【井元康一郎のビフォーアフター】市販を前に激化、EVの低価格競争

エコカー EV
志賀俊之COOとリーフ。30日の会見では、バッテリーの他社への販売も視野に入れていることを明らかにした
  • 志賀俊之COOとリーフ。30日の会見では、バッテリーの他社への販売も視野に入れていることを明らかにした
  • 志賀俊之COO
  • リーフの価格は376万円、補助金の適用で299万円で購入できるという
  • NECと共同開発するリチウムイオン電池。内製化によりコストを下げる
  • NECと共同開発するリチウムイオン電池。内製化によりコストを下げる
  • i-MiEVはリーフの価格発表と同日、値下げを発表した(三菱 益子修社長とi-MiEV)
◆プリウス商法のEV版、リーフの価格戦略

日産自動車が今秋の発売を予定している新世代EV『LEAF(リーフ)』の販売価格が正式に決定した。車両本体価格は376万円。

同クラスのコンパクトカーと比較して2倍程度と、依然として高価ではあるが、昨年デビューした三菱自動車の『i-MiEV(アイミーブ)』(459万9000円)、スバルの『プラグインステラ』(472万5000円)と比較すると、価格競争力は非常に強い。アメリカではさらに安く、3万2780ドル。日本円に換算すると、何と310万円程度だ。

昨年5月、トヨタ自動車がハイブリッドカー『プリウス』を205万円からという戦略的価格で発売し、世間を驚かせた。ニッケル水素電池や出力制御ユニットなど高価な部品が多用されているが、それらの将来のコストダウン見通しを織り込むことで戦略価格を実現させたのだ。リーフの価格付けはいわば、そのサプライズ商法のEV版と言える。

あるバッテリーメーカー幹部はリーフの価格について、「リチウムイオン電池パックの重量がトータルで300kg。今日の材料価格や技術レベルでは、とても元は取れないはず。将来の技術進化に期待して、『EVは日産』というブランドイメージを取りに行くために戦略価格をつけたのだと思います」と語る。この日産の低価格戦略に驚いた三菱自動車は急きょ、アイミーブの価格を398万円に引き下げた。トヨタは2011年末にプラグインハイブリッドカー(PHEV)を市販予定だが、価格設定はリーフの影響を受けずにはいられないだろう。


◆EV優遇に賭ける欧米メーカー

もっとも、日産も単にブランドイメージを確立させるためだけに、リーフの価格付けを安くしたわけではない。グローバル市場に目を向けると、EVは市場がこれから立ち上がるという時期であるにもかかわらず、水面下ではすでに低価格化競争が始まっている。「最近、欧米の自動車メーカーやベンチャー企業が続々とEV、PHEVの市販車やプロトタイプを発表していますが、それらの多くは低価格化を相当に意識した仕様になっています」(トヨタの電気関連エンジニア)

欧米で、まだ売られてもいないEVの低価格化競争が激化しているのにはワケがある。欧州では2012年以降、厳しい燃費規制が敷かれることになっている。EU燃費規制は、大型・重量級のわりには燃費がいいクルマはお目こぼしされる日本の燃費基準のような生ぬるいものではない。売ったクルマの1kmあたりCO2排出量の平均が130gをオーバーしたら、問答無用で高額なペナルティが課される。

が、この規制、ムチだけでなくアメも用意されている。それがEV優遇だ。CO2排出量が50g以下のクルマ、すなわちEVやEV走行距離の長いPHEVを1台売るごとに、平均CO2排出量をその何倍も引き下げるよう計算するスーパークレジットという制度が設けられており、EVを売れば売るほど、一方で利幅を稼ぎやすい高級車を売ることができるようになるのだ。


◆日産の優位性は「バッテリーの自社生産」にあり

アメリカでもオバマ大統領のグリーンニューディールに基づき、EV、PHEVの普及プログラムが大々的に進められている。EUほどではないが、購入補助金の予算を大々的に組み、EVビジネスを推進する企業にも、これまた湯水のごとく助成金を出している。メーカーは投資負担の軽減を追い風に、積極的に低価格戦略を仕掛けるのがトレンドになっている。

こうした欧米の動向のリーダー役であり続けなければ、「EVで世界トップを目指す」という日産の戦略は破綻してしまう。加えて、EVが本格的に商売になるとみれば、ハイブリッドカーや燃料電池車でEVの基幹技術を十分に蓄積しているトヨタやホンダも、大々的にEVビジネスに乗り出してくることは想像に難くない。リーフの低価格戦略は、ハイブリッドカーや燃料電池車に比べて技術的ハードルが低いEVの世界で日産が主導権を握るために必須の戦略であったとも見ることができる。

日産が後発メーカーに対して今のところ優位に立っているファクターは、EVの低価格化を実現するための最大のコアテクノロジーであるバッテリーをNECと組んで自社生産し、低コスト化についてのカードもいくつか持っているということだ。が、そのバッテリーの世界でも、クルマ専用品vs汎用規格品の闘いが始まろうとしている。その話題は追ってレポートするが、エンジン車やハイブリッドカーに比べて生産台数がはるかに少ないにもかかわらず、EVの価格競争の激化は今のところ止まる気配がない。
《井元康一郎》

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