イヤーカーにもなったスバル『レヴォーグ』の「アイサイトX」は、従来からのステレオカメラ方式を踏襲しながら、検知精度の向上などが図られている。このときカメラモジュールのサプライヤーが変わったことが話題になった。
サプライヤーが日立オートモーティブシステムズ(現日立アステモ)からベオニアに変わったことから、アイサイトの進化に必要だった交代とみる向きもあったが、当時のカメラモジュールでアイサイトXの機能が実現できなかったわけではない。
ご存じのように、ADASにステレオカメラによる画像認識を採用するメーカー・サプライヤーは多くはない。ステレオカメラは、2つのカメラによる視差が対象物の距離計測(測距)や立体認識ができるという特徴がある。ADASや自動運転でカメラだけでなくLiDARが必要とされる(テスラは不要としている)のは、カメラによる画像処理は細かい測距や立体認識が得意ではないからだ。複眼カメラなら、対象物の認識とある程度の空間把握ができる特徴があり、これが初期のころからアイサイトの高性能・高信頼性につながっていた。半面、一般的な単眼カメラよりも画像認識アルゴリズムが複雑になる。
つまり、アイサイトの性能を決定づけるのは、カメラよりもその認識アルゴリズムだ。もちろん、カメラの解像度やレンズの精度など基本性能が高くなければ意味はないが、ADASや自動運転のためのカメラシステムの性能向上や進化を続けるには、ベースとなる認識アルゴリズムを基準(リファレンスモデル)とした設計およびシステムアーキテクチャが要となる。
スバルは、アイサイトXに進化するとき、この拡張性を考慮して認識アルゴリズムを処理するプロセッサも変更している。カメラモジュールに組み込まれるプロセッサは、ASICやSoCと呼ばれる半導体が一般的だ。CPUやメモリなどチップのハードウェアを設計しながら、それに載せるソフトウェアを開発し、最終的にチップに焼き付ける。
アイサイトXでは、この部分にFPGAというプログラマブルな半導体を採用した。FPGAは、ハードウェア回路とソフトウェアを統合された開発ツールで、プログラムをコーディングするように設計開発できる。従来は、プロトタイプの開発や特注の少量製品に利用されていたものだが、ソフトウェアとほぼ同じプロセスでハードウェアの設計もできる柔軟性と開発時間が短縮できることから、近年はECUや通信機器、IoT機器のプロセッサとして普及が広がっている。
自動車業界も従来のような4年、5年といった周期の開発では市場の変化についていけなくなっている。また、グローバル化といいながら、EU、北米、中国とリージョンごとにレギュレーションや売れるモデルなどが分離しつつある。ASICなどは大量生産には向くが、設計変更はFPGAほど簡単ではない。
ただ、FPGAによる開発は、回路シミュレータや専用の開発システムが必要で、従来開発工程からの移行ハードルが高い。ハードウェア回路の設計も慣れたCADやVDHL言語が使えなくなる場合もある。エンジニアの負荷も低くない。だが、一度移行してしまえば、そのあとの拡張、改良はプログラマブルなFPGAの効果が発揮されやすい。
しかもFPGAは、ソフトウェアはもちろん、ハードウェアもOTAによって改良・変更が不可能ではない。スバルは、ここで苦労しておけばその後のADAS機能の拡張、レベル3、レベル4自動運転への展開が楽になる、またOTA時代への備えとなると判断して、FPGA(ザイリンクス ZYNQ UltraScale+)に切り替えた。