【スバル レヴォーグ 改良新型 試乗】ニッチマーケットの顧客を満足させるに足る性能…井元康一郎

試乗記 国産車
スバル レヴォーグ 1.6GT EyeSight
  • スバル レヴォーグ 1.6GT EyeSight
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スバルが昨年リリースしたステーションワゴン『レヴォーグ』が4月、デビューから1年を待たずして最初の改良を受けた。その改良モデルをテストドライブする機会があったのでリポートする。

各種取り揃えられた試乗車の中からチョイスしたのは、ベーシックな「1.6GT EyeSight」。昨年、同じグレードで東京と福岡の小倉間を往復したときに同グレードに乗ったのだが、先進安全装備アイサイトの最新世代がきわめて優秀な能力を持っていることが確認できた一方で、足回りのセッティングがまったくスバルらしくなく、路面からの衝撃はそこそこ丸められているのに常に内臓を揺すられるような上下振動が伝わってくるのが気になっていた。これはレヴォーグだけでなく『レガシィ』『アウトバック』も同様なのだが、スバルの開発陣もその課題は認識していたとのことで、乗り心地の改善は今回の改良の目玉となっている。

乗り心地の改善ぶりは、スタート直後から如実に体感できる。路面のうねりや補修のためアスファルトを盛ったようなところを通過しても、車体が持ち上がってから落ちるときの受け止めのしなやかさは初期型に比べて大幅に向上した。ダンパーやスプリング、サスペンションのマウントラバーなどを柔らかくするという対症療法ではなく、ショックアブソーバーのフリクション特性を全面的に見直すなど真面目な対策を施したとのことだが、その苦労はある程度報われている。

初期型も、国産勢の中で見ればアベレージよりはずっと上で、レヴォーグよりひどいクルマはゴマンとあるのだが、新しくスバルの世界に入ってきた顧客はともかく、昔から「スバルは実はいいんだ」とニンマリしていたような顧客を満足させるには程遠かった。スバルがデビューから1年を待たずしてこれだけ懸命に改善を図ったのは、乗り心地が秀逸だった先々代レガシィからの乗り換え客が多かったからなのだそうだ。その乗り心地にはいまだ及んでいないものの、これならある程度受け入れてもらるのではないか。

もっとも、乗り味でいえば、プラットホームの多くを共用するスポーツセダン『WRX S4』にはまだ及んでいない。レヴォーグにはビルシュタインショックアブソーバーを使用する上級の「GT-S」グレードも存在し、そちらはさらにいいという話も聞くが、WRX S4はビルシュタイン版だけでなく、カヤバ版も素晴らしい足で、ロール剛性を高く設定しながらもなおしなやかな乗り心地を持たせることに成功している。

レヴォーグはレガシィに比べてサスペンションストロークの制約がきついそうで、先々代レガシィのような乗り味にはならないのだろうが、WRX S4の出来の良さを思えば、サスペンションストロークが短いなりの良い乗り味を追求する余地はまだまだあるように思えた。

成田から少し離れたところに広がる、路面の荒れた田舎道も走ってみた。そこでの路面の凹凸の吸収性は非常に良く、悪い道のドライブでも身体へのストレスは非常に小さい。ただ、足の悪いクルマで通過するとガタガタでたまらんと感じるような路面も平和に乗り越えるくらいの許容性があるのに、その平和な中にちょっと残る揺動が、雑味として感じられてしまう。

これは性能の問題ではなく、やはり味付けの問題だ。クルマの開発陣にとって、どういう衝撃、振動を優先的にカットするかというのは常に悩みどころだ。フラット感、ハンドリング、静粛性などをバランスしながら路面の凹凸を全部を取り切るのはもちろん不可能で、どうしても残る部分はある。人間の感覚とは面白いもので、その衝撃、振動の残り方によって、同じような物理量でも良く感じたり悪く感じたりする。言うなれば、車が路面の悪いところを通過したときに、クルマがショックを取りきれなかったと感じるか、本来は不快に感じるところをクルマがこれだけ頑張ってくれたと感じるかという違いだ。乗る人が「これだけ頑張るとは可愛いヤツめ」と感じるような味付けを研究すれば、元が悪くないだけにもっと評価は上がるだろう。マイナーチェンジでそのあたりが改良されれば、評価はさらに上がるだろう。

1.6リットルターボ+チェーンドライブ式CVTからなるパワートレインは初期型と変わらず。ただ、アイドリングストップ制御の改善によって、JC08モード燃費は17.4km/リットルから17.6km/リットルへと、わずかながら向上している。

エアコンAUTO、1名乗車、暖気済みスタート、高速道路2割、市街地と郊外路8割の比率という条件で40kmあまりを走った結果、燃費計表示は15.0km/リットル。1.5トン超のAWD(4輪駆動)ステーションワゴンというキャラクターを考えれば十分に受け入れられる数値と言えそうだが、やや元気な発進加速やハイウェイクルーズでの再加速など、負荷が高まる領域の効率は、直噴ダウンサイジングターボエンジンとしては凡庸。熱効率の良好な範囲がもう少し広くなるよう改良してほしいところだ。

乗り心地が改善され、商品力は確実に高まったといえる改良型レヴォーグ。国産勢では欧州Cセグメント相当の低車高・低重心ステーションワゴンのライバルが不在で、あえて挙げてもホンダの低車高ミニバン『ジェイド』くらいのものだ。ニッチマーケットの顧客を満足させるに足るだけの性能は十分に出ている。が、ちょっと車種が変わってもいいのであれば、同日に試乗した『エクシーガ クロスオーバー7』が1.6GTと同じくらいの価格にもかかわらず、これぞスバルというフラットライドを実現しており、高度なコーナリング性能を求めないのであればそっちも大いに魅力的だった。チョイスが少々悩ましいところではある。

《井元康一郎》

井元康一郎

井元康一郎 鹿児島出身。大学卒業後、パイプオルガン奏者、高校教員、娯楽誌記者、経済誌記者などを経て独立。自動車、宇宙航空、電機、化学、映画、音楽、楽器などをフィールドに、取材・執筆活動を行っている。 著書に『プリウスvsインサイト』(小学館)、『レクサス─トヨタは世界的ブランドを打ち出せるのか』(プレジデント社)がある。

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