アウディが「WTCR」に参戦する理由と、日本のレースへのこだわり

Audi SportがWTCRに参戦する理由をプロジェクトマネージャーに訊いた。写真はAudi RS3 LMS(#21 A.パニス)
  • Audi SportがWTCRに参戦する理由をプロジェクトマネージャーに訊いた。写真はAudi RS3 LMS(#21 A.パニス)
  • Audi SportのA.Hecker氏。
  • Audi SportのA.Hecker氏。
  • #69 J-K.ベルネイ(RS 3 LMS)
  • 接近戦が売りのWTCR。
  • 鈴鹿ではヒュンダイ、アルファ、プジョーが各1勝をマーク。
  • 鈴鹿戦を終え、WTCR初年度も残すは1戦(11月15~18日のマカオ戦)。
  • SUPER GTに参戦するAudi Team Hitotsuyama 『Audi R8 LMS』(鈴鹿10H参戦時)。

10月26~28日に鈴鹿サーキットで開催された、「WTCR」FIA世界ツーリングカー・カップの日本ラウンド。7メーカーのマシンが激しく競う世界最高峰の舞台には「アウディRS3 LMS」の姿もあった。Audi Sport(アウディスポーツ)の担当プロジェクトマネージャーに、アウディがWTCRに参戦するのか、そのねらいや意義を訊いた。

ハコ車レースの最高峰「WTCR」

接近戦が売りのWTCR。
まずWTCRについてのおさらいだが、昨季までのWTCC(FIA世界ツーリングカー選手権)が今季から生まれ変わった新シリーズである。TCR規定という近年、世界各地で隆盛中のツーリングカーレース車両規定と“合流”することでツーリングカーの世界最高峰シリーズに活気を取り戻そうという動きが生まれ、World-TCRともいえる格好でFIA世界ツーリングカー・カップ(通称WTCR)が発足した。

WTCRにはアウディ、ヒュンダイ、ホンダ、VW、クプラ(セアトの高性能車部門)、プジョー、アルファロメオが参戦(鈴鹿戦時点)。WTCRはメーカーがいわゆるワークス参戦のかたちを取るシリーズではなく、参戦チーム(カスタマー)のニーズに合ったマシンを開発して供給する、というかたちでの競い合いになる。もちろん、供給後もメーカー技術陣やインポーター等によるチームへのケアやサポートは(各陣によるスタンスの違いはあるが)続いていく。

世界のモータースポーツの潮流は常に動き続けており、最近はTCR規定の隆盛も含め、特にハコ車レースではこの「カスタマーレーシング」というスタイルが盛り上がってきている印象が強い。Audi Sportも2016年末にTCR規定車「RS3 LMS」をリリース、2017年には世界各地で同車の活躍が始まった。そして今季は新生WTCRにもその雄姿がある。

参戦意義と「TCRジャパン」への期待

Audi SportのA.Hecker氏。
2018年WTCR鈴鹿戦に出走したRS3 LMSは全6台。「Audi Sport Leopard Lukoil Team」の#52 G.シェデンと#69 J-K.ベルネイ、「Audi Sport Team Comtoyou」の#20 D.デュポンと#22 F.ベルビッシュ、さらに「Comtoyou Racing」の#21 A.パニスと#23 N.ベルトンから成る布陣である。

そして「Audi Sport カスタマーレーシング」のRS3 LMS(TCRマシン)プロジェクトマネージャーの職にある人物が、Alexander Hecker(アレクサンダー・ヘッカー)氏だ。WTCR鈴鹿戦の土曜日、1大会3レース制の「レース1」決勝が終わった時点で、Hecker氏と話をすることができた。

「TCRマシン(RS3 LMS)に関して、我々Audi Sportは昨年(2017年)からサービスをスタートさせました。(アッパークラスにあたる)GTカーのレースも盛り上がっていますが、(競争激化に伴うコスト高騰等もあり)国や地域的な広がりには限られた面もありますよね。その点、2リッター(最大排気量)のツーリングカーであるTCR規定なら、よりワールドワイドな展開が期待されますし、実際にそうした流れにあるのは良いことだと思います。我々にとってはまさしくコンペティションでもあり、ライト(時代に適した)クラスですね」
#69 J-K.ベルネイ(RS 3 LMS)
TCRは最先端技術を駆使した最速最強レーシングマシンではないが、時代に即応した新たな戦いの構図のなかでライバルと競い合いつつ、比較的市販車に近い状態のレーシングマシンでアウディ、そしてAudi Sportのプレゼンスを世界の様々な地域で発信していく効果も大きい。Hecker氏はWTCRを含むTCRプロジェクトに深く、熱い参戦意義を見出しているようだ。

