東南アジアの自動車市場に異変、マレーシアに追い抜かれそうなタイ新車販売【藤井真治のフォーカス・オン】

タイ バンコク(参考画像)
  • タイ バンコク(参考画像)
  • ASEAN3カ国新車市場推移(データ参照:タイFTI、インドネシアGAIKINDO、マレーシアMAA)
  • タイSUV(Cクラス/Cセグメント)主要モデル月度販売推移
  • マレーシア クアラルンプール(参考画像)
  • トヨタ カローラクロス
  • ホンダ HR-V
  • BYD ATTO 3(参考画像)。BEV車でハイブリッド中心のトヨタやホンダの同CセグメントSUVを猛追中
  • マレーシアのベストセラー プロデュア『Bezza(ベザ)』。国民車カテゴリーとして優遇されており、国際ブランドよりも格段に安価

2023年ASEAN各国の新車販売戦線は最終コーナーに差し掛かり、各メーカーの販売台数も追い込みムードとなっている。日々の現場から少し目線を上げて国別の新車市場規模を見てみると、販売の第一線では気が付かない異変が起こっている。

個人消費に支えられインドネシアと拮抗していたタイの自動車市場が、コロナ禍以降の回復にもたつき前年割れ月が続いているのだ。このまま行くと年間市場(=販売新車販売総数)でマレーシアに抜かれそうな気配である。

◆マイナス基調が続くタイ自動車市場

タイの自動車市場は、2012年に140万台と空前の新車販売を記録しASEANナンバーワンの自動車市場になって以降は、2013年からインドネシアに首位の座を明け渡し、コロナ禍で市場停滞ステージを迎えた。昨年2022年は回復基調に向かったもの、コロナ前までの水準には戻ってはいない。本年に入るとコロナ前の水準に戻るどころか前年割れ基調で、1−9月時点で58万6000台と前年比7.4%のマイナスである。ASEANのもう一つの自動車拠点であるインドネシアが昨年は100万台を越え、すでにコロナ前までに回復、本年1−9月もほぼ前年並みを維持という状況と明暗が分かれている。(それぞれGIKINDO FTIデータ)

ASEAN3カ国新車市場推移

と書くと、読者から「タイの自動車市場は中国製BEV(バッテリー電気自動車)の参入で盛り上がっているんじゃないの!?」とブーイングを受けるかもしれない。

確かに、本年に入ってタイ政府の大盤振る舞いのインセンティブ策によって中国製のBEVは大きく販売を伸ばしており、例えば日本でもお馴染みのBYD『ATTO 3』やインドネシアにも進出を表明しているNETAは同じSUVタイプのトヨタの『カローラクロス』(ハイブリッド)やホンダ『HR-V』と肩を並べるほどの販売実績となっている。中国製テスラや長城汽車のORA、MGのBEVも市場での存在感を示している。しかしながら、それはあくまで中高級モデルの販売戦線という局地戦の出来事で、自動車市場全体はむしろ低調どころかマイナス基調が続いているのである。特に低価格の乗用車として使用されるピックアップトラックやハッチバックのコンパクトカーの不調が著しい。

タイSUV(Cセグメント)主要モデル月度販売推移

◆好調なマレーシア、自動車普及拡大に繋がる兆候か?

代わって好調なのがマレーシア。同本年1−9月の新車販売は57万2000台で前年比11.1%増。コロナからの景気回復対策として昨年から今年年初にかけて実施された新車購入促進策によって伸長した自動車市場が、インセンティブ終了後も続いている。こちらは、庶民の足ともいうべき低価格の国民車プロトンやプロデュア中心に販売を伸ばしているのである。


《フォーカスオン》

藤井真治

株式会社APスターコンサルティング CEO。35年間自動車メーカーでアジア地域の事業企画やマーケティング業務に従事。インドネシアや香港の現地法人トップの経験も活かし、2013年よりアジア進出企業や事業拡大を目指す日系企業の戦略コンサルティング活動を展開。守備範囲は自動車産業とモビリティの川上から川下まで全ての領域。著書に『アセアンにおける日系企業のダイナミズム』(共著)。現在インドネシアジャカルタ在住で、趣味はスキューバダイビングと山登り。仕事のスタイルは自動車メーカーのカルチャーである「現地現物現実」主義がベース。プライベートライフは 「シン・やんちゃジジイ」を標榜。

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