アウディジャパンは神奈川・箱根のトーヨータイヤターンパイクでEVテストカーのマスメディア向け試乗会を実施した。試乗車のアウディ『A3 e-tron』は容量26.5kWh、重量300kgという大型リチウムイオンバッテリーを搭載した純EVだ。
先に試乗したレンジエクステンダーの『A1 e-tron』がシステム小型化への挑戦という実験的色合いが濃かったのに比べ、A3 e-tronはコンベンショナルな技術を使ったEVで、ドライバビリティ、快適性、運転の楽しさなど、市販車としての資質は現時点ではこちらのほうがより高いという印象だった。
モーターは最高出力100kW。スロットルを全開にした時の加速感はEVとして標準的なものだが、プレミアムコンパクトとして作られ、クルーズ時の乗り心地やワインディングロードでのハンドリングが優れている『A3スポーツバック』がベースであるだけに、ステアリングを操作した時の反力、回頭性、ロールスピードなど、高揚感の演出はとても上手い。
このモデルには日産『リーフ』やトヨタ『プリウスPHV』のように、ブレーキ時に自動的に減速エネルギーを自動的に電力に変換してためておくという協調回生ブレーキが装備されていない。この分野は特許が複雑に入り組んでおり、他社の特許に抵触しないように独自のシステムを作るのは非常に難しいのだ。
が、A3 e-tronは協調回生ブレーキの代わりに面白い装置がついていた。エンジン車の自動変速機モデルにもついているパドルシフトを操作することで、アクセルオフ時の減速回生の強さを4段階に切り替えることができ、ブレーキ力が必要になったらドライバーの意思でシフトダウンするような感覚で減速力をコントロールできるようになっているのだ。ワインディング走行時はこのシステムがとてもスポーティで楽しく感じられた。ワインディング以外でも、クルマを積極的に操りたいというドライバーには評価されるかもしれない。
ドライバーインフォメーションでは、エンジン車の瞬間燃費計に相当する瞬間電費計が装備されていたのが目新しかった。上り勾配をスロットルを開け気味に加速させると60kWh/100kmなどという絶望的な電費にめまいを覚えるが、先に述べたパドルシフトで回生ブレーキを強めに利かせると一転、マイナス50kWh/100kmといった数値になり、「真面目に回生して節約しなくては!」という気にさせられる。一般にEV=全自動化というイメージが持たれているが、意外にその未来は多彩なものかもしれないと思わせるクルマであった。