【ホンダ ヴェゼル 700km試乗】主役になりうるガソリン車、だが乗り心地は全力で改善を…井元康一郎

試乗記 国産車
ホンダ ヴェゼル AWD
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ホンダのクロスオーバーSUV『ヴェゼル』。売れ行きはハイブリッドが優勢だが、1.5リットル直噴DOHC+CVT(無段変速機)のコンベンショナルなパワートレインも幅広くラインナップされている。そのガソリンモデルのFWDを500km、AWDを200km、計700kmほど走らせてみたのでリポートする。

◆脇役にしておくのはもったいない1.5リットル&FWD

まずはFWD。こちらはマイナーチェンジ前のテストドライブで、マイナーチェンジ後は振幅感応ダンパーを後サスペンションにも装備して乗り心地を改善したとのことで、その点を斟酌してお読みいただきたい。グレードは低速での衝突軽減ブレーキを装備した中間グレードの「X」。試乗ルートは東京・葛飾をから国道6号線経由で水戸へ。そこから内陸に入って奥日光湯西川温泉に立ち寄ってから渡良瀬渓谷を経て伊香保に。帰路は関越自動車道を通って東京に戻るというもの。

ヴェセルを走らせて最も印象が良かったのはパワートレインだ。ハイブリッドの陰に隠れてあまり目立たない存在になっているが、1.5リットル直噴DOHCは、コンパクトカー用エンジンとしてはきわめて高い能力を持ち合わせている。スペックは131ps/155Nm(15.8kgm)だが、中間域のトルクの厚さはクラス随一で、発進加速、中間加速とも、1.8リットル級のようなフィーリングであった。

日光から渡良瀬へのルートでは日足トンネルではなく、旧道の細尾峠を通ったが、CVTはむやみに高回転を使うのではなく、中間域の豊かなトルクをしっかり生かし、また一定回転ではなく有段ATのように車速の伸びに応じて回転が上がるようなセッティングになっていたこともあって、ワインディングロードでも小気味の良いスロットルワークを楽しむことができた。

熱効率が高いのもこのエンジンの特徴。ガソリンを燃やして得られる熱のうちどのくらいを運動エネルギーに変換できるかを示す「熱効率」は36.5%と、排気量1リットルあたり80ps台後半の自然吸気エンジンとしてはかなり優れた数値。また、瞬間燃費計の挙動を見るかぎり、ピーク領域を大きく外れた高負荷時の落ち込みもあまり大きくないため、山岳路でも結構良い燃費をマークすることができた。526.6km走行後の平均燃費計の数値は19.4km/リットル。給油量は27.9リットルで、満タン法の実測燃費は18.9km/リットル。走りの良さと経済性の高さの両立はかなりハイレベルで、脇役にしておくのはちょっともったいないようにも思われた。

パワートレインのネガティブ評価はノイズ。この直噴エンジンは車種やハイブリッド、非ハイブリッドを問わず、スロットルONのときに遠くから“ギイィーー”という、オケラが鳴くような音を立てる。エンジン回転数によって音程に変化がないので蓄圧のためのプランジャーか何かのノイズだろうか。雑音の音量自体はきわめて小さいのだが、気になりだすと人をいらだたせるタイプの音だ。また、せっかくのエンジン音を濁らせる要因にもなるので、質感を高める気がエンジニア陣にあるのなら取り切るべきだろう。

◆ユーティリティとパッケージングの○と×

ヴェゼルのもうひとつの大きな美点はユーティリティの高さだ。全長4.3mと、今どきのハッチバック車としてはそれほど大きくない車体寸法の中に、4人で長距離ドライブをしても狭苦しく感じることはまずないであろうルーミーな居住空間と、VDA測定法でメイン303リットル、サブ22リットルの計415リットルという大きなラゲッジスペースをきっちりパッケージしているのは他にあまり例がなく、ボディ設計の執念すら感じさせるところだ。

その荷室が容量の大きさもさることながら、出っ張りがほとんどなくスクエアなスペースであることも素晴らしい。カタログではゴルフバッグ3つを載せられることを売りにしているが、クロスオーバーSUVではゴルフバッグなど正直どうでもいい。それよりはむしろ、長期旅行用の大型トランクを3つ、中型トランクなら4つをきっちりと積み込める、欧州Cセグメント(VW『ゴルフ』クラス)に匹敵するスペースであるということのほうがすごいと思った次第であった。

これほど優秀なパッケージングを持つ一方で、室内設計での取りこぼしもある。それはシート表皮の選定だ。シートの形状や体圧分散設計は、トップクラスとは言えずともクラスの標準は十分に超えているのだが、シート表皮がそれを台無しにしている。スポーツシートのように張り出しの大きなサイドサポート部を持ちながら、そこに使われているのがポリエステルを編んだような安いクロス。見た目が悪いのはまあ我慢すればいいとして、ネガになるのは滑りやすいこと。そこそこフリクションの大きな木綿の衣服を着用していてもなお滑りはきつく、サイドサポートがサポートの役をまったくと言っていいほど果たさなかった。体の軸線が横Gでぶれることは、ハンドリングをはじめ乗り味の悪化に直結する。サイドサポート部にある程度質の良いクロスを使うか、さもなければシートバックにもっと滑りにくい素材をおごるべきだろう。

ヴェゼルの最大の弱点は、やはり乗り心地だろう。筆者は昨年、同モデルのハイブリッド「Z」グレードの試乗記で、ヴェゼルの乗り心地についてボロクソに酷評した。本当に褒めるべき点がかけらも見あたらないほどにひどかったのだが、これは17インチホイールモデルならではで、16インチホイールを履いたモデルはそれよりはずっと穏やかである。

