【ホンダ ZR-V】球体をイメージした異彩のエクステリア…デザイン解剖

ホンダ ZR-V(プレミアムクリスタルガーネット)
  • ホンダ ZR-V(プレミアムクリスタルガーネット)
  • ホンダ ZR-V(プレミアムクリスタルガーネット)
  • ホンダ ZR-V(両端がプレミアムクリスタルガーネット、中左がノルディックフォレストパール、中右がプラチナグレー)
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「異彩解放」をグランドコンセプトに生まれたホンダZR-V』。そこにデザイナーたちは、どんな想いを込めたのか? まずはエクステリアからこのデザインを解き明かしていこう。

◆異彩を放つ顔

グリルとヘッドランプを切り離した顔付きは、『ヴェゼル』や『シビック』、『アコード』とはまったく異なる。それだけではない。最近のクロスオーバーSUVでは、例えば『ヤリスクロス』や『ロッキー/ライズ』のように、フロントグリルを高く置いて顔に厚みを持たせるのがトレンドだが、ZR-Vは逆にグリルを低く構えた。

ホンダ ZR-V(プレミアムクリスタルガーネット)ホンダ ZR-V(プレミアムクリスタルガーネット)

「異彩解放」のグランドコンセプトに相応しく、異彩ぶりをいかんなく放つ顔付きだ。それが生まれた背景を、エクステリアを担当した田村敬寿氏がこう説明する。

「美しくてシンプルなデザインにしたい。今までのやり方を踏襲していては、それを表現できないし、今までとは違うやり方に挑戦したい。そこで流れるようなシルエットとスポーティなスタンスを、球体のようなひとつのボリュームに凝縮しようと考えた」

『フィット』、ヴェゼル、シビックと、近年のホンダはシンプル&クリーンでノイズレスなデザインを指向してきた。今回のZR-Vでもシンプルさは前提条件だが、“美しく”により強くこだわった。なにしろ「異彩解放」の異彩には、凜々しく艶やかなスタイルという意味が込められている。

「グリルから始まるフォルムに球体のイメージを表現することによって、シンプルだからこそ美しいというデザインになると考えた」と田村氏。

お気付きのように、ZR-Vはヴェゼルやシビックに比べて全体に丸みが強い。ボディの四隅も丸いし、ルーフラインも丸い。そんな球体イメージのフォルムの起点がフロントグリル。起点として存在感を際立たせるには、グリルをヘッドランプから独立させる必要があったのだ。

◆丸いフォルムを機能でキリッと

ヘッドランプはグリルより後ろに引いた位置にある。これもグリルから始まる球体のイメージを表現するためだが、球体にヘッドランプを埋め込んだわけではない。

「ヘッドランプは機能部品。機能を表現するところは、球体を内側から膨らませながら、シャープな表情にした」と田村氏。ランプの輪郭を直線的にしただけでなく、内側の目頭にシャープなラインを刻み込んだところもキリッとした眼力に効いている。

フロントバンパーのコーナーにも機能がある。エアインテークのスリットを設け、ここから取り入れた風をホイールハウス内に排出し、タイヤ表面の気流を整える。「エアカーテン」と呼ばれる空力機能だ。そのインテーク部分も、フォルム全体の丸さとは対照的にシャープでキリッと造形されている。

ホンダ ZR-V(プレミアムクリスタルガーネット)ホンダ ZR-V(プレミアムクリスタルガーネット)

グラマラスなリヤフェンダーはまさに艶やか。その後部を内側から圧力をかけたように膨らませたところに、リヤコンビランプがある。田村氏によれば、「色気のある筋肉に丸みのあるリヤコンビが乗り上げて、それがリヤに回り込んでいくと直線的な形状へと変化する」というデザインだ。

「異彩解放」で求めたのは凜々しく艶やかなスタイル。球体イメージの丸みを帯びたフォルムで艶やかさを表現しながら、ランプなどの機能部品でキリッとした凜々しさを醸し出す。艶やかさと凜々しさを両立したところに、ZR-Vのエクステリアの個性があると言えるだろう。

