【ダイハツ ムーヴ 新型】「ポッキー入れ」にイルミネーション、軽自動車でも質感を“あきらめさせない”インテリアとは

ダイハツ ムーヴ 新型のインテリアスケッチ
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  • ダイハツ ムーヴ 新型のフロントシート
  • ダイハツ ムーヴ 新型のフロントシート
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  • ダイハツデザイン部ビジョンクリエイト室VXD Gr.の坂本唯衣さん
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  • ダイハツ ムーヴ 新型のシート表皮

ダイハツは『ムーヴ』を6月5日にフルモデルチェンジし発売した。スライドドアを初採用し、軽ハイトワゴンとして進化したことに注目が集まるが、インテリアの質感向上も目玉だ。必要なものをわかりやすく配置し、ダウンサイザーを意識してデザインされたという新型のインテリアについて、その肝をデザイナーに聞いた。

◆「目利き」に向けたムーヴ

インテリア全体のデザインを担当したダイハツデザイン部第2デザイン室主担当員の門田寛仁さんは、『ムーヴキャンバス』のインテリアも担当したが、新型ムーヴのデザインは「難しかった」と打ち明ける。「ムーヴキャンバスはターゲットがはっきりしているクルマですし、軽自動車はサイズや販価がありますから、ある程度(登録車より)作りやすい面がありました」(門田さん)。

しかしムーヴは、軽自動車というカテゴリーは一緒でも「酸いも甘いも分かった目利きの60歳くらいの世代がターゲットです。多分良いクルマにも乗ってきたでしょうし、良いものを身に着けていたりする方たちに対しての軽自動車、という企画です」。さらにXグレードであれば、「150万というお値段の中で満足してもらえる商品を作る。そこがなかなか難しかった。そこでちょっと考え方、手法を変えました。当然そこにあるべき機能、そこからデザインするようにしたのです。そこをフォーカスポイントにしながら空間を繋いでいきました」と説明する。

先代ムーヴのインテリア周りをデザインしたダイハツデザイン部ビジョンクリエイト室VXD主担当員の田辺竜司さんは、一番目に付くインパネ周りを中心にデザイン。その先代は、「スリークな横断面を作ってそこにディスプレイを置くみたいなテーマだったんです。その横断面の下にエアコンの吹き出し口などを収めていました」と説明し、「これもリーズナブルなテーマではあると思いながらデザインしました」と振り返る。

「ムーヴはスリークさや、スポーティだけでなく、もう少し“実利”が大事なクルマなんです。それこそお客様が当たり前に使うカップホルダーとかレジスターのノブといったものが手の届く位置にきちんとあって、かつアイキャッチになるように意匠としても参加させる。先代はどちらかというと影に潜める形で造形しましたが、今回はスポーティな見え方でありながら扱いやすいものに見せようとしました」(田辺さん)

◆軽自動車のインパネは「パズルみたいなもの」

具体的には、「お客様の方を向かなくてはいけないものと、それを囲っているものというテーマを、スリークにつなぐという考え方でデザイン」したという。例えば左右にエアコンの吹き出し口を配し、その前にカップホルダーを少し乗員側に出して設けた。同時にセンターモニターあたりもそれらと近い造形にすることで3つのデザインポイントが出来、リズム感も生んでいる。

さらに、車幅に制限がある軽自動車では、窮屈に見せないための“横方向の広がり”も重要だ。単に前述の3つのポイントを繋いだだけであれば「とても狭く見えてしまったでしょう」と田辺さん。これを解決するために、「横方向に一本骨を通すイメージを持たせています。助手席前の断面にあるようなものをスカーッと通して、そこに先程の3つが上からごんごんごんと乗っているような見え方をすごく意識しました」と説明する。人と同じように骨がしっかりと通っていることで、がっしりとした印象とともに、伸びやかさに繋がっているわけだ。

もうひとつ田辺さんがこだわったのは、助手席側のエアバッグが収まるダッシュボード周りだ。「軽自動車は乗員に対してエアバッグまでの距離が近いんです。さらに廉価でお届けしたいので、いろんな車両で共通にしてもいます。そうすると開いた時の(エアバッグの)形状が決まっていますので、(その効果を有効にするためには)ダッシュボード周辺の立体感のバリエーションが限られるわけです。実はムーヴとムーヴキャンバスは共通なんですが、ムーヴキャンバスよりも手前に出ています。これ以上出してしまうと使えませんので、その限界点は設計の人達とこだわって最初に決めました。そうしないと、他のレイアウトが全て変わってしまうんです」と語る。

