可愛い、だけじゃないフィアット500
フィアット500(写真は欧州仕様)
あらためてよく見て欲しい。世界中で愛される“キャラ立ちカー”ことフィアット『500』の出で立ちを。むろん、文句なしに可愛い。
ころんとまんまるな形をしている。極端にオーバーハングが短く、4つのタイヤがボディの四隅に配置されていて、それが一層まんまるさと塊感を際立たせている。丸いヘッドライトの下には楕円のポジションランプがあしらわれていて、お化粧でいうところのチークのようでキュート。だからつい、街で見かけるたびに口元が緩んでしまうのだけど、500のデザインの凄さは、ただ可愛いだけに留まらないというところにある。
ショルダーラインから上、ルーフにかけての上半分はきゅっと絞られ、逆に下半分は意外なほどにマッチョなことに気付かされる。フェンダーを盛り上げ、四隅にしっかりとタイヤを張り出させているから、ただ愛らしいだけでなく力強さがある。だから、この500は人種やジェンダーを越えて、愛され続けているのだろう。
そして、このデザインが見かけ倒しじゃなく、リアルにハンドリングに効果抜群なんだから面白い。
ツインエアとコンパクトボディが生み出すオンザレール感
フィアット 500/500C に搭載されるツインエアエンジン
フィアット500には2種類のエンジンがラインアップされている。直列4気筒の1.2リットルエンジンと、直列2気筒で0.9リットル+ターボの「ツインエア」エンジンだ。
どちらも燃費性能と加速性能を両立した、フィアットらしい走りを実現するエンジンだが、特にツインエアは、小さいけれどパワフルで、驚くほどトルクが豊か。つまり踏み始めからグイっとターボが効いて、油断をしていたら頭をヘッドレストに押し付けられるようなくらいの加速を見せてくれるのだ。そしてこの元気なエンジンパワーを受け止め、かつ独特のオンザレール感に変換してくれているのが実はこの、ボディデザインに他ならない。
街往くクルマたちをご覧あれ。この500ほどにキャビンを絞ってタイヤを四隅いっぱいに配置したクルマって、なかなか他にないでしょう。なぜならばそれは、荷室を含め室内空間を確保するためなのだけど、500はそれを、敢えてしていない。
フィアット500(写真は欧州仕様)
だからこそ上半分が軽い=重心が低いのでロール値も抑えられるため、ヒップポジションはスモールモデルと思えないくらいに確保されているのにフラフラしないという、不思議に高い安定感が生まれてくる。さらにタイヤがそれぞれ四隅で路面をしっかり掴むことで、こちらも異次元なほどの接地感を生む。いわゆる“踏ん張りが効く”というやつで、コーナー頂点にさしかかっても遠心力で外側に軌道が膨らんで行かず、ライントレース性のレベルはまるでレーシングカートのようだ。グイっとワイルドにカーブを攻められる。
こうなってくると人間は欲張りなもので、もっとダイレクトに500の走りを味わいたい!なんて、ないものねだりをしてしまう。そんなときこそマニュアルトランスミッション(以下MT)の出番なのだ。
MTで走る楽しさはもうスポーツと言っていい
カタログモデルに組み合わされているATモード付5速シーケンシャルの「デュアロジック」も、ATによるイージードライブと、マニュアルシフトによる軽快さを両立していて、500らしい元気な走りの立役者と言ってもいいだろう。だけど、クラッチペダルを踏んで、コクッコクッとシフトレバーを操作して、クラッチを繋いだ瞬間に味わえるクルマとの一体感は、やっぱりMTならでは。回転数とギアがバッチリ決まったときは、ちょっとフフ、と声が出るくらいに嬉しいものだ。
低いギアでこのツインエア×踏ん張りボディーを振り回すのは、想像以上に楽しい。ごく個人的には2~4速あたりを選択して、山道をチョロチョロとこまめにギアチェンジをさせながら登坂を走るのは、サーキット走行に匹敵する楽しさだ。これはもう、スポーツと言っていい。
しかも500に至っては、楽しみはなにもワインディング・ロードだけのモノじゃない。
いつもの道を走る時にもつい、笑みがこぼれてしまうこと間違いなし。ツインエアのターボのパワーは、高いギアを選んでいてもどこからでも湧いてくる。そして、ちょっとした再加速のとき…たとえば右左折の時。車線変更の時。ちょっとした傾斜に差し掛かった時。さっとギアを下げて再加速するときの気持ちよさったら!デュアロジックで楽しむ500とは一味違った素顔を見せてくれるのだ。
いま500×MTに乗る最善の選択肢『500/500C Manuale +Cielo』
フィアット 500/500C Manuale +Cielo
そんな500のMTモデルに、お洒落な限定車が登場した。『500/500C Manuale +Cielo』だ。
500には初めてとなる「ポルトフィーノ グリーン」のボディーカラーを採用し、500のもうひとつの表情である、大人なクールさを漂わせる。クローズドボディの500にはガラスルーフを、オープンルーフの500Cにはブラックのキャンバストップが用意され、こちらもシックかつ上品だ。
足元には専用デザインの16インチアルミホイール。バンパーにはフロント・リアともにスポーツバンパーが装着され、サイドスカートも装備している。
フィアット 500/500C Manuale +Cielo
内装にも特別なカラーがあしらわれた。なんとインストルメントパネルがボディー同色のポルトフィーノ グリーンなのだ。シート類はブラックに統一され、落ち着いた大人の空間に。オーディオもまた特別で、高音質なヘッドホンで人気のBeats Audioのプレミアムサウンドシステムを採用。ドライブをさらにエキサイティングに、そしてリラクシーなものにしてくれるに違いない。
MTがあれば毎日が刺激になる。手元で操作するから脳だって活性化するし、集中力を高めるトレーニングにもなる。MTモデルはモノによって、クラッチペダルが重すぎたりして、渋滞の最中に足が攣る(!)なんてものも実はあるのだけど、この500のMTは柔らかく、そして軽いので不慣れな人でも敷居は低いだろう。
500の可愛いだけじゃない実力を引き出すには、実はMTが最適だと、個人的には思っている。ヨーロッパを虜にしたハンドリングの妙を、この500/500C Manuale +Cieloで味わい尽くして欲しい。
FIAT 500/500C Manuale +Cielo 公式サイトはこちら
今井優杏|モータージャーナリスト
レースクイーン、広告代理店勤務を経て自動車ジャーナリストに転向。WEB、自動車専門誌に寄稿する傍らモータースポーツMCとしての肩書も持ち、サーキットや各種レース、自動車イベント等でMCも務めている。AJAJ(日本自動車ジャーナリスト協会)会員。日本カーオブザイヤー選考委員。