【e燃費アワード09-10】トヨタ プリウス 受賞インタビュー…大塚明彦チーフエンジニア

エコカー 燃費
トヨタ 3代目プリウスのチーフエンジニア 大塚明彦氏
  • トヨタ 3代目プリウスのチーフエンジニア 大塚明彦氏
  • レスポンス三浦和也編集長から大塚明彦チーフデザイナーへトロフィーが贈呈された
  • トヨタ 3代目プリウスのチーフエンジニア 大塚明彦氏
  • 3代目 プリウス
  • 3代目プリウスにはエアコンに「エジェクタシステム」を採用。コンプレッサーの負担を減らすこと でエアコン使用時の燃費を改善している
  • 同じく3代目プリウスから採用された「排 気熱回収システム」。排気管からの熱で冷却水を暖め、ヒーター使用時のエンジン運転を減らす
  • エコドライブモードボタン
  • メーターパネル内に表示できる「ハイブリッドシステムインジケーター」。写真は加速中だが、エコ運転の範囲内にある

50万人の「e-nenpi.com」登録ユーザーによる実用燃費測定の年間集計が「e燃費アワード2009-2010」として表彰されている。2009年1月から12月のあいだに新型車として発売されたクルマの中から選ばれる新型車部門、そして(国産)乗用車部門は三代目となるトヨタ『プリウス』が受賞した。3代目としてはもちろん初だが、プリウスとしては国産乗用車部門で4年連続の受賞となる。

世界のトップランナーであるプリウスの、注目された年間実用燃費は21.7km/リットル。この数字は販売合戦を繰り広げているホンダ『インサイト』の19.2km/リットルよりも約13%上回り、旧型となった2代目プリウスと比べると約5.3%向上した。燃費については語り尽くされたプリウスだが、今回は実用燃費という切り口で大塚明彦チーフエンジニアを訪ねた。

◆カタログ燃費に反映されない、空調使用時の燃費を良くした

----:今回は新型プリウスのe燃費アワード受賞おめでとうございます。e燃費アワードの表彰が始まってから、乗用車部門ではプリウスが4年連続の受賞となり、新型も見事に1位の座を守りました。

大塚:3代目プリウスでは、単にカタログ燃費の向上にとどまらず、リアルワールドでの燃費にこだわり開発してまいりました。その結果がデータに表れているということは、我々開発陣にとっても、大変うれしいことです。

----:カタログ燃費と実用燃費で差がつくとしたら、どの要素が大きいのでしょうか。

大塚:空調だと我々は考えました。10・15モード燃費やJC08モード燃費は、空調をオフにした状態で計測しますが、実用燃費に大きく影響するのが夏場ならエアコン、冬場ならヒーターの使用です。新型プリウスでは空調に関して新しい技術をいくつか採用しています。

まずエアコンには、エジェクタ(編集部注:冷媒噴射装置)付のエバポレーターを採用しました。基本的に冷媒はコンプレッサーの圧力によってコンデンサーとエバポレーターの間を循環していますが、新型プリウスでは冷媒の一部をエバポレーターの直前からエバポレーター内にバイパスし、エジェクタによって冷媒が圧力変化する時に生じる吸引力、一種のベンチュリー効果を使って循環圧力を作り、コンプレッサーの仕事量を減らすようにしています。

エジェクタサイクルと呼ばれるもので業務用冷蔵庫などには電気代を減らすために以前からあるものですが、カーエアコン用としては初の採用です。合わせて車室内に入ってくる熱量を下げる工夫や、2代目から使っている電動コンプレッサーも、主に夏対策です。

また冬場のヒーターですが、冷却水の温度はエンジンの効率で言えば40度もあれば、まあまあ良いのですが、(ヒーターの熱源として)人間を暖めるためには最低でも60度以上の水温が必要です。つまりヒーターのためにエンジンを回す時間がよけいにかかってしまいます。

そこで3代目プリウスでは、新しく排気管周辺の熱を利用して冷却水を温める「排気熱回収システム」を採用しました。エンジンの放射熱ではなかなか暖まりませんが、排ガスはエンジンを掛けた瞬間から一気に800度、900度という高温になりますからね。これによって社内での実用テストでは外気温0 - 5度で、15%前後燃費が良くなるという結果が出ています。

◆新型プリウスのユーザー層は若くなった

----:実はe燃費のデータでは、初代プリウス、大幅に改良された後期型、そして2代目と、モデルチェンジする度に燃費平均値が約10%以上あがっていました。しかし今回は5%程度の向上にとどまっています。この結果について、大塚さんはどのように考えますか?

