読者惑わすご都合主義の集計
25日から26日の新聞・テレビ報道を見て、スズキの鈴木修会長兼社長は「ウチはいつからVW(フォルクスワーゲン)の子会社になったんだ?」と笑ったのではないだろうか。2009年の世界販売でVWとスズキを合算するとトヨタ自動車を抜いて「首位」になったと一斉に報じられたからだ。筆者も25日夜のNHKニューズを見て、でんぐり返る想いだった。
世界再編がうねり始めた自動車産業でVWとスズキの提携がいかに巨大であるかを読者に伝えたいのだろうが、その時の状況によってカウントを変えるご都合報道は、かえって読者を惑わすだけだ。
自動車企業や企業グループの世界販売実績は、連結決算の範囲で集計したり、比較したりするのが1990年代半ばから慣例となってきた。合弁会社が基本の中国では持分法適用会社の販売実績を加えるという例外はあるが、要は連結業績に影響を与える企業群の販売ボリュームを見るところに意味がある。
◆スズキがVWのブランドになったわけでない
VWはすでにスズキに19.9%を出資する筆頭株主となり、両社の業務提携は幅広いものとなっていくだろう。だが、昨年12月の提携発表会見で鈴木会長が「みなさん勘違いされているのではないか。(提携でスズキが)VWの12番目のブランドになったわけではない」と述べたように、両社は提携メリットを追求しながらも、独立した事業体としてやっていくのだ。
かつて、スズキに2割強を出資していた米GM(ゼネラルモーターズ)の世界販売に、スズキ分が合算されて報道されることはなかった。仮に資本と業務の両面で提携があるのを「連合」とするなら、トヨタの実績にはダイハツ工業と日野自動車のほかに、富士重工業といすゞ自動車も加えて比較しなければならない。
◆ 2009年もトヨタが首位を堅持
日本各社の2009年の生産・販売実績は25日に発表されたのだが、ご丁寧に予定稿まで用意し、スズキの実績が分かった段階で「VW・スズキ、世界販売1位」と同日の夕刊で報じた全国紙があった。
これを見た各紙の朝刊担当デスクが、担当記者に「とにかく入れろ」と、追随を迫ったのだろう。事情の分からないデスクとやり合わねばならない担当記者もお気の毒だ。
ということで、まだGMの実績は発表されていないものの、トヨタグループの781万台(前年比13%減)に届かないのは確実であり、「トヨタが2009年も世界販売首位を堅持」したことを、ここで強調しておこう。