【UDトラックス クオン トラクター】2024年問題を救う? 人と荷物にやさしい高出力・高トルク

UDトラックス新型クオンGW6×4トレーラー発表
  • UDトラックス新型クオンGW6×4トレーラー発表
  • UDトラックス新型クオンGW6×4トレーラー発表
  • 新型GH13エンジンとESCOT-VII
  • GH13エンジン
  • UDトラックス代表取締役社長 丸山浩二氏:人にも荷物にもやさしいトラック
  • フルデフロックの操作ボタン:駆動輪4輪をすべて直結状態に。差動機構をすべてキャンセルできる
  • アクティブステアリングの特徴。
  • 試乗車のスペック

UDトラックスは4日、新型となる『クオンGW 6×4トラクター』を正式に発表し、メディア向けの試乗会を開催した。UDトラックスとしては、13Lの「GH」エンジンを搭載した「クオンGW」の13年ぶりの復活となる。

■根強い高出力・大トルクエンジンの需要

6×4トラクターは、トレーラー牽引の中でも主に重機や建機など大型・重量物の牽引に利用されることが多い。そのため大排気量のエンジンにとくに大トルクが求められる。大型トラックは坂道などで低速走行を余儀なくされることがある。高速道路の長い登り坂などでその傾向は顕著だ。大排気量エンジンを積んでいるとはいえ、何十トンもの積載物を積んだ状態での加速はきつい。坂に気づいてアクセルを踏んでも、馬力だけでは思うような加速は得られない。

乗用車などは「トラックが遅い」とイラついたりするが、同じストレスはトラックドライバーも感じている。わかっている分、トラックドライバーのほうがストレスは高いかもしれない。

こういったシチュエーションで威力を発揮するのは馬力よりトルクだ。クオンGWの「GH13」エンジンは最大出力530PS(390kW)、最大トルク2610Nmとなっているが、最大トルクの発生回転数は1000rpmと低回転からのトルクの太さに特徴がある。この数値はクラストップクラスといってよい。ダウンサイジングエンジンで同等のトルクをだせるエンジンは他社も持っているが、1000rpmから1400rpmという常用回転域で最大トルクを発揮できる新型クオンGWは、坂道での失速の減少が期待できる。

試乗コースでは坂道発進のテストはあったが、急こう配などはなく、周回路の緩い上り坂を走行した。試乗車両はGH13を搭載したクオンGW。10トンのトレーラーヘッドに10トンのトレーラー、20トンのウェイトを載せたもの。高速周回路の緩い上り坂なので、本格的なトルク特性の評価はできなかったが、少なくとも上り坂でもアクセル操作に集中せずとも速度維持が可能だった。坂道発進では、発進トルクに問題はなく、むしろヒルアシスト機能とESCOT-VIIのシフト制御機能が確認できた。

■運転をとにかく楽にするESCOT-VIIとアクティブステアリング

大型トラックの失速の原因はシフト操作の難しさにもある。現在は大型トラックにもAMTが増えてだいぶ楽になったが、坂道で失速したとき、MTの場合トルク回復にシフトダウンする間にさらにトルク抜けの状態となり加速がどうしても遅れる。これは乗用車でも同じだが、荷物を積んだトラックの場合さらに加速が遅れる。

新型クオンGWは、先代から進化したESCOT-VIIというAMTを搭載している。ESCOTシリーズのAMTはなめらかなシフトチェンジに定評があるが、VIIとなってさらにシフトチェンジの反応速度を向上させている。コントロールバルブの改良とチューニングによって、坂道発進でのシフトアップや速度回復のためのシフトダウンでは、最適なギアに素早く入れることで、失速やシフトショックをかなり軽減する。

アクセル操作やギア操作が楽になるということは、それだけドライバーのストレス軽減、疲労軽減につながる。操作性や安全性に関わる特徴は他にもある。

UDアクティブステアリングは、バイワイヤーによるステアリング制御システムだが、サスペンションとステアリングの間の機械的なリンクを廃して、すべてを電子制御する。速度や状況に応じてステアリングの操作感(重さ・軽さ)を変えてくれるのは当然として、大型トラックにとって重要なのはサスペンションの入力が直接ハンドルにこないことだ。

このため、悪路走行や路面の凹凸で車体、タイヤが動いてもステアリングの修正舵がほとんどいらない。路面にハンドルを取られることなく、自然なステアリングが可能だ。進行方向に合わせて適切なセルフアライメントトルク(ハンドルの戻り)をかけてくれる。