ダイハツデザイン部部長の皆川悟さんは、「軽自動車のインパネはパズルみたいなもので、絶対に変えられない部分がある中で、我々の仕事は新しいものを作っているのです」と話した。

◆「ポッキー入れ」にイルミネーション、軽自動車でも質感を“あきらめさせない”

さて、門田さんはインテリア全体として、「手を抜かないのは当然で、そのうえで全てにおいてひと手間入っています。それはもちろん細かいところだけでなく、全体的なコーディネートも。姿形だけではなく、お客様が運転した時、例えばターゲットユーザーが昔を思い出してワンデイトリップに行った時に、どんな気持ちになりたいか、何が大事かを考えていったのです。ですからLグレードから全てアームレストに表皮を巻きました。L、Xグレードには加飾部品はひとつも使っていないんですが、それでも高い質感が出せています」とこだわりを語る。その結果として今回のターゲットも満足する仕上がりになったと自信を見せる。つまり軽自動車でも質感を“あきらめさせない”ということだ。

例えばAピラーのカラーについて、骨格が同じムーヴキャンバスは黒だった。「質感を高く見せたいので黒でしたが、ムーヴは登録車に乗っていたお客様が軽自動車を見た時に狭苦しく感じないように」と、新型ムーヴでは明るいグレー系のカラーを採用した。そのほかにもカップホルダー位置に傷つき防止の線を入れるなどひと手間を加えた。「通常であれば梨地を入れるだけですが、そこに何かできないかを考えました。手を抜かない。これでいいやで終わらない工夫を色々なところで行っています」。

ミラーにカップホルダーの縁取り部分が映り込まないように、U字のシルバー部分を一部カットした。Gグレード以上に入っているセンタートレイイルミネーションは、「ターゲットユーザーがワンデイドライブで帰ってくるのは夜でしょう。その時にセンタートレイに趣のある光り方をしたら良いと思いませんか。そこでイルミネーションを入れました。ただ、LEDをいくつも入れればもっときれいにできるのでしょうが、予算の限りもありますので1灯だけしか入っていないんです。その1灯の中でどれだけそこを綺麗に光らすかはかなりやり込みました」と門田さん。

エアコンの操作パネルの下にある収納は、「“ポッキー”入れです。ご夫婦が両方からからつまめるように、そういうお菓子箱を作りたいという開発責任者のこだわりです」と教えてくれた。

◆シート表皮の肌触りと“縦柄”が生み出すもの

上質感を求める上では当然CMF(カラーや素材)デザインの力も大きい。ダイハツデザイン部ビジョンクリエイト室VXD Gr.の坂本唯衣さんは、「特に仕立ての良さにこだわりました」という。「インパネのブラウンの装飾に対し、上級グレードはネイビーのシート表皮を使っています。その相性が良いようにシート表皮などにブラウンを差し色として細かく取り入れることで、全体的にコーディネートされた質感の高い印象にしています」とのこと。

さらに、シート表皮の肌触りにもこだわった。「少し凹凸がある表皮ですが、夏場でもさらっと快適に使っていただけ、座り心地にもこだわって作っています」と話す。また、そのシート表皮と同じ柄がドアとセンターアームレスト、さらにシートのサイド部分にまで備わっているところもポイントだ。

しかもこのシート生地が“縦柄”なのだ。「シートは3Dの形(三次元)ですが、線を全部形に合わせて真下に流していきたい。しかし、どうしても場所によっては外に開いてしまったりしますし、キチンと張るために引っ張ったりするとすぐに歪んでしまいます。そういうコントロールがものすごく大変でした」と門田さんは苦労を語る。センターアームレスト部分も同様で、真っ直ぐに前後に流れるように成型するのはとても苦労した箇所だそうだ。「曲がっているのは一瞬で見て分かってしまいますから」と工場などと試行錯誤を繰り返しながら仕上げていった。


《内田俊一》

内田俊一

内田俊一(うちだしゅんいち) 日本自動車ジャーナリスト協会(AJAJ)会員 1966年生まれ。自動車関連のマーケティングリサーチ会社に18年間在籍し、先行開発、ユーザー調査に携わる。その後独立し、これまでの経験を活かしデザイン、マーケティング等の視点を中心に執筆。また、クラシックカーの分野も得意としている。保有車は車検切れのルノー25バカラとルノー10。

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