シリーズ式ハイブリッドの採用はBEV化を見据えた決断…ダイハツ エグゼクティブ・チーフ・エンジニア 仲保俊弘氏[インタビュー]

シリーズ式ハイブリッドの採用はBEV化を見据えた決断…ダイハツ エグゼクティブ・チーフ・エンジニア 仲保俊弘氏[インタビュー]
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ダイハツ初のハイブリッド「e-SMART HYBRID」はなぜシリーズ式ハイブリッドとなったのか。そしてダイハツの主戦場である軽・小型車の電動化は今後どのように進んでいくのか。ダイハツ工業株式会社 くるま開発本部 製品企画部 エグゼクティブ・チーフ・エンジニアの仲保俊弘氏に聞いた。

中保氏は3月29日開催のオンラインセミナー 「中西孝樹の自動車・モビリティ産業インサイトvol.5 ダイハツ」で、e-SMARTハイブリッドと小さなクルマの電動化について講演する。

ダイハツならではの視点が生きるDNGA

---:電動化のお話を聞く前に、最近のダイハツのクルマづくりのキーワードである「DNGA」についてお訊きしたいと思います。

仲保:そうですね。「DNGA」は、ダイハツのクルマづくりの原点である「お客様に寄り添ったモノづくり」の思いのもと、「良品廉価」「最小単位を極める」「先進技術をみんなのものに」の3つの価値にこだわり、開発するというものです。「最小単位を極める」とは、軽を起点にして一括企画することです。「小は大を兼ねる」ということで、あくまでも軽を起点にして、少し大きな A ・ Bセグメントに展開していくということです。この一括企画は、この先5年10年の車群まで決めて、基本的にはどういうプラットフォームで、どのような性能が必要かというようなことを、一括企画・開発しました。また、パワートレーンやアンダーボディ、シャシーからシートまで、すべてのプラットフォーム構成部品も全面的に刷新しています。

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---:DNGAは、トヨタとの共同開発ではなく、ダイハツが主体的に作ったプラットフォームということでしょうか。

仲保:そうです。DNGAのベースには、一括企画ともう一つ、同一設計思想があります。信頼性の基本は、変えず、同じものを使い続けることが、信頼性の確保に繋がります。

部品についても、素性のいいものを広く採用して使い続けるという根本的な考え方が流れています。具体的には、軽・Aセグ・Bセグをまたいで部品の共通化を進めています。部品群でいうとボディ、ブレーキ、シート、EPS、ラジエターなどいろんな部品がありますが、これを軽・A・Bで全部共用するもの、あるいはAとBで共用するもの、Bセグメントの中で共用するもの、と整理し、素性のいいものをできるだけたくさん、長く使っていこうというのがDNGAの思想です。

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そのうえで、車両、パワートレーン、先進安全のそれぞれに進化を取り込んでいます。例えば車両においては、剛性を向上させながら軽量化を達成できるハイテン材を採用し、骨格材の配置を合理化しています。

そして先進安全について、最先端の機能とお求めやすい価格でお客様からご好評をいただいているのが、ダイハツの予防安全機能「スマートアシスト」です。「先進技術をみんなのものに」の考えのもと、お客様に安全・安心を良品廉価にご提供し、コストを抑えながら新しい技術を盛り込んでおります。

パワートレーンの進化については、CVTや、後で紹介するロッキーに搭載しているエンジンを新たに開発し、刷新しております。CVTでは、スプリットギアといって、無段変速機とメカニカルなギアを両方使うことで、加速感や静粛性など、トータルの効率をぐっと上げて燃費の向上を図っています。

---:CVTは軽向けのものですか。普通車と共用ですか。

仲保:同一設計思想で、軽向けのものと、少し容量の大きいものがあります。同じ設計思想で信頼性を確保していくということです。

---:この CVT はどの世代のクルマから導入されていますか。

仲保:2019年にフルモデルチェンジした軽乗用車「タント」からです。つまりDNGAを最初に世の中に送り出したのがタントからということになります。

---:そうすると、部品も含めたDNGAのコンセプトが、タントから始まったということですね。

仲保:軽・Aセグ・Bセグの様々なアッパーボディに対し、従来のダイハツの開発スピードを1.5倍にして、25年ぐらいまでに15ボディタイプ、21車種を計画しており、そのなかから、2019年には軽乗用車「タント」と小型乗用車「ロッキー」を発売しました。その後も、DNGAを順次展開しています。

