Ken Okuyama Carsは12月に開催されるアブダミグランプリにおいてワールドプレミア予定の『F61Hバードケージ』を、日本において先行公開した。
◆好きなクルマを乗り続けるために
F61Hバードケージは、『Kode61バードケージ』をベースに搭載されているイタリア製5リットルV型12気筒エンジンを水素化、つまり水素を燃やして走行するものだ。そのスペックは最大出力約300hp、最大トルクは31.3kgm(約307Nm)を発揮。

代表の奥山清之氏はプレゼンテーションの冒頭で、「今日皆さんに申し上げたいのはたったひとつだけ」と話す。それは、「いまの自動車の未来についてだ。電気自動車は大切だ。効率が良く加速も素晴らしい」としたうえで、「リチウムイオンバッテリー、全固体電池とも電池の寿命というのはおよそ10年間。その後に必ず寿命が100%来る」と述べる。さらにクルマに搭載されるそれらバッテリーは自動車メーカーの手で、その多くが車種ごとの専用設計だ。従って、「電池メーカーが100年間存続したとしても、それをクルマに専用設計して搭載する自動車メーカーが永遠に作り続けない限り、その電気自動車の寿命は10年で終わってしまう」とコメント。

そこで奥山氏らは、燃焼効率が非常に高い水素に目をつけた。通常水素燃料のクルマと考えるとFCVと思われがちだが、F61Hは、「ガソリンエンジンのイタリア製12気筒大排気量エンジンはそのままにボルグワーナーのインジェクターに変え、韓国のイルジンが作る水素タンクに乗せ替え、全体の水素ラインをひき直した。そしてマネジメントシステムをモーテックに書き換えたもの」と説明。これらは「皆さんでも買える部品だ。それによって世の中にある比較的大排気量の多気筒エンジンが水素化が100%できる」と述べる。
そして、「二酸化炭素は全く出ない。窒素化合物は若干出るが、それはフィルターでほぼ100%吸収できる」とし、以前エキパイから出た水をコップに汲んで飲んだことがあることを明かした。
奥山氏らはなぜこの取り組みを行っているのか。それは、「スーパーカーは人類が20世紀に作り出した素晴らしい文化遺産だ。それを次世代に残したい」ということだ。「このように素晴らしいエンジンを、次世代に残す技術は既にある。我々は社員50人以下の山形の中小企業でも、ノウハウが若干必要だが誰でもできるまさにノウハウビジネスだ。大好きな音や振動、そして自分でシフトするタイミングやフィーリングは確実に次世代に残せるのだ」と語った。
◆まずは作ってみよう
今回公開されたF61Hバードケージは、リアに50リットルの水素タンクを1つ搭載。エンジンは直噴ではなくポート噴射だ。「ガソリンよりも早く燃焼するので性能を上げるのに進角するのではなく遅角している。バルブの開いている間に確実に水素を噴射してバックファイアが起こらないようにすぐに閉じなければいけないので、短い期間でどれだけの水素をポートインジェクションで噴射することができるかで性能が決まる」と説明。

また、ガソリンエンジンと比較すると水素の場合はどうしてもトルクが小さくなってしまうため、大排気量の方がやりやすいことから今回も5リットルエンジンを使用したとのことだった。
今回のプレビューには自民党の甘利明氏も来場。非常に関心も高く、「エンジンを残すことは、部品メーカーを残すことに繋がる。従って産業政策上もすごく大事なこと。水素は燃やしてなんぼのものだとしっかり知らせないといけない。日本は絶対事故が起きないゼロを求めるので、その規制に関しては私から投げかける」と応援。
そして、「水素燃料の場合はパワーがなく航続も短いのではないか。また水素の分子は粒子が細かいことから揮発してしまわないか」などの質問が奥山氏らにあり、「確かにトルクは落ちるが排気量が大きいのである程度は確保している。航続距離はKode61バードケージの内部構造やデザインを変えずにどこまでできるかというトライなので、この50リットルのタンクで50km程度。ただ、いまはそのタンクひとつだが複数搭載できるように設計を変更すれば、その分航続距離は伸びる。それは次のトライだ」と述べた。
最後に奥村氏は、「鶏と卵で、まずは作ってみて、これだけ走ることを見てもらいたかった。そして大排気量の内燃機関の水素化は実は結構簡単だということを知ってもらいたい」と語った。
