◆名機「K5」の直4エンジンが吠える
アグレッシブな走りで人気のスズキを代表するスポーツネイキッド『GSX-S1000』にあらためて試乗してみた。2025年モデルでは新色となり、メーターが5インチカラーTFTに刷新されている。エッジの効いた前衛的なデザインは今見ても新鮮だ。
まずエンジンが素晴らしい。スーパースポーツ『GSX-R1000』の中でも、とりわけ名機の呼び声高い2005年型「K5」から派生した水冷直4エンジンをストリート用に最適化チューニングしたものだ。最高出力150psのスペックもさることながら、その神髄は出力特性にある。GSX-Rシリーズ随一のロングストローク型エンジンというメリットを生かし、さらに低中速トルク型に振ることでストリートでの扱いやすさや常用域でのパワフルな加速を実現している。

それでもストリートでは十分すぎるほどで、スロットルを開けた瞬間に反応するダイレクト感が凄い。ガオガオと猛獣のように吠えるエキゾースト音に魂が震える。「あ~この感じ、やっぱK5だよ!」と心の中でニヤリ。それでいてエンジン回転はスムーズで街中でも扱いやすく、4速ぐらいの高めのギアで流していても分厚いトルクが車体を押し出してくれるので、3000rpmも回していれば十分に速いのだ。さらにアップ&ダウン双方向のクイックシフター標準装備なので、発進&停止が多い街中でもストレスフリーである。
◆「そこいらのネイキッドとは生まれ育ちが違うのだよ」

コーナリングも楽しい。ハンドリングは直進時にはどっしりしているが、幅広なハンドルのおかげで倒し込みのキッカケも作りやすく身のこなしも軽快だ。持て余すほどのパワーも電子制御システム S.I.R.S.(スズキ・インテリジェント・ライド・システム)が賢くコントロールしてくれるので安心。3種類の走行モードによって出力特性を瞬時に変更できるため、路面状況や気分によってフレキシブルに走りをアレンジできるのも強みだ。
旋回中も大型バイクらしい安定感があり、また、5段階調整式のトラコンやABSのサポートがあることで、さらに安心感を高めてくれた。ちなみにロケ日はまだ気温も低めだったのでほぼC(コンフォート)モードで走ったが、右手に敏感すぎずリラックスして乗れる。正直これが公道では最適と思った。

足まわりも盤石だ。KYB製サスペンションはフロントφ43mm倒立フォークとリンク式モノショックの現代的な仕様で、しなやかな作動感だがコーナリング時はしっかり踏ん張るコシの強さも併せ持つ。また、ブレンボ製ラジアルキャリパー装備のダブルディスクブレーキは指1本でも十分強力かつコントロールしやすいし、GSX-R譲りの高剛性なアルミツインスパーフレームとも相まって、ちょっとやそっとでは何も起きる気がしない頼もしさ。さすがはGSX-Rの血筋。「そこいらのネイキッドとは生まれ育ちが違うのだよ」とバイクの囁きが聞こえるようだ。
高速道路にも乗ってみたが、飛ばすとさすがに風圧を受けるので、すかさず最強のA(アグレッシブ)モードにブートアップ。風を跳ね返すパワーで空気を切り裂いて進むのがストファイ(ストリートファイター)の漢らしい乗り方と納得した。
◆どこをとってもバランスよく仕上がっている

最後にライポジについて。シート高は810mmと比較的低めで足着きは良好と言っていい。筆者は身長179cmほどだが両足がしっかり地面に届くので安心だし、214kgと軽量な車体は取り回しやUターンでも有利だ。また、発進や低回転走行時にエンジン回転の落ち込みを緩和してくれる「ローRPMアシスト」という保険もあるので有難い。着座位置も前後に余裕があってスポーティに動けるし、クッション性も適度で長時間の走行でも疲れにくくロングツーリングも快適に楽しめそうだ。
あらためて、GSX-S1000のパフォーマンスに感心するとともに素直に“良いバイク”と思った。官能的な直4サウンドや高速道路での安定感、ワインディングでの楽しさと街中での使いやすさなど、どこをとってもバランスよく仕上がっていると思う。スポーツバイクが好きで毎日でも乗りたい。そんなライダーにはまさにぴったりの選択肢だろう。

■5つ星評価
パワーソース:★★★★★
ハンドリング:★★★★★
扱いやすさ:★★★★
快適性:★★★★
オススメ度:★★★★★
佐川健太郎|モーターサイクルジャーナリスト
早稲田大学教育学部卒業後、出版・販促コンサルタント会社を経て独立。編集者を経て現在はジャーナリストとして2輪専門誌やWEBメディアで活躍する傍ら、「ライディングアカデミー東京」校長を務めるなど、セーフティライディングの普及にも注力。(株)モト・マニアックス代表。バイク動画ジャーナル『MOTOCOM』編集長。日本交通心理学会員。MFJ公認インストラクター。