世界でハイエンドのセダンを作っているブランド。ざっと挙げてみるとメルセデスベンツ、BMW、アウディ、キャデラック、レクサス、それにジェネシスなどが思い浮かぶ。
もちろん他にもあるだろうが今回は端折るとして、このうちハイエンドセダンにBEVを設定しているのは今のところBMWとメルセデスベンツ、それにジェネシスである。キャデラックは『セレスティック』を発表しているが、まだ市場投入はしていない。極めて対照的なのはBMWとジェネシスが既存のICE搭載車とBEVを同じ骨格のボディで作り上げているのに対し、キャデラックとメルセデスは電気自動車専用の骨格と新デザインのボディをもって投入した、あるいは発表していることだ。

BMW『i7』に試乗した時まさにこれは「オール電化」カーだと感じた。ボタン一つでドアは開くし、およそ物理スイッチがほとんどない。でも骨格やそのデザインは従然たるICE時代のセダンスタイルだし、骨格を電気とICEが共有している。これに対してメルセデスは専用の骨格に専用のデザインを用いてきた。
でもドアはボタン一つでは開かず、従然とした手動式。ただしそのグリップは常にボディに格納されていて必要な時に飛び出す仕組みだが、このシステムはすでに他ブランドのICEモデルでも行われている。
◆セダンという形式が必要か否か

問題は電気自動車に最早過去のものになりつつあるセダンという形式が必要か否かという点。フォードなどはもうセダンは作りませんと宣言してしまったし、何も言わずにクライスラーもセダンをラインナップから消し去ろうとしている。キャデラックのセレスティックとメルセデス『EQS』は新時代のセダン像なのだろうか。
もしそうだとすると私は個人的に新しいEQSをSUVと呼びたくなった。ただし、今あるSUV即ち「スポーツ・ユーティリティー・ヴィークル」の頭文字ではなく「セダン・ユーティリティー・ヴィークル」の頭文字のSUVだ。
EQSという名で最後にSの文字が付くからややこしいのだと思うが、これまでのメルセデスベンツの車種体系から行けばSは最上級のモデルに付く称号。要は一番デカい車種である。そして勝手に新時代の『Sクラス』だと思うからいけないのだろうが、このクルマは掟破りのテールゲートを装備するモデルだ。
おまけにリアシートは可倒式でシートを倒せば1700リットル以上の収容能力を誇るラゲッジスペースを生み出すことができる。下手な現行SUVよりはるかにユーティリティーが高い。だから、セダン・ユーティリティー・ヴィークルなわけである。
◆大胆なスタイリングとダッシュボード、乗り心地は“絶妙”

ダッシュボードが凄かった。なんと全面ディスプレイだ。どこにでも映し出せるわけではないが、大きくドライバー前、ダッシュセンター、そしてパッセンジャーシート前にディスプレイがある。物理スイッチはほとんど姿を消し、大抵の操作は画面タッチもしくはステアリングに付くスイッチによって行うことができるが、長く慣れ親しんだ物理スイッチが無いのはスマホを使いこなせないオトーサンたちがかなりまごつくこと請け合いである。
新しいEQSはエンジンをはじめとした嵩張るパーツが無いのを良いことに、実に大胆なスタイリングを作り上げた。いわゆるキャブフォワードデザインだが、ドライバーはかなり前に座る。80年代のF1みたいだとは言わないがそんな印象である。おかげでリアシートは広く、そしてラゲッジスペースも広いというわけだ。

「450+」というモデルは1モーターで後輪を駆動するRWDである。そしてエアマチックサスペンションに4.5度ステアする4WSという仕様。オプションではリアが10度もステアする装備があるが、4.5度でも十分過ぎるリアステアの度合いを示し、ドライバーがかなり前に着座しているからか、だんだんとステアしていくと印象的には途中からいきなりぐわっと切れる、かなりアーティフィシャルな味付けがされていて、ハンドリングは若干違和感があった。
それにしても乗り心地はこちらも絶妙で快適なことこの上ない。そう、アーティフィシャルと言えばエネジャイジング・コンフォートという設定があり、これはいくつかの情景を想起させる音でドライバーやパッセンジャーを和ませいようというものだ。およそ自動車とは無関係な波の音だったり、雨音などを車内に擬音効果として流し、さらに設定のいくつかではシートマッサージが始まったりもする。

◆新時代のセダン像はこれだ
とまあ、とにかく新しいもの好きは当分飽きずに乗れる。それに107.8kWhというバカでかい容量のバッテリーを積んでいるから航続距離は極めて長くWLTCモードでは700kmに達する。そんなわけだからいつも通りの300km程度の試乗では充電の必要全くなし(勿論やってはみたが)。一度は片道300kmほど走ってみたいと思うが、行った先で充電できないと痺れるからまだ試してはいない。
やはり新時代のセダン像はこれだろう。
■5つ星評価
パッケージング:★★★★★
インテリア居住性:★★★★★
パワーソース:★★★★★
フットワーク:★★★★★
おすすめ度:★★★★★
中村孝仁(なかむらたかひと)AJAJ会員
1952年生まれ、4歳にしてモーターマガジンの誌面を飾るクルマ好き。その後スーパーカーショップのバイトに始まり、ノバエンジニアリングの丁稚メカを経験し、さらにドイツでクルマ修行。1977年にジャーナリズム業界に入り、以来45年間、フリージャーナリストとして活動を続けている。また、現在は企業やシニア向け運転講習の会社、ショーファデプト代表取締役も務める。