メルセデスベンツのインフォテインメントシステム『MBUX』が注目を集めている。日本未導入の新世代コックピットを取材するため、メルセデスの本拠地ドイツ・シュツットガルトに飛んだ。インタビューに応じてくれたのは、メルセデスのコネクテッド・プラットフォーム「Mercedes me」を担当するゲオルグ・ワルタルド氏。MBUXが提供する新しいユーザー体験とは何か、聞いた。
車載カメラでビッグデータ収集
ドイツの市街地では路上駐車が認められているところが多く、そういった場所にはパーキングメーターが設置され、道路脇に車がびっしり並んでいる。ゆえにドライバーは空きスペースがないか横目で探しながら運転することになるが、MBUXではこの空きスペースの情報を、車載カメラで撮影した映像から分析し、配信する仕組みがある。
「車載カメラで道路わきのパーキングスロットを撮影し、クラウドで分析しています。ナビゲーションの地図を見ると、水色の線が引いてある道路があります。そこはパーキングスロットの空きが多く、駐車できる可能性が高いところです。収集したデータは、1分後には車載器に反映されるようになっています。」
AlexaやOK Googleよりも早い「Hey Mercedes」
MBUXとは、Mercedes Benz User eXperience の略語であり、メルセデスベンツの乗車体験を示している。新しい乗車体験を演出するMBUXの機能は数多くあるが、なかでも注目ポイントのひとつがボイスコントロールだ。
音声認識はここ2-3年のうちにクラウドで動作するようになり、ひと昔前のカーナビの、ローカルで動作する音声認識から大きく性能が向上した。例えばスマートフォンに「OK Google!」と話しかけてみると、クラウド音声認識の性能の高さがよくわかる。クラウドのリッチなリソースを利用して解析するので、高精度で反応がよく、ふだんの話し言葉でも意味を理解してくれるのだ。運転で手が離せないときに、このような高性能なボイスコントロールが有効なことは言うまでもないだろう。
「ナイスなイタリアンレストランを探して!」とゲオルグさんが言うと、MBUXは、Yelp!(海外の食べログ的なサービス)のレーティングに基づいてイタリアンレストランをリストアップし、「どこに行きますか?」と反応した。「3番目のお店に案内して」と応答すると、ナビが起動し、ガイダンスが始まった。
「自然言語を理解できるので、話し言葉で話しかけるとそれに応じた反応が返ってきます。また、クラウドとローカルの処理を使い分けて素早いレスポンスを実現しています」とゲオルグさんは言うと、MBUXに「It's Cold(寒いね)」と話しかけた。
するとMBUXは「エアコンを25度に設定しました」と反応した。「これはローカルで動作した例です。クラウドで動作するのは、レストランを探すときや天気の情報を見るときなどです」。
MBUXを実際に使ってみると、ローカルなのかクラウドなのか識別できないほどレスポンスが良い。体感的には、アマゾンAlexaやGoogleアシスタントよりも反応が早い。ドイツのLTE回線はお世辞にも速いとは言えないが、それでも安定してレスポンスが良かった。
ボイスコントロールにはルールがある
ボイスコントロールで何ができるのか。私はここが気になっていた。個人的な話で恐縮だが、私はマイカーを妻と共有しているのだが、妻は「リアウインドウの曇り取りはどうやってするの?」と何度となく聞いてくる。リアワイパーの動かし方や、外気導入をする意味なども、複雑すぎて覚えきれないというのが彼女の言い分だ。
これは笑い事ではない。クルマに詳しい人や運転歴の長い人なら、そういったクルマの操作の“お作法”を理解していて、どのクルマに乗っても操作方法は想像がつくだろうが、そういう人ばかりではないし、加えて、近年の運転支援機能の追加もある。ACC(アダプティブクルーズコントロール)の複雑な操作を覚えるより、「80キロに設定して」と、ひとこと言うだけで済むほうがユーザーにやさしいはずだ。
しかしながら、ACCはボイスコントロールでは操作できないとゲオルグさんは言う。「ボイスコントロールにはルールがあります。運転に影響を与える操作はできないというルールです」。
「サンフールを開閉したり、音楽をプレイしたり、車内の照明を調整することはできますが、助手席から運転に影響のある操作をすることはできません。」
MBUXとMercedes me でクルマが成長する
最後に、MBUXによって何を実現しようとしたのか、ゲオルグさんに聞いた。
「新しいコンセプトのコックピットはもちろんですが、私としてはMBUXを通じてクルマが成長するということを言っておきたい。Mercedes me のバックエンドと連携して、車外から新しいフィーチャーを追加していきます。来年のいまごろには新しい機能が追加されているでしょう」
「MBUXとMercedes me のコネクテッド・プラットフォームはとてもフレキシブルで、大きな可能性があります。機能やアプリケーションを追加し、パフォーマンスも向上させていきます」