【ニュル24時間 2014】新型マシンで必勝期すスバル WRX STI…監督&ドライバーの意気込みは

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左からスバル・チームの吉田寿博選手、辰巳英治総監督、佐々木孝太選手
  • 左からスバル・チームの吉田寿博選手、辰巳英治総監督、佐々木孝太選手
  • スバル WRX STI NBRチャレンジ2014
  • スバル WRX STI NBRチャレンジ2014
  • スバル・チーム総監督・辰巳英治氏
  • 左からスバル・チームの吉田寿博選手、辰巳英治総監督、佐々木孝太選手
  • 吉田寿博選手
  • 佐々木孝太選手
  • 吉田寿博選手(左)と佐々木孝太選手(右)

スバルは、ドイツで6月19日から22日に開催される「2014ニュルブルクリンク24時間耐久レース」に、新型『WRX STI』をベースとしたレースカー『WRX STI NBRチャレンジ2014』で参戦する。

お客さんの愛車を開発した意思がレースカーにも宿っている

このレースが開催されるニュルブルクリンク・サーキットは、全長約25kmにもなる欧州屈指の難コースだ。「世界一過酷」といわれるこのサーキットに、名だたるスポーツカーメーカーが開発中のマシンを持ち込み、幾度となく限界テストをおこなってきた。

スバルもその例外ではない。20年ほど前からこのニュルでの実走評価を続けており、なじみ深いサーキットといえる。それだけでない。スバルは2008年からこの地で開催される24時間レースに毎年参戦。これまで、2011年と2012年の二度のクラス優勝を手に入れている。

だが3連覇を期して臨んだ昨年は、残念ながらクラス2位。雪辱を誓う2014年の戦いに旅立つ直前の、スバル・チーム総監督・辰巳英治氏と、ドライバーである吉田寿博選手/佐々木孝太選手へレースへの意気込みを聞いた。

◆なぜニュルは難しいのか

「ニュルブルクリンクは安全地帯がないんですよ。たとえばサーキットでは、少々コースからはみ出ても大丈夫なコーナーってありますよね。うまくいけばめっけものくらいで飛び込んでいく。でも、ニュルでそれは絶対にない。すぐにガードレールがあって、ぶつかったら終わり。一般道もそうじゃないですか。しかも、クルマが浮き上がるところもあって、実際に何か所かジャンプもします。反対に、クルマに2Gや3Gもかかってサスペンションがフルストロークしてたわむところもあり、そういう不安定な状態でも曲がっていかなければいけません。そこで大事なのは安心感です」と辰巳氏はニュルブルクリンクの難しさを説明する。

滑りやすく凸凹があり、コーナーは170以上、高低差は約300mもある。そんなコースでは、単にパワーを追求したり、空力デバイスを追加したり高性能タイヤを装着するだけでは速く走れない。大切なのは路面をつかんで離さないサスペンションであり、それを支える強靱かつしなやかな車体。そして、ドライバーの言うことを素直に効く操縦性。そこから生まれる「安心感」がレースを戦う武器になる。

「ニュルブルクリンクを速く、安心かつ安全に走らせる。そういう技術の根底はレースも量産車を作るのも一緒です。レーシングドライバーが、1秒でも速く走ろうとするときに、必要なのは接地性であったり、安定性やステアリングの応答性だったりします。それは量産車でも変わりません。レースで磨いた技術を、量産車を作るときに使うと、ちゃんと良いクルマになる。そこに乖離がない。それがレースをする動機であり、やめられない理由にもなっているんですね」と辰巳氏。

◆ニュル24時間仕様マシンといえど9割は量産車のパーツを使用

また、レースには、市販車でもライバルとなるアウディやフォルクスワーゲンといった欧州メーカーも参戦する。しかも、スバルのレースカーであるWRX STI NBRチャレンジ2014は、使用する部品の約9割が量産車と同じだ。ここで勝つことは、そのままスバル車の優秀さの証明にもなるのだ。

「たぶん普通にやれば勝てるでしょう。でも、何があるか分からない。レース中のドラマは常にありますからね」と、辰巳氏は自信と不安の両方をのぞかせる。

そうした戦いには、ファンによる応援が非常に重要だという。

「ファンがいないとレースはありません。自動車メーカーの開発は、お客さんがいて買ってくれるだろうからやっているわけです。ましてレースは、ファンがいて、そのファンに喜んでもらいたいからやる。それこそサッカーで12人目の選手はサポーターだと言いますが、我々にとってお客さんがいてくれることが、レースをやるモチベーションです」