大塚:社内で利用している実用燃費をシミュレートした走行では旧型よりも、おっしゃるように10 - 15%の燃費向上幅があります。しかし、e燃費も実際のお客様も、同じ方が、同じ条件で、同じように運転しているとは限りません。

じつは初代や2代目プリウスは50代、60代につれ多くなるという年齢構成比だったのを、30代、40代にもプリウスに乗って欲しいと思い、3代目を開発するにあたって、ファミリー層にも支持されるように、スタイリングやファン・トゥ・ドライブといった点も意識して開発しました。

実際、私も通勤の途中で新型プリウスに出会うと、どんな方が運転されているのか興味があって見てしまうのですが、やはり若い方が増えました。新型になってドレスアップする例が増えているのも、そういったことの表れだと思います。

といことで多少先代プリウスとは走り方も元気になったのかな、というのが個人的な印象です。「走って」しまう と、どうしても燃費には良くないんですね。

「ECOモード」のチューニングがそういった走りに合っているかどうか、という点もあらためて検証してゆきたいと思います。

◆「ハイブリッドシステムインジケーター」の見かた

----:実用燃費には「人」の要素も大きいということですね。人にクルマが合わせるだけでなく、今後は人のエコドライブ能力を引き出すクルマ、という点も重要だと思うのですが、新型プリウスで人から燃費を引き出すコツのような運転方法あれば教えてください。

大塚:まずは「ECOモード」の利用ですね。これは燃費性能を優先した走行モードで、具体的には空調能力を少し落とすほか、アクセルで発揮される駆動力も少し「なまし」ています。ですからまずは“エコボタン”(シフトレバー横の「ECO MODE」ボタン)を押してください。

それからプリウスには、初代から「エネルギーモニター」(エンジン、モーター、バッテリー間のエネルギーの流れを示す画面)が付いていますが、ぜひ活用して欲しいのが、3代目で初めて採用した「ハイブリッドシステムインジケーター」です。

これはアクセルの踏み方に応じて、液晶のバーグラフが伸び縮みするもので、深く踏めば右端の赤いパワーエリアに入り、ブレーキを踏めば左端のチャージエリアに入ります。これは「エコランプ」のようなフィードバック型ではなく、フィードフォワード型、つまりこれ以上アクセルやブレーキを踏むと燃費にはよくないよ、と事前に知らせるものになっています。

例えば加速する時には、出来る限りパワーエリアに入らないようにやんわりアクセルを踏んで走ってください。目盛り自体は絶対的な数値を示すのではなく、日・米・欧それぞれの道路環境に合わせて、無理なくエコ走行できる範囲に設定しています。

減速時はチャージエリアにちょうど入る状態でブレーキを踏んでください。回生ブレーキの発電能力は最大20kWなので、減速Gで言えば、おそらく0.1Gから0.2Gくらいの緩いブレーキを長く使うのがコツです。それ以上強いブレーキ、例えば0.6Gくらいの強めのブレーキを掛けても、残りは普通のディスクブレーキによって熱に変換され逃げてしまいます。もちろん安全のためにはブレーキをしっかり掛けることが最優先ですが、燃費という点では、その方がエネルギー回収効率が高いということです。

それからこのバーのちょうど真ん中(濃いグリーンから薄いグリーンに変わる境界)にも意味があって、ここより左側はSOC(ステート・オブ・チャージ=充電状態)さえ許せば、トヨタハイブリッドシステムの特徴でもあるエンジン停止を頻繁に感じていただけて燃費にもいいですよ、というゾーンです。できるだけ真ん中を越えないように走ってみてください。プリウスの燃費を引き出すコツですよ(笑)。

今後も、ECOモードやハイブリッドシステムインジケータを活用し、エコドライブを楽しんでいただきたいと思います。

----:本日はありがとうございました。

《丹羽圭@DAYS》

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