◆アメリカのHR-Vとは違う縦バーのグリル

先代=初代ヴェゼルは北米では『HR-V』と呼ばれていた。しかし現行ヴェゼルは先代のプラットフォームをキャリーオーバーしたため、厳しくなったアメリカの衝突基準に対応できない。そこでシビックのプラットフォームをベースに開発したZR-Vを、北米では新型HR-Vとして販売している。

ただし北米HR-Vと国内ZR-Vでは顔付きが異なる。北米HR-Vはフロントバンパーをよりラギッドで力強い形状にすると共に、新型『CR-V』など北米のSUVラインナップに共通するハニカムグリルを採用。それに対して国内ZR-Vのバンパーは、前述の球体イメージが色濃く、フォルム全体との一体感が強い。グリルはホンダ車では珍しい縦バーを並べたデザインだ。

「球体イメージを、どうやったらグリルのなかにまでつなげられるかを考えた」と田村氏。「縦バーにしてみたら、横から見たときにボンネットからグリルを経てバンパーまでが滑らかにつながった」

縦バーの上端部分は横から見ると斜面。これがボンネット前端の前下がりの傾斜につながる一方、縦バーの垂直部分がその下のバンパーへとつながる。グリルを起点とした球体イメージを縦バーが強調しているのだ。

ホンダ ZR-V(プレミアムクリスタルガーネット)ホンダ ZR-V(プレミアムクリスタルガーネット)

ちなみに、すでに発表されている中国向けZR-Vも、北米HR-Vと同じ顔付き。今のところ国内ZR-Vの顔付きは日本専用のデザインである。もうひとつ“ちなみに”を言えば、7月にアメリカで発表された新型CR-Vは、日本には導入されない。だからこそ国内ZR-Vはハニカムグリルにする必要がなく、球体イメージを強調する縦バーグリルを採用できたとも言えそうだ。

◆凜と艶で2つの新色

ボディカラーは全7色。このうちノルディックフォレストパールとプレミアムクリスタルガーネットが新規開発色である。

ホンダ ZR-V(両端がプレミアムクリスタルガーネット、中左がノルディックフォレストパール、中右がプラチナグレー)ホンダ ZR-V(両端がプレミアムクリスタルガーネット、中左がノルディックフォレストパール、中右がプラチナグレー)

「凜と艶のバランスを考えた」と語るのは、CMF(カラー・マテリアル&フィニッシュ)を担当した後藤千尋氏。ノルディックフォレストは、その名の通り森林をイメージした。青緑の色相だが彩度を抑えてグレイッシュにすることで深い森の静謐さを表現。光輝材にマイカを使って質感を担保しながらも、マイカの輝きは抑えてソリッドライクに仕上げた。「凜と艶のバランス」で言えば、凜が強い。

プレミアムクリスタルガーネットは、赤系メタリックの上に赤系顔料を塗り重ね、さらにクリアをかけた3コート塗装。入射光が2層目の赤系顔料に当たるだけでなく、1層目の赤系顔料やメタリックで反射した後にも2層目の赤系顔料に当たることで、色味がより鮮明になるという塗装技術だ。

シビックなどのプレミアムクリスタルレッドも同じ技術を使っているが、そちらがピュアに赤いのに対して、ZR-Vのプレミアムクリスタルガーネットは赤の深みを重視。陽光が当たっているところは赤いが、陰るとマルーンのような深みが強く意識されるのが特徴である。

(左から)エクステリアデザイン担当の田村敬寿氏、カラー・マテリアル・フィニッシュ担当の後藤千尋氏、インテリアデザイン担当の上野大輝氏、パッケージ担当の伊藤智広氏(左から)エクステリアデザイン担当の田村敬寿氏、カラー・マテリアル・フィニッシュ担当の後藤千尋氏、インテリアデザイン担当の上野大輝氏、パッケージ担当の伊藤智広氏
《千葉匠》

千葉匠

千葉匠|デザインジャーナリスト デザインの視点でクルマを斬るジャーナリスト。1954年生まれ。千葉大学工業意匠学科卒業。商用車のデザイナー、カーデザイン専門誌の編集次長を経て88年末よりフリー。「千葉匠」はペンネームで、本名は有元正存(ありもと・まさつぐ)。日本自動車ジャーナリスト協会=AJAJ会員。日本ファッション協会主催のオートカラーアウォードでは11年前から審査委員長を務めている。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。

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