トヨタ『86』はデザイナー自身が非常にこだわりを持って、開発されたモデルである。
デザイン本部トヨタデザイン部グループ長の遠山正起さんは、細かいところだが、と断ったうえで、「インテリアのシートやドアなどのステッチのピッチは、部品メーカーに無理をいって合わせてもらっています。それぞれ別のピッチではなく、管理してそろえるようにしました」という。ちぐはぐ感をなくし、より、“本物”を目指した。
他にもこだわりはある。「ヒーターコントロールのスイッチも通常のダイヤルノブではなく、ナットっぽい意匠にしました。これは非常にフィーリングもいいです。さらにトグル風スイッチを用いるなど、従来的なスイッチではない、わくわくさせるようなデザインにしました。本当は金属で作ることが出来れば良かったんですけどね」と笑う。
また、スタートスイッチはシフトノブ前に設置した。「トヨタの人間工学では、右側にないと駄目だと条件が決められつつあります。しかし、86はスポーツカーですから、左の手でスタートボタンを押して、ハンドブレーキをおろして、シフトノブを持つという一連の動作を考えると、この位置が合っていると押し切りました」。
しかし、自分たちのこだわりだけでデザインはされていない。遠山さんは、「こういうクルマを購入するユーザーは、自分好みのクルマに仕立てたいという価値観の人がいますので、ドアトリムなどの一部は外しやすくしています」と述べる。そうすることで、ユーザー自身で色や素材を変えたり、また、ニーパッドを取り付けたりなどの作業がしやすくなるなど、ユーザー視点での開発もされていることを語った。