トヨタのコネクティッド&シェアリングビジネスに勝算はあるのか【藤井真治のフォーカス・オン】

トヨタモビリティサービスの1階にある「トヨタ モビリティ ショールーム」。i-ROADの展示も
  • トヨタモビリティサービスの1階にある「トヨタ モビリティ ショールーム」。i-ROADの展示も
  • レンタカー・リース店舗も活用したカーシェアなどのサービスを展開していく(写真はイメージ)
  • トヨタモビリティサービスの1階にある「トヨタ モビリティ ショールーム」(外観)
  • トヨタが米国ハワイ州で開始したカーシェアサービス「Hui」

トヨタモビリティサービスとは

居酒屋や割烹の渋いお店の並ぶ東京の下町人形町。その人形町の交差点から浜町に向かう道路沿いに今年の4月に立ち上がったトヨタの新会社、「トヨタモビリティサービス」(TMS)の10階建て本社ビルがある。

1階のショールームは1人乗り小型EVの『i-ROAD』やスマートキーボックスなどトヨタのコネクティッド技術展示の場となっている。決して派手な未来技術展示という趣はなくトヨタが売りたいモノやサービスが展示されている。

TMSは今年4月にトヨタ直営のフリートリース事業会社と東京地区のレンタカー事業会社を統合し設立されたもの。レンタカーやリースのビジネス基盤を背景に、さらなる付加価値として法人向けのソリューションサービスや車載通信機器を使ったコネクティッドサービス、カーシェアリングを始めとした新コネクティッドサービスを提供していくという明確なビジネス目標があるようだ。トヨタ自動車が直接手がける官公庁への車両販売部門もこのビルに同居し、大口ユーザーへのトータルサービスというフォーメーションも取っている。

トヨタの中にはCASE(Connectivity、Autonomy、Sharing、EV)やMaaS(Mobility as a Service)といった自動車産業の新しいトレンドをフォローし先取りするための様々な開発部署がある。またそのためにウーバーやグラブといった業種を超えた果敢な投資をグループとして展開している。いずれも将来を見据えた必要な先行開発投資であるが、すぐにビジネスとして成立するかは定かでない。

人工知能の開発会社に至っては将来必要な機能なのだがすぐには回収できない部門でありトヨタの余裕のなせる技と言わざるを得ない。自動運転のハードだけでなくシステム(OSS)をも握りたいというまさに「生きるか死ぬか」の決断なのであろう。ただしこれらはあくまでR&D部門や新規事業開発部門という投資部門でありすぐにお金になる訳ではない。

しかしながら浜町の新会社TMSはトヨタの国内販売部門の一部。まさにコネクティッド機能を使って新しい国内ビジネスを生み出し発展させ、すぐにでも稼いでいくことを目指した組織であるといって良い。果たして勝算はあるのだろうか?

DCMを軸としたコネクティッドビジネス

既に公表されているようにトヨタは新発売のモデル全ての車両にDCM(Data Communication Module)という通信端末を装着し始めている。その機能を使いT-Connectという商品名で高機能カーナビ、メンテ情報、セキュリティなどをパッケージサービスとして販売している。車両販売の延長上のこのビジネスに加え、2020年を目処にほとんどの新車にはこのDCM端末が装着されさらにビジネスは発展していく。

トヨタは車両販売とコネクティッドサービスを行いながら、走行データなどを集め別のデータサービスビジネスを展開。かつ将来の自動運転のOSS開発のためにビッグデータを蓄積させていく。

全車DCM装着というのはトヨタの大きな決断であるとともにさらなるビジネス拡大のチャンスでもあり、TMSはこの機能をフルに活用したビジネスを展開することになる。

TMSは東京地区のトヨタのレンタ・リース会社が母体なのだが、日本全体を見るとトヨタのレンタカー、リースカー事業は主としてトヨタの販売店資本がもつ全国1200店舗の拠点でフランチャイズ運営されている。リース部門は法人ユーザーの取引先を数多く抱えている。コネクティッド技術を使った運行管理サービスなどをパッケージで法人ユーザーにソリューション販売することはすんなりと入っていけるビジネスなのだ。クルマを売るあるいはリース契約をすると同時に、顧客の車の運行に関する悩みを一気に解決するというものだ。トヨタ、TMS、販売店と大口ユーザーにベンチャー企業がタッグを組んで新たなビジネスが生み出されるかもしれない。

縮んでいく日本市場にチャンスを

また、現在拡大中のカーシェアリングビジネスへの参入も考えられているようだ。レンタリース事業と比較すると、カーシェアリングが短時間かつ比較的狭い範囲での利用が多く価格設定と収益性確保が課題ではあるが参入障壁は少ないと思われる。車両販売店やレンタ店といった全国にある営業、サービス拠点の活用やDCMコネクティッド機能の活用により自社保有型のシェリングビジネスでは競合他社とは圧倒的な競争力を発揮できそうだ。

TMSは自ら東京地区でのレンタリース事業で収益をあげながら、コネクティッドサービスや法人向けソリューションビジネスを実践、蓄積したビジネスモデルやプラットフォームをレンタリース店だけでなく車両販売店へも展開して行くものと思われる。

縮んでいく日本の自動車市場の中で、トヨタは5000店以上5系列(トヨタ4系列とレクサス店)ある販売網の整理を発表している。すなわちトヨタ、トヨペット、カローラ、ネッツ系列を実質1系列に絞り、店舗数の削減や取り扱い車種の共通化を測ろうとしている(前述の通りこれに加えトヨタレンタの店舗が1200拠点)。拠点の整理という地場資本にとって元気の出ない話題の中で、時流に乗ったコネクティッドビジネスのチャンスのネタを与えるというアイデアは地場資本とともに歩んできたトヨタの国内販売部門ならでは展開と言えよう。

<藤井真治 プロフィール>
(株)APスターコンサルティング代表。アジア戦略コンサルタント&アセアンビジネス・プロデューサー。自動車メーカーの広報部門、海外部門、ITSなど新規事業部門経験30年。内インドネシアや香港の現地法人トップとして海外の企業マネージメント経験12年。その経験と人脈を生かしインドネシアをはじめとするアセアン&アジアへの進出企業や事業拡大企業をご支援中。自動車の製造、販売、アフター、中古車関係から IT業界まで幅広いお客様のご相談に応える。『現地現物現実』を重視しクライアント様と一緒に汗をかくことがポリシー。

《藤井真治》

藤井真治

株式会社APスターコンサルティング CEO。35年間自動車メーカーでアジア地域の事業企画やマーケティング業務に従事。インドネシアや香港の現地法人トップの経験も活かし、2013年よりアジア進出企業や事業拡大を目指す日系企業の戦略コンサルティング活動を展開。守備範囲は自動車産業とモビリティの川上から川下まで全ての領域。著書に『アセアンにおける日系企業のダイナミズム』(共著)。現在インドネシアジャカルタ在住で、趣味はスキューバダイビングと山登り。仕事のスタイルは自動車メーカーのカルチャーである「現地現物現実」主義がベース。プライベートライフは 「シン・やんちゃジジイ」を標榜。

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