---:トヨタのTNGAと名前が似ていますが、トヨタと協調してコンセプトを決めたり開発を進めたという経緯はあったのでしょうか。

仲保:実はDNGAという名前を付けたのは、トヨタの豊田章男社長です。2016年のダイハツ完全子会社化の会見のときに、豊田社長が「トヨタのTNGAに対して、DNGAだな」と言及されたことがきっかけで、DNGAという言葉を使い始めました。

ただ、ダイハツとしてプラットフォームを同一思想で共通化し、幅広いモデルに展開していくべきだという構想はその前からありました。ダイハツならではの視点で、軽を起点にしてAセグやBセグに展開していこうというものでした。

---:なるほど。名前は似ているけれど、構想やコンセプト自体は、ダイハツが主体的に進めたということですね。

仲保:そうですね。

シリーズ式ハイブリッドを選んだ理由

---: 続いてハイブリッドの話をお聞きしたいと思います。「ロッキー e-SMART HYBRID」が発売されました。

仲保:はい。ダイハツとして初めての量産ハイブリッド車です。e-SMARTの意味ですが、電気の「e」にスマート(賢い、機敏な)を組み合わせ、電気の力できびきび走る良品廉価なハイブリッドを表現しています。

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ハイブリッドのシステムは、いわゆるシリーズ式ハイブリッドで、100%モーターで走行します。つまり、モーターの制御によってクルマをコントロールするというシステムで、エンジンは充電専用の発電機として使います。

これはトヨタのシリーズ・パラレル式とは異なります。なぜシリーズ式を選択したのかというと、小さくて車両重量が軽いクルマ、そして将来の軽自動車への展開を考えたときに、シリーズ式のほうがメリットがあると考えたからです。

もう少し言いますと、シリーズ・パラレル式においては、1.5トン以上の車重のクルマがフル加速、あるいは100km以上で走行する際には、エンジンのアシストを必要とします。一方でダイハツの小型軽量な車種であれば、モーターだけで補えると考えています。そしてモーターで走行を制御する技術を身につけておけば、今後のBEVへの展開が非常にしやすいという理由もありました。

---:シリーズ式は、大きめのバッテリーが必要になり、それにつれて大きいモータージェネレーターが二つ必要になり、小型軽量に向かないというイメージがありますが、その点で工夫したことはありましたか。

仲保:バッテリーの容量は、車両重量や、どこまでモーターパワーを持たせるかで決まります。当社のクルマは動力性能を追求したクルマではありませんので、バッテリーのサイズを抑える方向で開発しました。

バッテリーの容量を少なくするために、できるだけエンジンを動かしかつ最も効率よく燃費が稼げる状態で充電をしていくという考え方です。従ってエンジンが動く頻度は少し多めですが、効率のよい状態で充電しますので、燃費が良くバッテリーの容量も少なく済みます。

---:効率のいい回転域でエンジンが動いている時間が長いが、その代わりバッテリーが小さくてすむということですね。

仲保:はい。この1.2リットルエンジンも十数年ぶりに新規開発したものです。最高熱効率40%を達成し、世界に通用する性能になったと思います。同時にこのエンジンは低コスト化を追求し、車両全体の低コスト化を実現した大きな源泉になっています。

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---:これは発電専用エンジンとして新規に開発したということでしょうか。

仲保:エンジンの制御を含め発電専用エンジンとしてまとめていますが、実はこの1.2Lエンジンを搭載しているガソリン車モデルをアセアンで販売しています。エンジンの制御の仕方を変えて、動力源としても発電機としても使用できるエンジンということです。

---:熱効率40%はものすごく高い効率だと思いますが、どのような工夫があるのでしょうか。

仲保:一例をあげますと、燃焼効率を上げるため、高速燃焼に拘りました。コストをかけずに高速燃焼を実現するために、高タンブルストレートポートと薄型バルブシートを採用。燃料を細かい噴霧状態にした低ペネトレーション噴霧では微粒子化促進を図りました。

---:今回は発電用エンジンなので、特定の回転域を多用すると思いますが、その回転域に最適化しているのでしょうか。

仲保:そうですね。世界にはほかにも熱効率40%を達成しているエンジンはありますが、高価な噴射システムや凝った機構を採用しています。そういったものと比べると、本当に知恵を出してコストを抑えたものとなりました。

---:ダイハツならではの追い込み方ですね。

仲保:はい。そのほかにも、例えばトランスアクスルでは、発電用、駆動用の2つのモーターの並列配置や、構成ギア数を最小化するなど、一つひとつに拘って、軽量かつコンパクトに仕上がったと思っています。FFハイブリッド車は車両の全幅を抑えるのがとても難しいのですが、ロッキーでは5ナンバーサイズを実現しています。