■安全と安心に寄与するディスクブレーキと流体式リターダー

車のブレーキ性能、安定した制動力は、車の安全性向上に加えドライバーに安心感を与え、安全性に大きくかかわる要素だ。UDトラックスは業界では珍しいディスクブレーキをラインナップするトラックメーカーだ。商用車の場合、耐久性とセルフサーボ現象のためドラムブレーキを採用することが一般的だ。多くのトラックドライバーもトラックのディスクブレーキはパッドがすぐに消耗するので嫌われることが多い。だが、ドラムブレーキの弱点は熱がこもりやすくフェードに弱いという点だ。

UDトラックスのディスクブレーキはパッドの耐久性や性能についてかなり作り込んでおり、パッドの耐久性は近年の素材技術でカバーできるし、ディスクブレーキの放熱性の良さが安定した性能にも貢献する。大型トラックの実用域でもその性能に問題はないとする。同社が大型トラックにもディスクブレーキを本格的に採用して5年経つが、ユーザーから目立ったクレームはないそうだ。

ブレーキ保護や強い制動力のため、新型クオンGWでは、流体式大容量リターダーを採用した。重い荷物を運ぶトラックには排気ブレーキや電磁式のリターダーなどの補助ブレーキが必須となる。大排気量エンジンのエンジンブレーキとともに補助ブレーキが高い制動能力を発揮する。新型クオンGWのAMTには水冷式のオイルリターダーが装着されている。アクセルオフによるエンジンブレーキの制御に加え、オイルの流体粘度による制動力を発生させることができる。

流体式リターダーの制動トルクは3250Nmと、電磁式リターダーのおよそ7倍だそうだ。クオンはディスクブレーキに、エンジンブレーキによる1495Nmのブレーキトルクと合わせたブレーキを持っていることになる。同社が碓氷バイパスで実験した結果では、リターダーなしのトラックはフットブレーキを41回操作する必要があったが、流体式リターダーを搭載したトラックはフットブレーキを5回しか使わずにすんだという。

もちろん最近のトラックのブレーキは碓氷バイパスで41回フットブレーキを(正しく)踏んだくらいではフェードを起こすほどではない。だが、フットブレーキに頼る下りの怖さをドライバーは知っている。高性能なブレーキ、補助ブレーキもまたドライバーのストレス軽減、疲労軽減に貢献する。

■エアサスとフルデフロック機能のメリット

積み荷に対する配慮もされている。新型クオンGWは第5輪荷重(トレーラー側の荷重)16トン、18トンのモデルにもエアサスを用意した。エンジン出力、GCW(連結総重量)、ハイルーフ/標準ルーフ問わず、リーフサス、エアサスを選ぶことができる。積み荷にやさいしいということはドライバーにもやさしいということだ。

重機運搬トレーラーは未舗装路や工事現場、採掘現場にも出入りする。活躍するシチュエーションは限られるが、デフロック機能が必要な場合もある。6×4トラクターはヘッドの後輪4輪が駆動輪となっている。乗用車でいえばセンターデフに相当する3rdデフをロックできる車種は多いが、新型クオンGWは、必要なら2つの駆動軸の左右輪のデフもロックできる。つまり4輪すべて直結状態の4WDのようにすることができる。

通常、このような車はまともに走行できないが、悪路、急こう配、ウェットなどが重なったり、スタック状態では役に立つ。ONにするには30km/k以下の速度制限があるが、走行中にボタン操作でロック状態を切り替えることができる。

悪路コースでの試乗で、このフルデフロック機能を試すことができた。テストコースの坂道はデフロックが必要なほどではなかった。あえてアクセルを少しラフに操作してみたところ、フルデフロックのほうがホイールの空転がほとんどなく発進できた。

■2024年問題にトラックメーカーができること

UDトラックスがドライバーのストレス低減や荷物保護に注力するのは理由がある。業界が抱える物流課題やドライバー不足の問題だ。人手不足は慢性的な課題だが、コロナ禍、物流改革によってニーズが高まる一方で、ドライバー不足は解消していない。ここに2024年4月1日から施行される時間外労働時間制限(年間960時間)がかけられ、現在の輸送能力が14%ダウンするという予測もある。

荷待ちの問題も深刻だ。増える物流とジャストインタイムによる分きざみの入出庫スケジュール。だが、工場も倉庫もトラックステーションも十分な荷捌きスペース、待機スペースがない。道路上、SA/PAでの時間調整が排気ガスや騒音他の問題を引き起こしいるが、荷主や消費者は「停めるな」としか言わない。

この問題は、発荷主、着荷主、さらには消費者の意識改革が必要とされている。メーカーの取り組みだけでは限界がある。コネクテッド機能でフリート管理を効率化したり、混載やルートの最適化で実車率を上げる取り組みは各メーカーがソリューションを提供している。車両ハードウェア面では、運転しやすく疲労しにくいトラックで、ドライバーの負荷を下げることができる。省エネ、環境負荷、物流の効率改善や人材確保を考えると、最新機能を搭載したトラックへのリプレース、普及を広げたい。

《中尾真二》

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