なにしろ875ccで2気筒である。ターボのおかげで加速は力強いが、いくらバランスシャフトを備えるとはいえそれなりに振動する。エンジンをかけるとブルブルとアイドリング。そろそろと走り始めてみれば、「こんなに振動するエンジンは久しぶりだな」。デュアロジック(2ペダルMT)をマニュアル操作してエンジン回転を引っ張ってやったほうがむしろ滑らかになる。逆に緩い上り坂であえてシフトアップして回転数を低く抑えたら、ボディ全体が震えた。でも、ちっとも不愉快じゃない。むしろ笑みがこぼれる。楽しい。なにしろこれはフィアット『500』だ。往年の「チンクェチェント」の面影をたっぷり残すレトロな癒し系デザインである。おのずとゆったり気分になり、気付けば「振動もこのクルマの愛すべきキャラクターの一部」と思い始めている自分がいた。デザインにはこんなチカラがあるんだ、と改めて実感させてくれた500ツインエア。新エンジンに興味津々で出かけた試乗会で、これは意外な収穫だった。■5つ星評価パッケージング:★★★インテリア/居住性:★★★パワーソース:★★★フットワーク:★★★★オススメ度:★★★★★千葉匠│デザインジャーナリスト1954年東京生まれ。千葉大学で工業デザインを専攻。商用車メーカーのデザイナー、カーデザイン専門誌の編集部を経て88年からフリーのデザインジャーナリスト。COTY選考委員、Auto Color Award 審査委員長、東海大学非常勤講師、AJAJ理事。