【三菱 デリカ D:5ディーゼル 640km試乗後編】「クロカン4WDの三菱」面目躍如、ただ燃費はもう一息…井元康一郎

試乗記 国産車
安ヶ森林道の洗い越し。何のこともないように見えるが、ホイールベース中央のクリアランスは210mmの地上高でも結構ぎりぎり。
  • 安ヶ森林道の洗い越し。何のこともないように見えるが、ホイールベース中央のクリアランスは210mmの地上高でも結構ぎりぎり。
  • デリカD:5はこういう道によく似合う
  • デリカD:5ディーゼル
  • 奥只見シルバーラインの素掘りトンネル
  • 国道352号線を走行中
  • 国道352号線の路上を融雪水が流れる。俗に言う“洗い越し”だ。
  • 安ヶ森林道名物の古トンネル
  • 路面の悪い道でも車内は平和そのものだった。

三菱自動車のミニバン『デリカD:5』のクリーンディーゼルモデルをオフロードを含め約640km試乗したのでリポートする。市街地、雨の高速道では、本格SUVライクな乗り味と、驚きの衝撃吸収性を見せた。後編では山岳路でのインプレッションと、燃費性能にフォーカスする。

◆重量級ミニバンとは思えぬ軽快さ

デリカD:5での山岳路走行は、大柄な重量級ボディ、高い重心などから少々きついのではないかと予想していたが、実際に走ってみると、速さはないものの意外なほど軽快であった。ほぼ全区間にわたってAWDモードで走行したのだが、コーナーでの後輪への駆動力配分制御が適切で、気持ち早めにコーナーのインに付いてスロットルを踏み込むと、自然なロール姿勢をクルマが作ってくれる。重量級のミニバンを振り回すようなストレスはごく小さかった。

南会津から栃木・奥日光に向かうには通常、日光街道を通るのだが、そのサブルートに舘岩から湯西川温泉に抜ける通称・安ヶ森林道がある。栃木県側は舗装が完了しているが、福島県側は全線グラベル(砂利)、ダート(泥濘)の未舗装路である。この区間のデリカD:5の走りは、かつて“クロカン4WDの三菱”と言われた三菱自の面目躍如の感があった。試乗車のタイヤはマッドアンドスノーでもない普通の夏用タイヤだったのだが、リスクの小さなグラベル区間は60km/hでゆうゆうとクルーズすることができ、そのさいの乗り心地も快適であった。

ダート区間ではさすがにペースが落ちるが、電子制御AWDシステムはそこでも大変良い仕事をした。とくにサマータイヤでダートを走る場合、コーナリング中に不用意にアクセルを開けると強いアンダーステアが出てクルマがまっすぐ進んでしまうことがままあるのだが、デリカD:5は後輪の外側に駆動力を強めに与える制御が働くようで、リアがパワースライドして鼻先がちょうどコーナー出口を向くというイメージだ。

安ヶ森林道にも路上を沢が流れる洗い越しが点在しているが、未舗装であるため沢の前後の段差は舗装路である国道352号線と比べても格段に大きい。そのため、普通乗用車では微速で通過してもフロントバンパー下部を擦ってしまいがちなのだが、最低地上高が高く、アプローチアングル(坂道へのさしかかりでフロント下部を擦らない限界角度)、デパーチャーアングル(坂道全体に車体が乗った時、リアバンパー下部を擦らない限界角度)にも余裕があるため、何の気兼ねもなく走り抜けることができた。

◆デリカD:5ディーゼルの真価

総じてデリカD:5ディーゼルは、街乗りも悪いというわけではないが、ロングツーリングで初めて真価が発揮されるタイプのミニバンであった。美点はここまで述べてきたように、オフロードや山岳路の走行を苦にしない走破性と、大型SUVライクな個性的な乗り味。

また、640kmを走って実感したことはシートの良さ。オフロード走行時の路面からの衝撃をやわらげるため、シート座面が分厚く設計されており、それが図らずも長距離走行時の疲労を大きく軽減させることに役立っていた。

動力性能も優秀。最高出力は148馬力と、傑出した数値ではないが、高速道路のサービスエリアからの合流を利用して0-100km/h加速を手動計測してみたところ、9秒弱。このクラスのミニバンとしてはかなりの俊足と言える。

一方、短所として気になったのは、最新のクリーンディーゼルを搭載しているわりには燃費性能が凡庸なこと。とくに高速道路を速い流れに乗って巡航した往路の関越道区間は満タン法の実燃費で12km/リットル台と、甚だ不本意な数値であった。国道352号線、林道を通った山岳路区間は14km/リットル弱。復路の東北道区間でクルーズ速度を80~90km/に抑えて走った時が最も燃費が伸び、15km/リットル台であった。排気量が3.2リットルと大きく、重量も400kg以上重いパジェロのクリーンディーゼルをドライブしたときの実燃費がデリカD:5ディーゼルと同等以上だったことを考えると、もっと頑張ってほしいところである。

◆パジェロディーゼルとの違いとは

燃費を思うように伸ばせなかった大きな要因は、ATのシフトスケジュール。3速、4速の中間ギア段では1500rpm以下ではパドルシフトを使ってもシフトアップせず、6速には60km/h近くでないと入らなかった。低速で流すときに慣性力を利用して空走しようとしてもエンジンブレーキで失速し、速度が落ちると自動的にシフトダウンされてしまうため、また速度が落ちる。速度維持のために無駄にアクセルを踏み続ける必要があるという感じであった。そのあたりはアイドリングプラスアルファの領域を存分に使えたパジェロディーゼルと根本的に異なる。

後日、なぜそのようなセッティングになったのか、パワートレイン開発担当者から話を聞く機会があった。ディーゼルの排ガス浄化装置の性能保持などの理由があるのかと思いきや、そこには問題はまったくなく、純粋に騒音・振動対策のためなのだという。低速ではもともとそれほど静かなクルマではないし、SUVファンだけでなく街乗りユーザーも取り込みたいという思いもわからないでもないが、ディーゼルの持ち味を活かすのであれば、低回転の積極活用を可能にするようなモードも欲しい。

また、これはハードウェアとしての短所ではないが、外装デザインもデリカD:5の弱点であると思われた。とてもクリーンなスクエアボディで、曲面の質もなかなか綺麗に仕上がっているのだが、普通のミニバンユーザーにも買ってほしいという色気を出したのか、あまりに無難に過ぎる。せっかく高いオフロード性能、クルーズ性能を持ち合わせているのに、そのことをビジュアルで表現できていない。

◆SUVとして使える足まわりとディーゼルの粘りが見どころ

とはいえ、デリカD:5ディーゼルは、今日において唯一無二の乗用ディーゼルミニバンであり、SUVとしても使える卓越した足まわり、ボディーワークを持っていることに変わりはない。また、オフロードや山岳路でも重量級ボディをものともしないディーゼルの粘りも魅力。デビュー後7年という古参モデルではあるが、思いのほか見どころのあるモデルというのが率直な感想だった。

《井元康一郎》

井元康一郎

井元康一郎 鹿児島出身。大学卒業後、パイプオルガン奏者、高校教員、娯楽誌記者、経済誌記者などを経て独立。自動車、宇宙航空、電機、化学、映画、音楽、楽器などをフィールドに、取材・執筆活動を行っている。 著書に『プリウスvsインサイト』(小学館)、『レクサス─トヨタは世界的ブランドを打ち出せるのか』(プレジデント社)がある。

+ 続きを読む

【注目の記事】[PR]

編集部おすすめのニュース

特集