マツダ SKYACTIV-X はこれまでのエンジンと何が違うのか…「HCCI」実用化、なぜできた?

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マツダ SKYACTIV-X エンジンを搭載した試作車。外観はアクセラだが、シャシーにも次世代「ビークル アーキテクチャー」が採用されている
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  • マツダ SKYACTIV-X エンジン
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  • マツダ常務執行役員でシニア技術開発フェローの人見光夫氏
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マツダのSKYACTIV-Xの発表は、世界の自動車メーカーを驚かせたに違いない。エンジン技術者たちの永年の夢であった、ガソリンエンジンでの予混合圧縮着火(HCCI)を、実用化の水準へ持ち込んだからである。なおかつその技術を、量産市販する1~2年前の段階で、我々メディアに公開し、試作車の試乗までさせた。

◆「HCCI」とはどのような技術であるのか

ガソリンエンジンは、ガソリンと空気の混合気をピストンで圧縮し、そこでスパークプラグの火花によって着火して(火花着火という)素早く燃え広がらせ、その燃焼圧力でピストンを押し下げて力にする。

ディーゼルエンジンは、空気のみをエンジン内に吸い込み、ピストンで圧縮したところへ軽油を噴射して、高圧高温となった空気の中で自然に軽油が燃え始める(圧縮着火という)のを利用し、その燃焼圧力でピストンを押し下げる。これを実現するため、ディーゼルエンジンの圧縮比はガソリンエンジンの約2倍というのが、従来の常識だった。

その圧縮比の差によって、ディーゼルエンジンはガソリンエンジンに比べ燃費が良いとされてきた。ならば、ガソリンでもディーゼルと同じように高圧縮で燃料を噴射し、空気の中で自然に燃やせばもっと燃費をよくできると考えたのが、HCCIである。

しかし、ガソリンエンジンで圧縮比を高くすると、ノッキングという異常燃焼が起き、馬力が出なくなるだけでなくエンジン本体を壊してしまう懸念があった。なので、HCCIは夢の技術であった。
理想の燃焼に向けたロードマップ
それをマツダが実現するきっかけとなったのは、ガソリンエンジンで従来10前後だったガソリンエンジンの圧縮比を、「SKYACTIV-G」で14にまで高めたことであった。当時、ディーゼルエンジンの圧縮比は18くらいであり、14でもディーゼルまでは距離があったが、それでも、ガソリンエンジンで圧縮比14というのはとてつもない数値である。これによって、SKYACTIV-Gはハイブリッド車と同等の燃費性能をガソリンエンジンだけで実現した。

マツダは、SKYACTIV-Gの開発段階から、HCCIを視野に入れていた。そして、ディーゼルエンジン並みの高い圧縮比にSKYACTIV-Gで一歩近づいたことによって、HCCI実現の可能性が見えてきたのである。

とはいえ、まだガソリンエンジンで、ディーゼルエンジンと同じ圧縮着火を実現するには至っていない。だが、火花着火を利用しながら圧縮着火を促す道筋を掴んだ。それが、火花点火制御圧縮着火(SPCCI)というマツダの技術である。これを採用したガソリンエンジンを、SKYACTIV-Xと呼ぶ。
マツダ SKYACTIV-X エンジン
SPCCIは、スパークプラグで混合気に着火はするが、その燃焼が燃え広がるまで待つのではなく、燃え広がる火炎伝搬による高温高圧によって、燃焼室内の混合気を圧縮着火するのである。簡単に言えば、圧縮着火させるきっかけを、スパークプラグによる火花着火にさせるということだ。

これを利用することで、圧縮比16を実現するとともに、通常のガソリンエンジンで理想的とされるガソリンと空気の混合比、いわゆる理論空燃比の14.7の約2倍も空気量の多い空燃比30も実現することができる。

圧縮比が高くなることと、空燃比を大きくし、燃料に対する空気量を約2倍とするという二つの効果で、燃費をさらに改善しようとしているのである。

◆空気量を増やすことで、何が有利になるのか
SPCCI
まず、ガソリンによって発生する熱の量は同じでも、空気には熱を吸収する効果があるため、燃焼温度を従来に比べ低く抑えることができる。燃焼温度が下がれば、エンジン本体へ逃げていく熱が減るので、冷却による損失が減る。そもそも、ガソリンを燃やすことで高温を生み出しておきながら、冷却水を使って冷やすことほど無駄なことはない。エンジンのさまざまな損失のうち、冷却損失がもっとも大きな損失とされる。この損失を減らすことで、効率も上がり、燃費は改善される。

