【日産 先進技術 発表】2013年投入予定の「ステアリング・バイ・ワイヤ車」試乗…井元康一郎

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日産 次世代ステアリング技術 テストカー
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日産自動車が2013年に市販車への採用を予定しているステアリング・バイ・ワイヤは、前輪の向きを機械伝達ではなく、ハンドル操作の角度やスピードをセンサーで読み取り、電気モーターで行うシステムだ。

バイ・ワイヤと聞いてまず連想されるのは、飛行機の姿勢を制御する昇降舵、補助翼などをリモートコントロールで行うフライ・バイ・ワイヤだろう。自動車でもすでにブレーキ・バイ・ワイヤ、スロットル・バイ・ワイヤなど、多数のリモコン操縦技術が実用化されている。

が、空とは比べ物にならないほど多くの不確定要素が存在する公道でドライブ・バイ・ワイヤを、いざというときには瞬時に機械接続されるというフェイルセーフを備えているとはいえ市販車に使うのは相当の度胸のようにも思える。来年までにトヨタ、ダイムラー、GMなど有力ライバルメーカーが投入しなければ、市販車では世界初の実用化となる見込みだ。

そのシステムのプロトタイプ搭載車とノーマル車2種類の現行『インフィニティG35(日本名:『スカイライン』)』を比較試乗した。

運転したのは、表面がひび割れ、深い轍のある劣化した舗装道路を模した悪路と、高速路の複合コース。最初に走った悪路では、ノーマル車では不整路面からのキックバックがステアリングホイールに相応に伝わってきたのに対し、前輪とステアリングホイールが機械的にリンケージされていないバイ・ワイヤのほうは驚くほど無振動だった。

違うのはキックバックや振動だけではない。バイ・ワイヤのほうは車体の姿勢と進行方向にズレが生じた場合に自動的に舵角を修正し、直進性を保つ制御が組み込まれており、タイヤのショルダーが擦れるくらいの深い轍を踏んでも、舵角の修正はまったく必要なかった。大荒れの海を大型タンカーがほとんど揺動することもなく航行するような、不思議な感覚であった。

高速路では直進性だけでなく、時速100km/h前後でのダブルレーンチェンジなども試みた。意外だったのはステアリングの応答性。バイワイヤのほうが細やかな切れ角制御を行う分スタビリティに優れ、ステアリングの切り始めなどの応答性は入力と出力が物理的に連結されているノーマル車のほうが上と予想していた。実際に運転してみると、安定性、応答性ともにバイ・ワイヤのほうが優れていた。

新システムは従来から使われている電動パワーステアリング用モーター2基で駆動している。初めてのシステムゆえ、据え切りや急な操舵のときにパワーが足りなくなったりしないのか、といった疑念があったが、少なくとも試乗した際には普通のステアリングに比べて性能的に劣ると感じさせられる局面は一度もなかった。

一方、新システムを運転するには慣れを要する部分もある。ステアリングにはコーナリングなど運転状況に応じてモーターで反力を人工的に作ることで、ドライバーへのインフォメーション代わりにしているが、その味付けは少なからず人工的。オーバーに言えば、パソコンのゲーム用ペリフェラルで用意される、Gフィードバック機能付きステアリングのようなところがある。もちろんそれはマイナス要素である可能性もある一方で、実際には杞憂であり、慣れればそのほうが良いという可能性もある。公道デビューが楽しみな新技術だ。

《井元康一郎》

井元康一郎

井元康一郎 鹿児島出身。大学卒業後、パイプオルガン奏者、高校教員、娯楽誌記者、経済誌記者などを経て独立。自動車、宇宙航空、電機、化学、映画、音楽、楽器などをフィールドに、取材・執筆活動を行っている。 著書に『プリウスvsインサイト』(小学館)、『レクサス─トヨタは世界的ブランドを打ち出せるのか』(プレジデント社)がある。

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