自動車産業の生き残りを賭けた取り組み…トヨタ自動車 パワートレーンカンパニー 安部静生 常務理事【インタビュー】

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自動車産業の生き残りを賭けた取り組み…トヨタ自動車 パワートレーンカンパニー 安部静生 常務理事【インタビュー】
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いまだ姿を現さないトヨタのEV。ハイブリッドで培った電動化技術と、全固体電池という強みを生かして、どのようなEVを目指すのか。そして、EV用電池の生産というフロンティアにどう挑むのか。トヨタ自動車 パワートレーンカンパニーの安部静生常務理事に聞いた。



安部常務理事が6月21日のセミナーに登壇し最新の取り組みを説明します。詳しくはこちら。



買い替えるだけの商品力を持っているか


---:トヨタが作るEVには、他のメーカーに対してどのような特徴やアドバンテージがあるのでしょうか。

安部氏:これは核心をついた難しいご質問だと思います。まずトヨタには、ハイブリッドカーを最初に商品化したように、将来本当に必要な技術は、いろいろなリスクを背負った上で、まず自分たちの手でやり始めようという文化があると思っています。そうやって世の中にまず示して、そしてそれを普及させるための努力を継続的にやって行く、ということをします。

ハイブリッドだけではなくて、例えばFCVの『MIRAI』を最初に出したのも同じことで、FCVという技術がまだ見向きもされなかった頃から手をつけて、すぐに商売になるわけではありませんが、進化させながらやっと世の中に出しました。その次のステップとして、FCVを普及させるための努力を継続的にやっていきます。プリウスで取り組んできたのと同じようにです。

EVでも、ハイブリッドと同じように努力しています。1990年代に『RAV4 EV』を発売して以降、今なお継続してEVに取り組んでいるのですが、ハイブリッドのような結果を出せていないのは、簡単に言うとハードルの高さが違うからです。

例えばハイブリッドという技術は、いま各社が取り組んでいて、普及していく段階にあって、各社そんなに差がなくなってきました。そのいい例が、日産さんの『ノート eパワー』です。シリーズハイブリッドという、トヨタとは少し違うシステムですが、同じレベルの環境性能を担保して、『アクア』と競合する商品力を実現されています。そういう時代にハイブリッドは既になっています。

いっぽうEVはどうかというと、各社が取り組んでいますが、お客さまの心をひきつけるだけのものがまだできていないと思います。そういう中でトヨタが目指すEVとは、単純に言うと、お客さまが今の車、つまりエンジン車やハイブリッドからEVに買い換えるだけのメリットがある商品力を持った車にするしかないと思っています。

例えば燃費性能では、ハイブリッドもランニングコストは相当なレベルまで来ていますから、EVのほうが燃費がいいから買い換える、と言えるかというと、それはまだ違うと思います。

では、走りはと言うと、例えばテスラさんのように車両にお金をかければ訴求できるかもしれませんが、普及価格帯でできるかといえば、難しいと思います。

つまり今はまだEVにはネガティブ要素が多くて、例えば充電時間が長い、充電スポットを探すのも手間がかかる、あるいは自宅には急速充電装置を作れない、などいろいろな課題があるわけです。そういったネガティブな要素を小さくしようと各社で取り組んでいるのが現状です。

ただ、ネガティブな要素をいくら小さくしても、お客さまにはEVに買い換えたら嬉しい、というところまで持っていかなくてはいけない。つまり、トヨタは何を目指すかという話だけではなく、どのメーカーも目指すべきことは、お客さまが、今の車から買い換えるだけのポジティブな理由をもったEVを作り出すこと以外にないんです。

その中でもトヨタは、今までのハイブリッドで培った技術を100%活用して、そこに早くたどり着く、というイメージで僕はやっています。

---:普及価格帯であることに意義があるんですね。

安部氏:トヨタには「エコカーは普及してこそ環境への貢献」という考えがあります。つまり、普及する価格帯でそれを実現しなければ社会に貢献できないと思っています。トヨタがなぜプリウスからハイブリッドを始めたのか、それは、普及価格帯のクルマを環境車に変えていきたいという意思表示そのものなのです。



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全固体電池は一つの選択肢


---:昨年の東京モーターショーで、全固体電池に関して言及されました。2020年代前半の商用化を目指すとのことですね。

安部氏:EVにおいては、お客さまが求める価値と実際のコスト、製品の質がまだ見合っていないという状況を解決する最大のカギは、電池と充電なんです。その中でも技術的に非常に難しいのが電池。

EVの電池は、ハイブリッドで培った電池の進化では通用しません。ですから、1つのチャレンジとして全固体電池に取り組んでいるということです。

ですが我々は、全固体電池が主流になると決めたわけではありません。1つのチャレンジとして全固体電池のポテンシャルに掛けているということを申し上げているだけで、必ずしもそれになると決めつけているわけではありません。

---: 2020年台までに、違う技術が台頭してくることも想定しているということでしょうか?