もう一つ、ディーゼルエンジンの燃費がよいのは、空気だけをエンジン内に吸い込んで、馬力の調整は燃料噴射量で行うため、空気を吸い込むためのスロットルは常に全開状態であるためだ。一方ガソリンエンジンは、エンジンに入る吸気量をスロットル弁で調節しているため、アクセルペダルをあまり踏み込まない状況では、スロットル弁が閉じ気味なので“吸い込みにくさ”という、ポンピング損失が大きくなる。簡単な例でいえば、注射器の先を指で押さえると、ピストンを引っ張りにくくなるのに似ている。ピストンを引っ張りにくければ、ピストンを引っ張ることに大きな力を奪われ、走りに使うべき力が減ってしまうことになる。それをポンピング損失という。

SKYACTIV-Xでは、空気量が約2倍になるので、スロットル弁は使っていても、アクセルペダルをわずかしか踏み込まない状況においても、空気をたくさん入れるのでスロットル弁はより開いた状態になる。このため、ポンピング損失を減らせるのである。
マツダ常務執行役員でシニア技術開発フェローの人見光夫氏
SPCCIというガソリンエンジンにおけるHCCIの活用を、なぜマツダは実現することができたのか。常務執行役員でシニア技術開発フェローの人見光夫氏は、次のように語る。

「もともとHCCIの開発をする過程で、高圧縮比を実現したSKYACTIV-Gの実用化が成りました。従来では考えられなかった高圧縮比14を、ガソリンエンジンで達成できたからこそ、次の段階であるHCCIに結びつけることができたのです。

SPCCIというスパークプラグを活用しながら圧縮着火を促す方法は、なにもマツダや私の独創ではありません。ほかの自動車メーカーのエンジン技術者も知っていることです。ただし、それをせいぜい12というような低い圧縮比で開発しても、実現の目途は立たないでしょう。14という高圧縮比を実用化し、市販していればこそ、16程度なら何とかなるのではないかという手ごたえや、目標達成の意欲を持ち、解決の方法を探っていくことができます。そこが、ほかとは違ったのではないでしょうか」

すなわち、SKYACTIV-Gという段階を経たからこそ、次への足掛かりを得たのである。なおかつ、人見氏は、SKYACTIV-Xの実現で開発が終わるわけではないという。

「マツダが考える理想の燃焼のロードマップでは、最終的には、ガソリンエンジンもディーゼルエンジンも燃焼は同じということであり、圧縮着火の次の開発目標は、断熱圧縮です」と、今回の開発成果はまだ途上の段階であると述べるのである。

◆エンジンで生きるマツダの面目躍如
マツダ SKYACTIV-X 試作車
SKYACTIV-Xの試作車の試乗会が、10月初旬に山口県美祢の試験場で実施された。試作車は、現行の『アクセラ』に、SKYACTIV-Xのガソリンエンジンを搭載したもので、私はAT車とMT車、合計3台の試作車に試乗することができた。

もちろん、まだ1~2年先の市販を目指す開発途上の段階で、人見氏も「突貫工事で仕上げたエンジンなので、気付いたことは何でも言ってほしい」といった状態であった。

試乗した3台は、それぞれにエンジン特性に違いが見られた。2000rpm付近でアクセルを踏み込むとカラカラとディーゼルエンジンのような騒音を出すもの、4000rpm以上の高回転域まで回した際には、加速の伸びがやや鈍いものなどがあった。また、アクセル操作に対する応答はよいものの、そこからの伸びが足りないものもあった。一方で、ディーゼル騒音を全くさせないものがあったり、高回転域でまさにガソリンエンジンらしく伸びやかな加速をさせるものもあったりした。

課題をまだ抱える様子はうかがえたが、一方で、従来のガソリンエンジンとほとんど違いを意識させず、ディーゼルターボエンジンとは違ったガソリンエンジンならではの壮快な加速感を味わわせる可能性を見せたのである。なおかつ、人見氏が突貫工事で仕上げたと言ったにしては、どの試乗車もドライバーが自由に運転しても走りがそれほどギクシャクすることがなく、コースの直線部分では120km/h以上まで問題なく速度を上げることができた。また途中で故障することもほぼなく無事に試乗を終えたのであった。

SKYACTIV-Xでの運転の自在さと、耐久性をすでに備えていることに驚きを覚えた。エンジンで生きるマツダの面目躍如たる開発であり、市販を待ち遠しくさせた。
マツダ SKYACTIV-X エンジン
御堀直嗣|フリーランスライター
玉川大学工学部卒業。1988 - 89年FL500参戦、90 - 91年FJ1600参戦。94年からフリーランスライターに。主な著書は『燃料電池のすべてが面白いほどわかる本』『ホンダトップワークス』『図解エコフレンドリーカー』『快走・電気自動車レーシング』『ホンダF-1エンジン』『ポルシェへの頂上作戦』『自動車ニューテクノロジー集成』『クルマの基礎知識』など。
《御堀直嗣》

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