また、バッテリーについても、容量そのものは競合車に比べてかなり少ない量でコストの抑制を図っていますが、性能的にはまったく遜色のない加速性能を実現しました。

---:バッテリー容量は4.3Ahとありますが、電圧は200ボルトぐらいですか。

仲保:200Vは下回っていますね。kWhで言うとたしか0.76kWh程度だったと思います。

---:そうすると、日産e-Powerの半分ぐらいのサイズですね。

仲保:そうですね。電池はものすごく高コストですので、コストをどう抑えるか、いろいろな議論をしながら進めてきました。いっぽうで加速感もエンジン車に比べて良好ですし、回生に関しても、運動エネルギーをできるだけ回収するために、アクセルペダルの踏み戻しだけで加減速を快適にする「スマートペダル」を採用しました。こちらも非常にコントロールしやすい状態に仕上げることができました。実際の街中で試乗しても、渋滞時やカーブ・アップダウンの多い山岳など、頻繁に加減速が必要なシーンにおいて、ブレーキへの踏み替えが本当に少なくて、かなり運転しやすいです。その結果、クラストップの燃費性能である28km/L(WLTCモード)を達成し、税制優遇も受けることができます。

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これらの性能を実現したうえで、これが一番言いたいところなのですが、コンパクトSUV-HEV最廉価となる220万円を下回ることができました。開発中はチーフエンジニアとして「200万円を切るハイブリッドを作るんだ」ということで旗を振ってきました。結果、税抜き価格で200万円を下回ることができました。

---:確かに、ストロングハイブリッドでこの価格はとても安いですね。販売現場では実際にどのようなモデルと競合しているのでしょうか。ヤリスクロスなどでしょうか。

仲保:他社の上級グレードのクルマと比較してご購入いただいているようです。

---:その中ではヤリスクロスが安いと思いますが、それでも価格的にロッキーのほうが40万円ほど安いですね。

仲保:そうですね。特にエントリー層の女性のユーザーの方にご好評をいただいているようです。

ハイブリッドを軽にも展開、そしてEVへ

---:今回のハイブリッドの量産では、開発面でもいろいろ新しい取り組みがあったようですね。

仲保:はい。先人に学ぶということで、トヨタにはいろいろ教えていただきました。トヨタグループとしての強みを生かして、計50人以上がトヨタ自動車に出向し、約3年間、ハイブリッドをいろいろ勉強させていただき、戻ってきてシリーズ式ハイブリッドの開発をしました。

それからモニター車両で実際に公道を走りながら開発を進めました。白ナンバーのモニター車両を12台制作し、ナンバープレートを取得する際には、運輸支局の方と何回も打ち合わせしながら苦労して取得しました。

---:発売前のクルマにナンバーを付けたということですね。

仲保:そうです。大規模なボデー改造を伴う申請ですので、いわゆる改造届を運輸支局に届出するのですが、お互い初めてということもあり、申請から半年ぐらいかかってしまいましたが、何とかナンバーを取得することができました。発売の約1年前に12台作って、全国に配車して走りまくり、トータルの走行距離は100万km以上にもなりました。

---:このハイブリッドは軽にも展開していくのでしょうか。

仲保:電動車の普及に向けては、各国固有の状況を考慮する必要があるので、ハイブリッドあるいはBEVをどのように展開していくかを考えないといけませんが、まずはハイブリッドをスピーディーに普及させていくということで、この後には軽のハイブリッドを出します。

そしてもちろんBEVもやっていく必要があります。ダイハツがやるからには良品廉価でないといけないので、ハードルは高いのですが、開発を進めています。

まずハイブリッドの導入フェーズが2025年まで、その後展開フェーズでは小型車ハイブリッドの進化拡大、軽のハイブリッド本格拡大、同時にBEVも投入していきます。2030年に向けて開発が本当に山盛りの状態になっていますね。

中保氏が登壇するオンラインセミナー 「中西孝樹の自動車・モビリティ産業インサイトvol.5 ダイハツ」は3月29日開催です。
《佐藤耕一》

日本自動車ジャーナリスト協会会員 佐藤耕一

自動車メディアの副編集長として活動したのち、IT企業にて自動車メーカー・サプライヤー向けのビジネス開発を経験し、のち独立。EV・電動車やCASE領域を中心に活動中。日本自動車ジャーナリスト協会会員

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