【カーマルチメディア・インサイダー】無料接続は正義のため・・・ホンダ今井 武インターナビ事業室長

自動車 テクノロジー ITS
ホンダインターナビ事業室長 今井武 氏
  • ホンダインターナビ事業室長 今井武 氏
  • CR-Z
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  • リンクアップフリー
  • インサイトに採用されたエコ運転度採点機能
  • インターナビ事業室 今井武室長
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  • CR-Z。アンビエントメーター(Sportモード時)

◆“想い”が最初にありき
 
----:インターナビの進化、さらに踏み込んでいえばクルマやカーナビの進化なのかもしれませんが、そこで「リアルタイム情報」がより重要になってきていた。そういった背景もあって、今回のリンクアップフリーが導入されたとのことですが、ビジネスモデル構築では苦労されたかと思います。

まず今回のリンクアップフリーは、従来のように通信契約を回線事業者であるウィルコムと結ぶのではなく、ホンダと契約する形になっていますね。
 
今井:そうです。形としては、我々の提供するサービスの中に通信回線が含まれるという形になります。

----:回線卸売りを受けて通信料込みのサービスを提供する。他の事例で見ますと、セコムの「ココセコム」やAmazonの「Kindle」などが近い。テレマティクスサービスと通信契約をセットで提供するという点では、大きな方針転換をされたわけですね。ところで、なぜ今回の回線事業者としてウィルコムが選定されたのでしょうか。

今井:ウィルコムは過去から我々のサービスに協力していただいていて、インターナビの通信需要がどのようなものか100%ご理解いただけていました。どの時間帯が混むかだとか、どのように通信を使うかを知っていただけているのですね。ですから、卸売価格の交渉において、インターナビの(通信の)使い方や需要パターンにあわせて、納得できる内容の料金を提案していただけました。
 
----:テレマティクスは需要パターンが、携帯電話や他の組み込み機器と大きく違いますから、それに適した料金体系を持ってこれるかどうかが重要です。その点でウィルコムは、先行していたからこそ、最適な価格提示ができたわけですね。
 
今井:そうですね。ホンダとウィルコムの契約は「1台あたりの月額課金」という形になっています。ここもポイントで、通信契約はお客様(ユーザー)ではなくクルマに紐付いていますから、例えば(クルマ)のオーナーが変わっても、通信料無料の適用条件を満たしていただければ、リンクアップフリーのサービスは提供されます。
 
----:適用条件というのは、正規ディーラーで車検を受け続けるということですね。
 
今井:ええ、そこがもうひとつのポイントです。リンクアップフリーの永年無料というのは、新車購入時にインターナビを装着していただいて、なおかつ正規ディーラーで車検を受けていただく。これが条件になっています。
 
----:インサイトに比べて、CR-Zはカーナビ(インターナビ)のパッケージオプション価格が4万円ほど高くなりました。通信モジュール代および通信料を初めの3年間はカーナビの価格に、それ以降の通信料は車検代金に含まれるということでしょうか。
 
今井:いいえ、違います。カーナビの価格や車検代の中に、通信料分を上乗せしているわけではありません。リンクアップフリーの利用料は、クルマ1台とかカーナビ1台の価格に含んだのではなくて、"ホンダのお客様になっていただくトータルの費用"として見ています。
 
----:単純なコスト積み上げではない、と。
 
今井:そうなんです。クルマやカーナビの価格に(新車購入後)3年分の通信費用を上乗せしたわけではありませんし、その後の継続条件である「正規ディーラーで車検を受ける」というところにしても、ディーラーにお支払いいただく車検料金にリンクアップフリーユーザーのみ通信料を上乗せして価格を上げるといったことはありません。リンクアップフリーでかかる通信コストは、お客様ではなく、ホンダが負担するコストという考えで提供させていただいています。
 
----:企業が負担するマーケティングや販売のコストに含まれていると。
 
今井:そのとおりです。サーバーからカーナビまでの通信料も、ホンダが負担すべきインフラコストに組み込んでしまったわけです。
 
----:それはお客様も嬉しいですが、販売店もハッピーですね。なにしろ通信料をメーカー負担してもらって、その適用条件が「正規ディーラーでの車検受付」になっているわけですから。リンクアップフリーが始まることで、これまで以上にディーラーの営業スタッフは積極的にメーカーオプションカーナビ(インターナビ)を売ることになりそうです。
 
今井:もちろん、そうしていただきたいという期待はあります。しかし、強調したいのはそういったビジネスとしてのプロセスは実はすべて後付けだったのですよ。ビジネスモデルありきではない。
 
----:では、なにが「最初にありき」だったのでしょうか。
 
今井:笑われてしまうかもしれないですが、ホンダのクルマが常につながることは、僕らの夢であり、想いだったのです。僕らはこれまでインターナビを「クルマの価値を向上するもの」として開発してきました。クルマがネットワークにつながることは、お客様にとって大きなメリットがありますし、渋滞削減やエコ、防災といった様々な社会的なメリットにもつながります。少し大げさに言いますと、つながることが正義だと思っている。リンクアップフリーは、その正義を実現するためにずっとやりたかったこと。ですから、繰り返しになりますが、これが僕らの想いだったのです。

----:それはCR-Zと一緒ですね(笑) そこにビジネスがあるから、マーケットがあるからという計算ではなく、ハイブリッドエンジンのスポーツカーをつくりたかった。ホンダの想いが結実したものと言えますね。

インターナビにとって、2010年以降はどのような位置づけになるのでしょうか。

今井:まず、僕らの今の気持ちとしては「ようやくスタートラインに立った」と感じています。これまでインターナビで様々な要素技術やサービスを作りあげてきて、今回、リンクアップフリーを投入することで、すべてのホンダ車オーナーの皆様に通信料無料で、それらを使っていただくことができるようになった。だから、やはり気持ちとしては「スタートライン」ですね。これからインターナビは本当の意味での進化が求められる。

コスト回収のビジネスモデルもままならない状況でスタートしてしまいましたが、ここも順次強化してゆかねばなりません。
 
----:テレマティクスの世界観も変わりそうです。
 
今井:ええ、そうですね。2010年は新しいテレマティクス時代の幕開けであり、本格的な一般普及が始まる年になるのではないでしょうか。リンクアップフリーは今後のインターナビの標準的なサービスになりますし、既存ユーザー様にどのようにしたらお使いいただけるかも検討中です。つながることが、あたりまえになる時代。インターナビは、そのスタートを切ります。

----:本日はありがとうございました。

《神尾寿》

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