オープンアーキテクチャになることへの備え…デンソー 林田篤 上席執行幹部CSwO[インタビュー]

オープンアーキテクチャになることへの備え…デンソー 林田篤 上席執行幹部CSwO[インタビュー]
  • オープンアーキテクチャになることへの備え…デンソー 林田篤 上席執行幹部CSwO[インタビュー]

ホンダ・日産の提携は、OEMとて業界再編の例外ではないことを意味している。当然、サプライヤー自身もこれに備える必要がある。デンソーは変革期におけるサプライヤーの立ち位置や車両設計のあり方をどう考えているのか。上席執行幹部 CSwO 林田篤氏に話を聞いた。


同氏は、9月20日に開催されるレスポンスセミナー「デンソーのソフトウェア戦略」に登壇予定。本記事では、その講演概要と注目ポイントについても伝える。


無視できない業界構造の変化

---:自動車業界の変革についてどう捉えていますか。

デンソー 上席執行幹部 CSwO 林田篤氏(以下敬称略):現在、自動車業界で起きている変革の背景にあるのは、人手不足やエネルギーなどさまざまな社会課題と、技術としてのモビリティの進化です。対応するにはこれまでの業界構造を変える必要があると思っています。従来からあるOEMを頂点とする垂直統合モデルは大きく変わらないのですが、それぞれのレイヤーが水平方向に広がっています。

---:ソフトウェアシフトのことでしょうか。

林田:もちろんそれも大きな変化ですが、ソフトウェアに限らず、エネルギー業界やモビリティ業界、社会といった、これまで業界外と捉えていた領域に広がっているということです。OEMがエネルギー業界や交通事業者・物流業者と積極的な提携を行なったり、サプライヤーが通信事業者やクラウド事業者と連携したりという現象が起きています。

たしかに、ティア1の視点でいくと、ソフトウェアシフト、IT業界との接点は今以上に深く、広くなっています。SDVがその典型例かもしれませんが、統合ECUのためのE/Eアーキテクチャの変革といった動きは、車両におけるソフトウェアに大きな影響を与えています。経済産業省の試算では、SDV時代にはソフトウェアのコード行数はいまの車両1台あたり6倍に増えると予想されています。車両開発におけるソフトウェアの構成比も同様です。2021年では自動車産業におけるソフトウェア単独ビジネスの売上構成は約5%ですが、2040年には38%まで占めると言われています。

デンソーソフトウェア戦略の3本柱

---:それに対応するためデンソーはどんな戦略を立てているのでしょうか。

林田:デンソーでは、実装力、人財力、展開力をソフトウェア戦略の3つの柱として考えています。このあたり、業界の背景事情や戦略の詳細はセミナーで詳しくお話しますが、根底にあるのはデンソーが積み重ねてきた40年以上にわたる車載ソフトウェアの知見、技術をベースにした安全性と信頼性です。デンソーは、車両電子機器はもちろん、半導体設計から熱マネージメント、大規模ソフトウェア開発まで電動車、SDVに欠かせない技術を得意としてきた会社です。

---:AIにも力を入れていましたね。

林田:はい。2000年に渋谷にデンソーアイティーラボラトリを立ち上げ、2019年には日本橋室町に先進安全技術を研究するJ-QuAD Dynamicsを設立し、活動を広げています。AIに関しては、アカデミアからの採用も広げています。

AI活用については、これまでADASへの応用技術としての取り組みが中心でしたが、新しい戦略の中では、たとえば半導体の設計、ソフトウェアの設計にAIを導入し、バグや設計の手戻りを減らす設計支援、開発の自動化としての研究・開発を進めています。

半導体設計とソフトウェアの連携は特に重要と考えており、27年には実際の支援システムを業務に導入する予定があります。

求められる人材像と事業ドメインの拡大

---:3つの柱に人財力というのがありました。どのような人材が今後重要になるのでしょうか。

林田:デンソーでは、車両1台あたりのコストに占めるソフトウェアの割合は最大50%まで拡大すると見ています。現状はだいたい10%です。統合ECUなど、車両単体でもソフトウェア比率は高まりますが、今後我々が考えなければならないのは、車載ソフトウェア(In Car)領域以外のOut Car領域のソフトウェアです。クラウド連携や各種サービスアプリなどはパートナー企業の力を借りる必要があります。

In Car、Out Carのように2つの事象が接する部分を「界面」(インターフェイス)と呼んでいます。SDVのような変革によって、Out Carの技術がIn Carに応用されてきていますが、Out Carの技術はそのままではIn Carには適用できません。クルマとしての安全性を担保しないといけないからです。デンソーでは車両以外の分野や領域との接続部分である界面技術を重要と捉え、技術開発を進めています。

これらのニーズに対応するにはソフトウェア人財が足りません。

---:AI連携・Out Car連携のような、さきほど述べたサプライチェーンの水平方向の展開について具体的な事例や実装はありますか?

林田:特徴的な事例としては、6月に発表したトマトの自動収穫ロボットのプロジェクトがあります。画像認識技術を使って収穫可能なトマトを自動的に選別して摘み取ります。また、ソリューションの事例ではないですが、NTTデータとの提携もその一つと言えるでしょう。

OEMとの関係性の変化

---:一方で、ソフトウェア分野については、OEMも内製化を考えているところだと思います。


《佐藤耕一》

日本自動車ジャーナリスト協会会員 佐藤耕一

自動車メディアの副編集長として活動したのち、IT企業にて自動車メーカー・サプライヤー向けのビジネス開発を経験し、のち独立。EV・電動車やCASE領域を中心に活動中。日本自動車ジャーナリスト協会会員

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