乗ったのは2リッター4気筒の『320i』だけ。全幅が1.8mを超えたり、新世代BMWのなかでは保守的なデザインになったり、キーレス・スタート/ストップを採用したりと、目先はけっこう変わったが、乗った感じは旧型E46の4気筒系とそんなに変わらない。
これは単なる「手直し」にすぎない。市場データの表層に現れた弱点を対策し、外観も内装も「初代の姿カタチを引き継ぎつつ、新しく見えるように」修正し、コストはさらに削り落とす。これら作業項目を、各個に、かつ淡白に進めた結果は「デフォルメされた『ヴィッツ』」。
Vあたりから、人工的な旋回能力だけが突出し、操る実感欠如。暴力的なまでの速さばかりが突出して、よほどの熟達者でないと“危ない”クルマの1台だった。その方向を若干修正した印象、ではある。
外観は「足を踏ん張っている」印象だが、走るとタイヤが地面をうまく踏みしめてゆかない。跳ねる動き強く、とくに前後方向に揺すられるピッチングが速くて多い。
たしかに日本の平均的家庭がクルマを使う情景を観察し、「使いやすさ」を各所に作り込んでいる。だがほとんどが「止まっているとき」の機能。これは「多用途性」を打ち出す日本車に共通する発想だが。
「コンセプトは何か?」。この基本が見えてこないまま試乗したあと、開発スタッフのハナシを聞いて、ようやく理解できた。これは「『フィット』のような“メインストリーム商品”を意図した」とのこと。
エイトと比較して大きく変ったのもののひとつはハンドリング。リヤの落ち着きが高まった。それだけに、高速コーナーの限界では安定し、不安感がなくこれはいい。
キュートでモダーンなデザインは、さすがはトヨタと感じさせるところだ。『ヴィッツ』は多くのライバルモデルがひしめくコンパクトクラスのなかにあって、ますます魅力をアップさせている。
スタイリングの美しさは欧州車レベルだ。フロントのバランスのよさもさることながら、圧倒的にカッコいいのはリヤ。小憎らしいぐらい粋な感じにまとまっている。
『マーチ』の一族とわかるフロントのフォルムと、エッジの立ったリヤデザインはじつにボーイッシュで個性的だ。いっぽうインテリアは、メーターデザインにオーソドックスな雰囲気を感じる。