安部氏:今の時点では、液系のリチウムの性能に比べて、全固体電池が商品として完全に上まわるところまでは行っていないのです。それを上回るポテンシャルがある、ということを言っているわけで、技術課題、生産課題は山のようにあります。

トヨタはもう全固体電池なんでしょう。液はいらなくなるんでしょう、というように捉えられるのは少し誤解だと思います。可能性のある選択肢の1つだということです。

自動車産業と電池産業は主語を1つにして


---:ガソリン車におけるエンジンのように、EVにとっては電池の性能がEVそのものの商品力を大きく左右するコア技術だと思いますが、トヨタとして、電池の技術を内製することを考えていますか。

安部氏:重要な技術というのはおっしゃる通りで、だからこそ自分たちで、古くから電池の開発をやってきました。ただ電池がエンジンと違うのは、同じ種類のものを一気にたくさん作って、みんなで使うという世界にしないと、進化しないということなんです。

EVがいま直面しているハードルを考えると、そういう世界にもっていかないと駄目だということに実はみな気づいているんです。

---:スケールメリットが非常に大きいということですか。

安部氏:スケールメリットもそうですが、電池のラインというのは、少し仕様を変えるだけでも最適化できなくなるんですね。仕様変更が可能な最小公倍数のようなラインを作ってしまうと、現状これだけ価格競争力も性能も、お客さまの求める水準に対してギャップがあるのに、最適化にならない。同じものを大量に使うという方向に行くしかありません。

1台のハイブリッドと比べ、1台のEVで使う電池の量は50倍なんです。100万台のEVといったら50倍ですから、5000万台のハイブリッドを作るのと同じ電池量が必要だということです。そういう想像を絶する電池の量を用意しなくてはいけない、ということを考えた時に、単なる技術的な話だけではなくて、どういうインフラで、どこでどうやって作るんだということも含めて考えなくてはいけないと思います。

自動車業界が生き延びるためには、CAFE法なども含めて、電動車を一定比率にしていかないと、もうCO2削減の計算が成り立たない。つまり、それだけの電動車を用意しなくてはいけない、という自動車産業の都合があります。

なぜわざわざそういう言い方をしたかというと、電池メーカーから見るとそれはリスクですよね。自動車屋は、「俺たちはこういう車をつくりたい。だから電池はこういうのが欲しい。」といろんな種類を要求しておいて、だけど量はこんなにも必要だよと言っているわけです。

これを本当に解決していくんだったら、自動車産業と電池産業は、主語を1つにして、そして量と質をコントロールすることを考えていくしかない、と踏み切ったのが去年の12月13日です。

註:2017年12月13日、トヨタとパナソニックは、車載用角形電池事業について協業の可能性を検討することに合意したと発表した。

自動車産業の生き残りをかけた取り組み


安部氏:自動車産業の生き残りをかけた取り組みです。パナソニックさんと組む意味とは。日本の自動車産業の生き残りをかけているつもりでやっているわけです。だから電池を本当に本気でやらないと、将来の自動車産業を潰すことになると思います。

---:電池メーカーも、自動車メーカーも一体になって、質と量をきちんと担保できる方法でやっていかないと成り立たないということですね。

安部氏:そうです。だから、トヨタ自動車にとっては将来の、日本の自動車会社の先頭に立って自動車産業に貢献させていただく、そういう気概がありますし、パナソニックさんは、それぞれ自動車会社の要求を見ながら、どうやってそのハードルを越えてこうか、という立場だと思うんです。

だったら一緒になって、同じ気持ちになって、お金の問題も含めて、そのハードルを乗り越えようというのが今回の発表だと思っています。

---:電池が非常にコアな技術であるからといって、トヨタの自前だけじゃ成り立たないということでしょうか。

安部氏:生産も技術も成り立たないと思います。今は、理想の状態、お客さまが求めている状態からのギャップが大きすぎるんです。

このギャップを埋めるのに、それぞれのカーメーカー、それぞれの電池メーカーがそれぞれ自分たちのアイデアだけでやっている、というのはある意味、俯瞰して見ると消耗戦なんです。

理想とするゴールがはるかに遠い状況で、皆で消耗戦をやるのではなくて、一緒にやってそのゴールに一歩でも先に近づこうよと。少なくとも日本だけでも一歩先に近づこうということを考えないといけないと思います。



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《佐藤耕一》

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