が、相対評価でみれば、乗り心地はクラスの標準を大きく下回るレベルにとどまる。良路ではそこそこの快適性を保つが、少しうねりや段差のきつい路面になると乗り心地は顕著に悪化。とくにショックアブゾーバーのフリクション感が強いのは、実際の振動レベル以上に味を悪く感じさせてしまう。

冒頭に述べたように、FWDモデルについては今年のマイナーチェンジでフロントだけでなくリアのショックアブゾーバーも振幅感応型というタイプに変更された。目的はもちろん乗り心地の改善なのだが、フロントサスペンションの動きもあまり良くないことをみると、ショックアブゾーバーの形式の問題ではないような気がする。そもそも同じく『フィット』ベースのセダン『グレイス』は、普通のショックアブゾーバーでしなやかなストローク感を出すことに成功していたのだから、純粋にチューニングの巧拙なのではないか。乗り心地の改良については、機をあらためて検証したい。

◆ファッション重視の「生活四駆」

マイナーチェンジを挟んで、こんどはヴェゼルのガソリンAWDモデルを200kmあまり走らせてみた。ドライブルートは東京・葛飾と千葉の富津の往復。

ヴェゼルはあくまでファッション性重視のクロスオーバーSUVで、AWDありきで作られてはいない。リアデファレンシャルギアケースなどAWD特有の付加物のため、最低地上高はFWDの185mmから170mmに減少している。そもそも空力特性重視のフロントバンパー形状のためアプローチアングルはごく小さく、林道などのグラベル路向きではない。あくまで圧雪路など低ミュー路を走る機会が多いカスタマー向けの生活四駆とみるべきだろう。

走らせてみた印象だが、一般路を走るかぎり、走行感覚はFWDとほとんど変わるところはない。良路でのそこそこ滑らかな乗り心地と不整路面での乗り心地悪化という特徴もマイナーチェンジ前のFWDと同じキャラクターであった。なぜAWDについては改良を先送りしたのか、理解に苦しむところ。本田技術研究所は自分の過ちや不見識を絶対に認めないことが出世のカギを握るような体質があるため、チューニングの非を認めたがらないのか、それとも問題意識が薄いのか。いずれにせよ、この放置ぶりを見ると、FWDモデルの改良もタカが知れているのではないかと思えてしまう。

動力性能的には、FWDに比べて80kg重いことやドライブシャフト、デファレンシャルギアなどの抵抗が増える分、いくら1.5リットル直噴のパワーフィールがいいといってもさすがにちょっと辛いのではないかとも思ったが、少なくともオンロードではそれは完全に杞憂で、パフォーマンスは素晴らしいものだった。燃費も優秀で、202.9kmのドライブを終えた時点の燃費計表示は17.6km/リットル。給油量は11.9リットルで、満タン法による実燃費は17.1km/リットル。AWDのドライブ時は気温が30度を超え、FWDのドライブ時よりエアコン負荷が高めであったわりには良いスコアであった。

◆乗り心地を全力で改善すべき

総じてヴェゼルのガソリンモデルは、乗り心地を除けばちょっとヴィヴィッドなファミリーカーとして大いに価値のあるクルマであるように思われた。ハイブリッドにそう大きく後れを取らない良好な燃費、ハイブリッドに比べて大幅に安い車両価格、そしてハイブリッドに比べるとさすがに遅いが、絶対的には俊足の部類に入る動力性能…ハイブリッド志向が世界でブッチギリに高いのが日本市場の特質なだけにハイブリッドに販売が偏るのは致し方ない面もあるが、ガソリン車ももっと積極的に選ばれてもいい。

ネガティブファクターはハイブリッドと同じで、乗り心地の悪さに尽きる。ホンダのある有力ディーラーの幹部は、乗り心地の悪さでどれだけ顧客を逃がしたことかと嘆いていた。ヴェゼルは発売以来、そこそこ好調なセールススコアをマークしており、ニッチマーケットではあるがクロスオーバーSUV分野ではトップだ。国内市場において、多くのモデルが販売不振に陥っているホンダにとって、まさに干天の慈雨というべき存在となっているのだが、それは乗り心地の悪さというネガを押してマークしたものなのだ。大きな欠点は乗り心地しかないのだから、対症療法でなく全力で直せばさらに販売を伸ばせる可能性がある。

本田技術研究所の研究開発陣にやる気がないのであれば、足回りのチューニングに並々ならぬ情熱を燃やし、多くのモデルについてノーマルの乗り味の悪さを劇的に改善するような足回りをリリースしているモデューロブランドのホンダアクセスのエンジニアに期待したいところだが、振幅感応ダンパーについては手を加える権利がないのだという。かくなるうえは、マイナーチェンジに向けて同じくフィットベースのセダン、グレイスのストローク感豊かな懐の深い足回りを作り上げたテスターを起用するのがベストか。現状では資質がもったいないので、手段は何でもいいから早めの根本的改良を。

《井元康一郎》

井元康一郎

井元康一郎 鹿児島出身。大学卒業後、パイプオルガン奏者、高校教員、娯楽誌記者、経済誌記者などを経て独立。自動車、宇宙航空、電機、化学、映画、音楽、楽器などをフィールドに、取材・執筆活動を行っている。 著書に『プリウスvsインサイト』(小学館)、『レクサス─トヨタは世界的ブランドを打ち出せるのか』(プレジデント社)がある。

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