「日本でも、既にスーパー耐久シリーズ(S耐)のST-TCRクラスでRS3 LMSが走っています。今年は富士24時間(今季S耐第3戦)も走りました(クラス優勝)。そして来年(2019年)からはスプリントのTCRジャパンシリーズが始まりますよね。もちろん、ABS使用可否などの違いには対応する必要があるわけですが、基本的には同じホモロゲーションのマシンで耐久とスプリント(WTCRやTCRジャパン)を戦えるのもTCR規定の良さでしょう」

2019年発足予定のTCRジャパンについては、「初年度から多くのマシンが集うのは通常、難しいことですが、(レース先進国の)日本に関してはそこは特別かもしれません。2年目あたりにはフルグリッド級になるかもしれませんね」とHecker氏。当然、RS3 LMSの参戦も期待されるところだ。もし『Audi Sport Team~~』というようなエントラント名での参戦がTCRジャパンにあれば、そこにHecker氏の姿が見られるレースもあるだろう。

WTCRは「何が起こるかわからない」

鈴鹿ではヒュンダイ、アルファ、プジョーが各1勝をマーク。
今回のWTCR鈴鹿戦、レース1の決勝におけるアウディ勢は6位が最上位。6位に入ったのは、かつて日本のSUPER GTにも参戦したことがある#69 ベルネイだった。上位5台はすべて異なるメーカーのマシンだったわけだが、鈴鹿のコースとRS3 LMSの相性についてHecker氏に訊くと、「合っていると思いますよ。ただ、今回我々は60kgという調整ウエイトを載せられていますからね」との答え。前戦のレース3で1-2-3フィニッシュするなどしたRS3 LMSは、今回の鈴鹿戦に60kgの調整ウエイトを積んで臨戦していた。こういう要素もWTCRの特徴だ。

「高い競争レベルのなかで、60kgは効きます。でも、厳しい条件下で(レース1の)トップ10に2台が入ったことを嬉しく思っています。充分な競争力を示してくれました」と、満足まではできなくとも、納得という表情のHecker氏。明日(レース2とレース3)は表彰台が欲しいですね、と水を向けると、「そうですね。ご覧になったようにWTCRは接近戦です。何が起きるか分からない面がありますし、鈴鹿のようなグランプリコースでは追い抜きも特別に難しいとはいえないと思いますので、表彰台が獲得できたらいいですね」と答えてくれた。

残念ながらレース2とレース3でもアウディ勢に表彰台フィニッシュはなく、鈴鹿での最高位はレース2での#21 パニスの4位だった。ちなみに、レース3でも5位と健闘し、鈴鹿戦翌日の10月29日に24歳になった彼=オーレリアン・パニスは、1996年F1モナコGPでリジェ・無限ホンダを駆り優勝したオリビエ・パニスの息子である。

Audi Sport カスタマーレーシングの責任者、クリス・レインケ氏はWTCR鈴鹿戦の結果に関して、「重いウエイトを搭載したことにより、非常に厳しいレースとなりました。そういった条件のなかで、ドライバーたちが多くのポイントを獲得し、パニスが自己ベストを達成したのは驚くべきことです。最終戦(11月のマカオ)でもベストを尽くしてシーズンを終了したいと思っています」とのコメントを発している。

WECを撤退したアウディの新たな歩み

SUPER GTに参戦するAudi Team Hitotsuyama 『Audi R8 LMS』
今、Audi Sportが新しい競争環境で新たな輝きを見せている。アウディといえば、WEC(世界耐久選手権)のLMP1カテゴリーでトヨタとやり合っていたワークス活動の印象が強く、2016年限りでの同カテゴリー撤退後、日本のモータースポーツファンには少々寂しい実感もあったかと思う(ちなみにレインケ氏はかつてLMP1計画の首脳を務めた人物)。だが、SUPER GT/GT300クラスやS耐ST-Xクラス(以上参戦車はR8 LMS)、S耐ST-TCRクラスでの活躍があり、さらにはこの新生WTCR、そして近未来のTCRジャパンシリーズでも活躍が見られそうだ。

WTCRを中心としたTCR規定レース(クラス)の広がりと、そこでのAudi RS3 LMSの存在感発揮に今後も期待したい。
鈴鹿戦を終え、WTCR初年度も残すは1戦(11月15~18日のマカオ戦)。

《遠藤俊幸》

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