マスクCEOとクルマの未来を語る
トヨタ自動車と米電気自動車(EV)ベンチャーのテスラモーターズとの提携は、予想できなかった驚きの組み合わせだ。トヨタにとってEV開発の加速もさることながら「ベンチャー企業のチャレンジ精神を学ぶ」(豊田章男社長)ところにも大いなるメリットがある。
「1か月前にトヨタの社長としてでなく、クルマの未来を語るひとりの企業家としてマスク(会長兼CEO)さんに会ってもらった」。20日にカリフォルニア州のテスラ本社で行った記者会見で豊田社長は、わずか1か月で提携に基本合意した経緯を明らかにした。
この時、豊田社長はテスラが1000台強を販売した高級スポーツカー『ロードスター』にも試乗した。豊田社長はクルマの「味」を吟味できる数少ない自動車メーカーのトップであり、イーロン・マスク会長との会談や試乗により、テスラの「無限の可能性やエネルギー」を感じ取ったと言う。
◆テスラには量産化の強力な援軍
会談のきっかけは、トヨタとGM(ゼネラルモーターズ)との合弁会社で4月に生産を終了したNUMMIにテスラが関心をもっているとの情報だった。雇用や納税で社会に貢献するというのが、豊田社長が重きを置く企業の存立意義だけに、かつて副社長も務めたNUMMIの閉鎖は相当こたえていた。
提携の「一義的目的ではない」(トヨタ関係者)にしろ、テスラがNUMMIの一部施設を買収してEVの量産拠点とする決定も、豊田社長の背中を押したものと見られる。
テスラは2012年から、NUMMIのラインで量産型のセダン『モデルS』を生産する。テスラにとってNUMMIを操業してきたトヨタは、量産メーカーを目指すうえで何よりの援軍となる。一方でマスクCEOは「豊田社長のアクションは速い。トヨタとのジョイント(共同開発)モデルは早い時期に出せるだろう」との見通しも示した。
◆ベンチャーの“風”をトヨタに
トヨタは電池性能の限界などから、EVは当面「都市部の近距離コミューター」と位置づけてきた。そうしたコンセプトのEVは12年から米市場に投入する。テスラとの共同開発車は、スポーティで航続距離も長いモデルとなりそうであり、EVの拡充で「環境先進企業としての強みを加えたい」(豊田社長)考えだ。
トヨタは近く行われるテスラの株式公開に合わせて5000万ドル(約45億円)を出資する。ただし、テスラにはすでに独ダイムラーも出資・技術提携しているので呉越同舟の格好となる。
それでもトヨタがこの提携に踏み切ったのは意思決定スピードなどベンチャーならではの風を、巨艦(巨漢?)企業となったトヨタに採り入れたいからだ。就任以来「トヨタも70年ほど前はベンチャー企業だった」と、豊田社長は繰り返す。
前期に黒字転換したものの困難な情勢は続いており、拠り所のひとつは創業の原点だ。豊田社長には創業期のトヨタとテスラが二重映しになったのだろう。