新エネルギー政策を進める中国で、テスラを上回る人気を獲得している格安EV、『宏光Mini EV』が日本国内でも公開された。その価格は日本円換算(8月2日現在)で49万円(ベース車)! クルマとしての仕上がりを具合を、撮影を通して感じた印象からレポートする。
100万円以下EVがひしめく中国でも「宏光Mini EV」の価格は驚異的!
今回、公開された宏光Mini EVは一般社団法人日本能率協会が輸入したもので、2021年6月東京ビッグサイト青海展示場で開催された『テクノフロンティア 2021』で日本初公開された。その後、解体検証を目的に名古屋大学の山本真義教授が率いるパワーエレクトロニクス研究室へ移され、7月末まで大学構内でその車両が公開されていたものだ。
宏光Mini EVを製造販売しているのは、上海汽車と米国ゼネラルモータースが合弁で設立した上汽通用五菱で、同社はこれまでも“宏光”ブランドとして多くのミニバンを送り出してきた。注目は何と言ってもその価格で、エアコンを装備した最上位グレードでも60万円相当。100万円以下のEVが数多くひしめく中国国内でも群を抜く安さと言える。
車両スペックは上汽通用五菱のホームページによると、全長2920mm×全幅1493mm×全高1621mmの小さなボディが特徴で、日本が進めている超小型モビリティ(全長2500×全幅1300×全高2000mm)の基準よりはずっと大きい。タイヤサイズは12インチ、145/70タイヤを装着し、ブレーキはフロントがディスク、後輪はドラム式。ヘッドライトはハロゲンランプで、バックドアの開閉は電気式スイッチで行う。充電口はフロントグリル中央のエンブレム部分にあり、開閉は手動式となる。
サスペンションはフロントがストラット式独立で、リアは3リンク式リジッドアクスルを組み合わせていた。ボンネットを開くと、中央部には充電コネクタを受けるインバーターが配置され、その右にはブレーキブースターとブレーキ用フルードタンク、ウォッシャータンクなども装備。その下にはエアコン用コンプレッサーも備えられていた。
リアデフにモーターを直結する、低コストでユニークな構造採用
EVとしてのスペックはどうか。上汽通用五菱のホームページでは、駆動用バッテリー容量を9.3kwhまたは13.9kwhから選べ、航続はそれぞれ120km、170kmとしている。最高速度は100km/hとなっているので、スペック上なら高速道路も走れることになる。この辺も日本の超小型モビリティよりも格上のスペックと言えるだろう。ただ、テクノフロンティア 2021で出展された際はバッテリー容量が20kwhで航続距離も約200kmと表記されており、仕向地で容量は変更されるのかもしれない。
ユニークなのは電動モーターの取り付け位置だ。ベース車で使っていた後輪駆動用のデフギアボックスにそのままダイレクトに取り付けているのだ。電動化によってプロペラシャフトも不要となり、そのスペースを活用してバッテリーを収納している。こうしたベース車の活用が上手にできているからこそ、この低価格が実現したのだと思う。
車内は前述したように、横幅がある上に高さもあるので前席はかなりゆったりとした印象だ。特に横幅は日本の軽自動車よりも20mm広く、大人2人が乗っても窮屈感はなさそうだ。ただ、ホイールベースは短い分だけ後席はかなり狭く、その広さは軽ボンネットバン並み。大人が4名乗車するにはかなりキツメに感じるだろう。基本的には大人2名が乗車し、後ろはカーゴスペースとして使うといったことを想定しているのだと思う。
前席シートはクッション厚が薄く硬めの印象だが、ホールド感は想像以上に良かった。シートの前後レールも自由度が高く、後席へアクセスする際のシートレバーもしっかりとした造りでチープ感はない。ただ、レバー操作は硬めで、レバーを引き上げるとシートがバタン!と突然倒れるような動きを見せる。
価格は十分に安い! このコスト管理を超小型モビリティに活かしたい
ステアリングは中国車なので左側。ステアリングはグリップしやすい形状で太さも適度な印象。ダッシュボードは手前を低くすることで開放感のあるデザインとなっており、エアコン吹き出し口もフェイスレベルにあるので、冷房効率は良さそうだ。ただ、運転席に座ると前輪のタイヤハウスの出っ張りが影響して、アクセルやブレーキペダルが助手席側に大きくシフトしているのがわかる。この状態で長時間走るのは少しツライかもしれない。
メーターには10インチかそれよりも少し大きめの液晶パネルを組み込み、シフト操作はダイヤル式を採用する一方、電源スイッチは昔ながらのキーを差し込んで回す方式となっていた。パワーウインドウは前ドア左右に装備。オーディオ系はラジオが備わるだけのシンプルなものだが、USB端子を備えているので、充電は行えるだろうし、場合によってはスマホ内の音楽を再生できる可能性もある。
個人的な感想としては、今回の公開車両が上級グレードの60万円相当だとしても十分に安い。しかし、日本へ導入して市場性があるかと言えば難しいだろう。その理由は車幅が軽自動車の枠を超えている以上、登録車として扱われる可能性が高いからだ。登録車として考えると宏光Mini EVのスペックはあまりに心許ない。さらに中国車を輸入するには車両ごとに車検をパスしなければならず、それに適合させるための改造なども必要となる。となれば、車両価格にそれらが跳ね返り、本来の低価格は発揮されなくなってしまうだろう。
宏光Mini EVはEVをシンプルかつ効率的に作り上げることで、身近なコミュータとして大きな市場性を見出したのは確かだ。そうした現実はこれから超小型モビリティを本格的に立ち上げようとしている日本にも十分参考になる一例と言えるだろう。