かつて、日本にはワゴン黄金期があった。1989年に『レガシィ』がツーリングワゴンを発表したのをきっかけに、各社が乗用車ベースのワゴンを開発。それまでライトバンの乗用タイプだったものが、荷物が積めるセダンとしての地位を築くに至った。
私はワゴンとライトバンに共通性があることを悪いとは思わない。いやどちらからといえば共通性があるべきだと思っているが、世間の評価は「商用車とは違う」ことをよしとして、バンの存在しないワゴンを歓迎。爆発的にワゴンが売れた時代が訪れた。
この時代は非常に多くの車種にワゴンが設定されたんのはもちろんだが、日産の『ステージア』などワゴン専用車も登場。そしてブームが訪れる以前からあったクラウンや『セドリック』&『グロリア』などの高級ワゴンは羨望のまなざしで見られた。
しかし、次第に市場の人気は次第にミニバンに移行し、ワゴンの人気は衰退。現在の国産各社のワゴンラインアップは悲惨で、とくにプレミアム系のワゴンは、レガシィ(アウトバック含む)と『アコード』、そしてこの『アテンザ』くらいしかない(トヨタの『アベンシス』は英国製)。
そうしたなか、アテンザはフルモデルチェンジによって、非常に高い商品性を手に入れた。まずサイズだ。全幅は1840mmでアコードとは同一だが、レガシィよりは50mm幅広、アウトバックと比べても20mm広い。全長は4800mmでアコードより50mm、レガシィ(アウトバック含む)より10mm長い。つまり国産ワゴン最大サイズを誇る。
搭載されるエンジンは2リットルと2.5リットルのガソリン、そして2.2リットルのディーゼルターボだ。もちろん、ディーゼルターボを積むのはアテンザだけ。レガシィには300馬力のターボもあるが、これは方向性が違う。どちかというと3.6リットルの6気筒がライバルだ。
アテンザのディーゼルターボの最大の特徴は、低速からググッと盛り上がるトルク。420Nmのトルクをわずか2000回転で発生してしまう。トルクカーブ自体がフラットなので、つねに力感のあるドライブが可能。どの速度からでも、アクセルペダルを踏み増せば、身体を後ろに持っていかれるような加速感を味わえる。
回転でパワーを稼いでいる感じとは違うしっかりとした力感は、高級感にもつながる。ボートを漕ぐときに小さい面積のオールで何度も漕ぐのか、大きい面積のオールで少なく漕ぐのかの違いと同じ。大きいオールで漕ぐと落ち着き感があるる。グイッ、グイッと前に押し出される感覚が気持ちいい。
これは実際にディーゼルエンジンの特性でもある。1回1回の燃焼で得られるトルクが大きいから、エンジン回転をあげる必要がないのだ。こうしたディーゼルエンジンは、長距離ドライブではとくにその真価を発揮する。トルク変動が少ないので、一定の速度で走り続けることが楽。
さらに追い越し加速なども、シフトダウンをすることなく余裕のトルクで行える。アテンザはそれを見越して、シフトダウンしにくい変速プログラムを採用したうえで、必要なときに意図的にシフトダウンできるように、キックダウンスイッチが追加されている。
ゆったりと巡航し、必要とあれば少しアクセルペダルを踏み込むとグイッと加速、さらに踏めばグググッーと強い加速が得られる。ディーゼルに限れば、エンジンのフィーリングはプレミアムワゴンらしい、しっかりしたものが得られている。
初代と先代はどちらからというとキビキビ感を強調したチューニングだったが、新型はボディが大きくなり、ホイールベールも伸びたこともあり全体的にしっとりした乗り心地のチューニングとなった。けっして運動性能が低められたわけではなく、しっかりとした運動性能を確保しながら、上級車らしいしっとり感を実現したといえる。
ラゲッジルームの使い勝手に関しては賛否両論がある。容量としては変化がないのだが、先代に比べてタイヤハウスが大きくなったため、使い勝手が落ちたという。これは先代からの乗り換えでは不便さを感じるが、新規に納得して購入した場合はあまり不便さを感じない部分だ。
先代同様にラゲッジ後方からワンタッチでスペースアップできるレバーも装備され、一般的な使い勝手は十分に高い。各種のポケッテリアも充実しており、ワゴンとしての使い勝手は、一部の欧州車などより格段にすぐれている。
ショーモデル『TAKERI』のデザインをそのまま具現化したスタイルや、格段の上級さを与えられたインテリア、ドライバーを満足させる動力性能や運動性能、どれをとっても国産プレミアムワゴンの頂点に立つクルマになったことは間違いない。
■5つ星評価
パッケージング:★★★★
インテリア/居住性:★★★★
パワーソース:★★★★
フットワーク:★★★★
オススメ度:★★★★
諸星陽一|モータージャーナリスト
自動車雑誌の編集部員を経て、23歳でフリーランスのジャーナリストとなる。20歳代後半からは、富士フレッシュマンレースなどに7年間参戦。サーキットでは写真撮影も行う、フォトジャーナリストとして活躍中。趣味は料理。