすると後者を選んだ。「結構ゴリゴリとした力強さメインのEVで、ディテールやインテリアの使い勝手などの最新のデジタルフィーリングと上手くミックスさせて、それでスズキならではのEVが作れるのではないかと考えたのです」という。

スズキ eビターラのデザインスケッチスズキ eビターラのデザインスケッチ

そのスズキならではのエクステリアデザインというのはどういうものか。「特に欧州ではジムニーや『イグニス』、少し前では『SX4』など、常にコンパクトで高い機能性のある4WDをラインナップしています。そのイメージは力強く走ることができ、安心感があること。そこをデザインでも意識して大事にしなければと取り組みました。そこでSUVらしく見える骨格をどう表現するかにトライしています」と前田さん。

また日本では『スイフト』のイメージが強いのでAピラーが黒くてCピラーに特徴のある記号的な部分もモチーフになるかなと取り入れています」と説明し、「他社のSUVよりもフロントウインドウを立てているのも(スズキのSUVとしての)レシピとして使っています」という。

スズキ eビターラスズキ eビターラ

◆数々のデザイン案から生まれた

最終デザインに行き着くまでには様々な案があった。前田さんは「全然違う方向に散らして模索はしました」と振り返る。

「エレガントとはいえないかもしれませんがいわゆる典型的なBEVの表現も可能性としてあったので、そのモデルも作りましたし、あとはもっとジムニー寄り、いわゆる本格的なクロカン四駆の仕立てもありました」と明かす。

そのように発散していった案をどのように現在のデザインに収束させていったのだろう。前田さんは、「他のメーカーのバッジがついていてもおかしくないかどうか、そういう判断基準でこの案が一番スズキらしいということで決まったのです」とのことだった。

スズキ eビターラのデザインスケッチ「A案」スズキ eビターラのデザインスケッチ「A案」スズキ eビターラのデザインスケッチ「B案」スズキ eビターラのデザインスケッチ「B案」スズキ eビターラのデザインスケッチ「C案」スズキ eビターラのデザインスケッチ「C案」

◆「ハイテク」と「アドベンチャー」

eビターラのデザインコンセプトは「ハイテク&アドベンチャー」だ。「ハイテクは分かりやすいところだと、フロントの灯火器周りです。シグネチャー(ライト)は最近一般化していますが、ただのラインで光らせるだけではなく、特徴的な3つの長方形の光によって、何となく目力のある瞳とともに、デジタルの世界から出てきたもののようなハイテクな感じに見せています」。

一方のアドベンチャーは、「フェンダーがゴリゴリと盛り上がったような印象を与えている足回りの表現や、全体的に重心を高い位置に押し上げて、いろいろなところに分け入って走っていけそうなイメージにしています。アドベンチャーですから、オンロードだけではなく、ちょっとした山道も頼もしく走れそうな造形に仕立てていくように意識しました」と前田さん。

スズキ eビターラスズキ eビターラ

またクルマの中心に“骨”を通すことも意識した。「フロントのエンブレムからリアのエンブレムの辺りに向けて太い骨を通したイメージです。そこに向かっていろんなグラフィックや線が収束するように意識しました。実はエクステリアのキーワードとして“メタルビースト”という言い方もしていて、生き物らしい骨太な要素も表現しました」と話す。その生き物とは、「猫科のチーターやプーマですね。四肢がしっかりと出ていて引き締まったイメージです」とのこと。

◆散りばめられた「六角形」と「黒」の色

eビターラを眺めていると様々な部分に「六角形」のモチーフが取り入れられていることに気付く。わかりやすのはフロントマスクやフェンダーだ。この六角形を取り入れた理由について前田さんは、「SUVでよく用いられる手法ですが、堅牢でかつ安定感を出せるからです。それを色々なところに配することで逆にユニークさにもつながるかなと考えました」と述べる。

また、黒い部分が多いのも特徴だという。「塊で見るとBEVは床が高いですから、いくらタイヤが大きいといえど、鈍重になりがちなデザインになってしまうんです。そこで(サイドシル上周りを)レイヤー構造のように仕上げ、黒を使うことで、ボディーの抑揚をできるだけしっかりと出しているのです」。レイヤー構造などにしないと、「ただ黒いところだけがペタッとしたただの板になってしまうので、それだと見応えが出てきません。そのあたりを考えながら、大きくデザインしていくようにしたのです」とコメントした。

スズキ eビターラスズキ eビターラ

SUVとしてのスタンスの良さにもこだわった。「(メイン市場である)ヨーロッパではそれこそアウトバーンも走ります。そうしたシーンで足腰がしっかりとして見えないと選んでもらえないのです。日本で軽自動車を作っている、その延長線上とは全然違うんですよね。そこで先程の足周りやピラーの落ち方を意識しました。よく“6”の字を書くといいますが、この文字を意識するようにピラーからタイヤに向けて描くことで、踏ん張った荷重がどこに落ちているのかを計算しています。また、ボディー全体もいらない駄肉をいかに削るかなど、走ってる様を想像しながらデザインするだけで変わっていったと思います」とこだわりを語る。

eビターラには新色の「ランドブリーズグリーンパールメタリック」が採用された。「アースカラーですので、自然の中で乗っていただいたときに似合う色味が良いということで採用しました」と前田さん。「ブラウン系やベージュ系なども検討しましたが、新しいEVですからこれまでの定番の色相ではない色味が新鮮だということもあり、グリーンであってもぱっと見で緑というよりも、シーンによってはダークグレーにも見えたり、綺麗なニュアンスでグリーンにも見えるぐらいを意識しています。その辺の塩梅には結構こだわり、いろいろトライした中でここに落ち着いたのですが、仕上がりとしては面白い色になったかなと思います」と語った。

スズキ商品企画本部四輪デザイン部エクステリア課長の前田貴司さんスズキ商品企画本部四輪デザイン部エクステリア課長の前田貴司さん
《内田俊一》

内田俊一

内田俊一(うちだしゅんいち) 日本自動車ジャーナリスト協会(AJAJ)会員 1966年生まれ。自動車関連のマーケティングリサーチ会社に18年間在籍し、先行開発、ユーザー調査に携わる。その後独立し、これまでの経験を活かしデザイン、マーケティング等の視点を中心に執筆。また、クラシックカーの分野も得意としている。保有車は車検切れのルノー25バカラとルノー10。

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