ついにVWを倒したBYD、中国メーカーの動向を探る…上海モーターショー2023 徹底討論[前編]

中国ブランドの地位向上

上海汽車系IMに注目が集まる

新たなブランドでPDCAを回す

新興EVメーカーは淘汰が進み、御三家+αへ

BYDブース(上海モーターショー2023)
  • BYDブース(上海モーターショー2023)
  • BYD 駆逐艦07(上海モーターショー2023)
  • BYD 宋L(上海モーターショー2023)
  • 混雑するBYDブース(上海モーターショー2023)
  • 仰望 U8(上海モーターショー2023)
  • 仰望 U9(上海モーターショー2023)
  • デンツァ D9 (上海モーターショー2023)
  • デンツァ N7 (上海モーターショー2023)

4年ぶりのフル開催となった上海モーターショー2023。世界最大の自動車市場であるとともに、EV化でも世界で最も進んでいる中国において、地元中国メーカーがどのような提案をするのか。

中国での起業経験をもち、現在は中国の自動車産業を専門領域とする日本総合研究所 創発戦略センター シニアマネージャーの程塚正史氏と、現地で取材した筆者である自動車ジャーナリストの佐藤耕一が、上海モーターショーに現れた中国自動車産業の動向を徹底討論する。

前編は「ついにVWを倒したBYD」と題して、大きく地位向上した中国メーカーと、ブランド間の地殻変動、現地での受け止められ方について語る。

【中国メーカーの概要】
文中に登場する中国メーカーについて、概要は以下の通り。

BYD:大手民営系メーカー。現在はEV/PHEVを販売。傘下ブランドに「DENZA」「仰望」など
上海汽車:中国最大の国営自動車メーカー。傘下ブランドに「IM」「Rising」「ROEWE」「MAXUS」など
北京汽車:大手国営メーカー。傘下ブランドに「Arcfox」など
長安汽車:大手国営メーカー。傘下ブランドに「AVATR」「深藍」など
吉利汽車:大手民営系メーカー。ボルボの親会社でありメルセデスベンツの筆頭株主。傘下ブランドに「ZEEKR」「Lynk & Co」など
NIO:新興EVメーカー。電池交換式EVを展開する
小鵬:新興EVメーカー。“智能化”で先行している
理想汽車:PHEVに特化した新興メーカー
NETA/ LeapMotor:新興EVメーカー。廉価な小型EVを得意とする

中国ブランドの地位向上

程塚正史氏(以下敬称略):今回の上海モーターショーでは、中国メーカーの海外展開やデジタル化、そして中国ブランドの地位向上といった点に注目しています。中国ブランドの地位向上については、現地での各ブースの様子が貴重だと思いますので、現地で取材した佐藤さんのお話も伺いながら進めていければと思います。

佐藤:今回現地で一番印象に残ったのは、程塚さんのご指摘通り、中国メーカーの地位向上ですね。特にBYDが象徴的で、以前はちょっと年齢が高い人が好むブランドだったのですが、今年の第1四半期のセールスが、ずっとトップだったフォルクスワーゲン(VW)をBYDが抜いたということで、「ついに外資の自動車メーカーを中国メーカーが倒した」と現地の人もBYDを誇りに思っており、あらためて注目されているようです。ブースも一番混んでいましたね。

程塚:日本では日本市場への進出が一番注目されますが、BYD全体という観点からは、日本だけでなく先進諸国、特にヨーロッパへの展開が要注目ですね。ブランド力の向上に関しても、BYDの仰望(ヤンワン)や広州汽車の『ハイパーSSR』など、100万元(約2000万円)を超えるような車が展示されていることが関連していると思います。勝手なことを言ってはいけないかもしれませんが、BYD自身もヤンワンがそんなに売れるとは思っていないのかもしれません(笑)

仰望 U8(上海モーターショー2023)

佐藤:そうですね(笑)。中国国内向けのクルマですよね。

程塚:一方でヤンワンはとても重要な存在で、中国向けのフラッグシップやアドバルーンのようなものとして、自分たちのブランド力を誇示するために展示されていると捉えています。その上で、BYDやDENZA(デンツァ)のようなミッドブランドを本命として売っていくのではないかと考えています。

上海汽車系IMに注目が集まる

佐藤:BYDも大手メーカーですが、既存の大手メーカーの新能源車(新エネルギー車、NEV)ブランドが整理されて、ブランド力が上がっている印象を受けました。今回特に驚いたのが、上海汽車系のIM(智己)です。上海汽車は、地元開催のモーターショーということで、毎回ホール一棟をまるごと自社ブランドで埋め尽くしていますが、今回はホール3の入口を入った瞬間に、IMのブースがどーんと目に入ってきて、広いスペースを確保していました。

IM LS7(上海モーターショー2023)

そのほかにも北京汽車のArcfox(アークフォックス)、長安汽車のAVATR(アバター)や深藍など、既存の大手OEMのEVブランドが確立されて、大手メーカーがもともと持っていた車づくりの能力を組み合わせつつ、いずれも地元の方々から人気を集めていました。一方で、新興EVブランドも注目はされていたのですが、相対的に勢いが無いように見えました。

程塚:IMはアリババとの連携、Arcfoxはファーウェイとの連携で、それぞれIT企業の商品企画力やシステム構築力を借りてブランド価値を高めている印象です。ヤンワンが価格も含めて耳目を集めようとする一方、上海汽車のIMモーターや北京汽車のArcfoxはそれぞれスマート化で先を行く戦略をとっていると捉えています。

佐藤:確かにそうですね。Arcfoxのクルマには、インテルインサイドならぬファーウェイインサイドの「HI」の赤いバッジが貼ってありました。

ファーウェイインサイド(HI)のArcfox αS / 北京汽車ブース(上海モーターショー2023)

程塚:今後こういったブランドが増える兆しも感じられます。IMやArcfoxはアリババやファーウェイからも重要な取り組みとして位置づけられているのでしょう。

佐藤:新興メーカーはあまり元気がないように感じましたが。


《佐藤耕一》

日本自動車ジャーナリスト協会会員 佐藤耕一

自動車メディアの副編集長として活動したのち、IT企業にて自動車メーカー・サプライヤー向けのビジネス開発を経験し、のち独立。EV・電動車やCASE領域を中心に活動中。日本自動車ジャーナリスト協会会員

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