ちなみに、スバルでは公式のUstream配信を予定している。そこでのリアルな書き込みはチームもチェックしているという。

「お客さんのクルマを作った意思がレースカーにも込められていて、それが24時間走り続ける。そこに必ず、いろんなドラマがあって。本当はドラマなんてあってほしくはないんですけれど(笑)。24時間でいろんなことが起きますが、それをクリアしてチームとして勝利を手に入れる。それができれば最高。その過程を楽しんでください」

◆悔しい1年間を通して、マシンもチームも進化

今回の戦いに起用されたドライバーは、吉田寿博選手、佐々木孝太選手、マルセル・ラッセー選手、カルロ・ヴァンダム選手の4人。いずれもニュルブルクリンク24時間耐久レースに何度も参戦しているベテランばかりだ。今回は、吉田選手と佐々木選手の2人に話を聞くことができた。

「新しいWRX STIですので、本当に勝たなくてはダメだと思っています。去年も3連覇ということで同じ思いがあって行ったんですけれど、レースって、ある意味、水もので、運も味方にしないと優勝ってなかなかできない。そういう意味で去年は2位になってしまった。今年は新しいクルマだし、優勝奪還をしないとダメかなという気持ちで、クルマ作りだったり、チームの構成だったり、ドライバーのミスを少しでも減らそうとやってきました」と吉田選手。

「このレースは1年に1回しかないのがミソ。このレースに勝てれば1年間良い気持ちで過ごせる。勝てないと悔しさを抱えながら、次は絶対に勝つぞ! という思いでいくので、勝つのと勝てないのでは、その後の1年がぜんぜん変わってくるんですね。そういう意味では、チームみんなの気持ちはより強くなっているし、この1年間で、いろんなものが進化して、成長していると思います。その成果を見せるときが来たかな」と佐々木選手。

今年の意気込みは? という質問に対して、二人のドライバーはどちらも昨年の悔しさと今年の優勝にかける思いの強さを答えた。

レースカーであるWRX STI NBRチャレンジ2014は、次期WRX STIをベースとしているが、エンジンパワーそのものはほとんど変わらないという。リストリクターによるエンジンへの吸気制限を始めとする厳しいレース・レギュレーションの結果であるが、それでも最新のマシンは、6年間と比べて40~50秒ほども速くなっているという。それはすべてシャシーの性能向上によるタイムアップなのだ。

「新型は本当に挙動が安定しているんですよ。今までだと“ちょっとリアが滑ってくるかな”というところが、新しいWRX STIならばオン・ザ・レールで走れる。乗ると進化がすぐ分かる。だからドライバーは安心してドライブできる。ハンドルからくるインフォメーションも高いし、動力性能は一緒なのに、ボディの作り方の違いでこうも変わるんだ!と。加速もよくなるし、ブレーキングも安定している」と吉田氏はシャシーの進化を体感しているという。

◆チームと同じドラマを共有できることが現代の耐久レース

勝つための準備を行い、レースカーの仕上がりも上々。そうなれば自信も生まれる。

「僕が初めてニュルに出た2011年に、ちょうどドイツで女子サッカーのワールドカップがあり、日本女子が優勝しました。同じように自分も、その年は優勝できた。ドイツで騒いでいる感じが、すごく気分が良かったんですよ。僕も日本代表として行っているつもりだったし、俺らも優勝したし、サッカー女子も優勝して、お互い頑張ったな的な(笑)。今年も男子のワールドカップもありますし、その盛り上がり感が一緒で。なんとなく良い雰囲気ってあるじゃないですか。うちらもサムライブルーと同じブルーでピンクも入ってますし(笑)」と佐々木氏は雰囲気の良さを感じているという。

「年々、スバルが挑戦している姿を見ている人がどんどん増えている感があります。そういうのは、すごくありがたい。遠い国でのレースなのに、みんな気にしてくれている。それをどんどん増やしていきたいなと。スバルだけでなく、トヨタさんも行くし、日産さんも行くし、日本車全体を応援してほしいなと。スバル好きにはどんどん見て欲しいですね。現地でないと分からない雰囲気もありますから、なんとかUstreamでそういうリアル感を出したいですね」と吉田氏。

「僕らスバルは1台だけの参戦なんですよね。なので、向こうにいくとちょっと寂しい感があるんです。できれば、Twitterなり、Facebookなりで応援や檄を飛ばして、盛り上げてほしい。そして最終的には優勝を分かち合いたいですね」と佐々木氏。

最後の最後、ゴールになるまで分からないのが耐久レースだ。公式Ustreamなどを活用すれば、24時間リアルタイムでレースを追いかけることができる。チームと同じドラマを共有する。これが今どきのレース観戦スタイルなのだろう。

《鈴木ケンイチ》

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