2024年は、EVシフトの大減速が具体的に現れた年だった。その兆候が明確化した最初の事件は2023年の欧州委員会によって検討されていた2035年以降の内燃機関車販売禁止案が廃案になったことだろう。
EVシフトはマラソンだった
元々欧州委員会は、欧州理事会の諮問機関にすぎず、規制決定の議決権はない。ところが欧州委員会が欧州理事会に諮問した内容を、報道ではあたかも内燃機関禁止が既決事項であるかのように伝えた。そして世界中で間違ったまま常識化されたのである。背景として投機筋の都合によるロビー活動などもあった。
しかしながら、現実の話として、世界の自動車需要をBEVだけで満たすことは、バッテリー原材料生産量の見地から見ても難しく、またインフラやイニシャルコスト、リサイクルなど、マーケットでサステイナブルな事業として回すに至らない重要な課題が山積みになっていた。ということで、2035年が遠い未来の間はイケイケドンドンだったものが、現実感のあるタイミングまで近づいてくると、無責任なことが言えなくなり、結局はできないものはできないというごく当たり前の話に落ち着いた。
勘違いしてはいけないのはこれでEVシフトが終了したわけではない。まだまだ多くのブレークスルーが必要なため、変革は長い時間を要するものであり、短距離走だと思われていたEVシフトはマラソンだったということだ。
そして短距離走だと思い込んで、前のめりに多額の投資をした企業が次々と経営難をむかえている。専門家でありながらなぜそんなブームに乗っかったのかは不思議だが、ある種の熱病のようなものだったのかもしれない。最近大きな話題となったのはフォルクスワーゲン(VW)が少なくとも3つの工場を閉鎖することだ。
だが破綻やリストラに及ぶのはVWだけではない。アウディもブリュッセルの工場を閉鎖。サプライヤー各社も厳しい状況を迎えている。まずは欧州系メーカーが協力して立ち上げた欧州の車載電池メーカーであるスウェーデンのノースボルトが破綻。独ボッシュはEVの販売不振で5500人のリストラを発表。同じく独シェフラーは欧州の2工場の閉鎖と4700人の削減を、独ZFでは最大1万4000人の削減を発表した。
破綻やリストラとまでは行かないが、メルセデスベンツとボルボは、2030年の完全EV化を撤回。ステランティスはEVシフトを推進中のように言われていたが、突然2026年までに36車種のHEVを投入すると方向転換した。ただしステランティスは流れが十分分かっていてEVシフトに調子を合わせていただけという節もある。でなければ突然それだけのHEVを投入できるとは思えない。
アメリカではフィスカーが昨年のローズタウンやプロテラに続いて破綻。ルーシッドやリビアンも赤字の泥沼を抜け出せない。フォードは米国ミシガンの電池工場の計画縮小に加え、ドイツと英国で4000人規模のリストラを発表。GMのEVはその前に転んでいたので今年のニュースはない。一応一覧にまとめたものを添えておこう。
• フォルクスワーゲン 少なくとも3つの工場を閉鎖する
• アウディ ブリュッセル工場を閉鎖
• ノースボルト 破綻(欧州系メーカーが共同で立ち上げたスウェーデンの車載電池メーカー)
• ボッシュ EVの販売不振で5500人のリストラ
• シェフラー 欧州の2工場の閉鎖と4700人の削減
• ZF 最大1万4000人の削減を発表
• メルセデスベンツ 2030年の完全EV化を撤回
• ボルボ 2030年の完全EV化を撤回
• ステランティス 2026年までに36車種のHEVを投入すると方向転換
• フィスカー 昨年のローズタウンやプロテラに続いて破綻
• ルーシッド 赤字の泥沼
• リビアン 赤字の泥沼
• フォード 米国ミシガンの電池工場の計画縮小に加え、ドイツと英国で4000人規模のリストラを発表
EV成功の道はどこにあるか
もうお先真っ暗に見えるかもしれないが、EVの未来は決して真っ暗ではない。確かにこれまでEVバブルで期待されていたような薔薇色の冒険譚とはならないだろうが、新大陸の開拓に犠牲は付き物。基本的に多産多死型で多くの企業が淘汰される中で、成功への方程式が確立されていくものだ。楽な道だという誤解を生んでいただけで、厳しいながらも成功への道がないわけではないのである。