「いわずもがな」なのだが、中国は(実質的に)共産党一党独裁国家である。
軍はもちろんのこと、国家の実務を遂行する各部局や地方行政なども全て共産党の政策の下で動いている。本来は利潤追求を目的とする企業も、国有企業のみならず民間企業ですら党の指示に従わざるを得ない。新車市場規模が小さく購買層も一部の富裕層に限定される東南アジアの各国での事業展開。投資リスクの少ない本国からの完成車輸出に留めておきたいのが本音なのであろうが、ASEAN各国のルールに従い国産化投資を行い進出のステージを上げていく背景には、ビジネスというよりは中国政府の「一帯一路」政策があると思わざるを得ない。
◆インドネシアのウーリン
日本車ブランドが90%を越えるインドネシアに進出して久しい五菱(ウーリン、Wuling)。日本への進出も表明している。中国本国での会社名は上海通用五菱汽車。なぜこんなに長ったらしい名前なのかは今回は言及しないが、要は上海汽車と米国GM社と五菱汽車集団の合弁会社で、本社は広西チワン族自治区柳州市となっている。インドネシアの事業マネージメントは上海汽車のようである。
進出は今から6年前の2017年。中国車他社のそれまでのコピー車輸出が失敗に終わったことを鑑み、最初から現地での本格生産を目指したビジネスにチャレンジした。当初の国産化モデルは中国でのベストセラーであった『宏光』をベースに専用開発したモデル(インドネシア名:Confero、Cortez、Fermo)。基本コンセプトはインドネシアのディフェクト・スタンダードとも言えるトヨタのミニバン『アバンザ』と『イノーバ』を研究し尽くしたものだ。7~8人乗りのガゾリンエンジン車で、販売・サービス網の構築なども日本メーカーがこれまでインドネシアで実施してきた施策を地味に踏襲。販売価格も同クラス日本車と比べ30%くらい安く、日本車の牙城を崩すほどではないものの一定の販売量を確保してきている。
◆BEV優遇策で俄然活気づく中国車
そうした状況下、インドネシア政府主導のBEV(バッテリー式電気自動車)優遇策によってさらに活気付いたウーリン。中国本国のBEVベストセラーである『宏光Mini EV』をインドネシア市場に投入。「ちっちゃくて可愛いBEV」という目新しさがユーザーの支持を得て、昨年年末には月販2000台規模となりインドネシアでもBEVのベストセラーに躍り出た。これまでガソリン車で蓄積した現地国産化の経験をベースに本年より現地生産がスタートしタイへの輸出も始まっている。