ZFの「フライングカーペット2.0」はなぜ車両の動きを緻密にコントロールできるのか?…試乗&インタビュー

PR
ZF 「Vision Zero Days Japan」(2019)
  • ZF 「Vision Zero Days Japan」(2019)
  • ZF 「Vision Zero Days Japan」(2019)
  • VW トゥーラン に「フライングカーペット2.0」を搭載したプロトタイプ
  • ZF 「Vision Zero Days Japan」(2019)
  • ZF 「Vision Zero Days Japan」(2019)
  • ZF 「Vision Zero Days Japan」(2019)
  • ZF 「Vision Zero Days Japan」(2019)
  • ZF 「Vision Zero Days Japan」(2019)

自動車に関わるハードウェアからAIに代表されるソフトウェアまで、多角的に技術開発を行っている独ZF社。その日本法人であるZFジャパンは、先端技術と新製品を紹介し、試乗やデモンストレーションを行う技術展示・試乗会を富士スピードウェイで開催した。

なかでも注目を集めたのが、日本で初公開となる「フライングカーペット2.0」だ。これは自動運転車両の基礎となる技術で、クルマの前後方向、横方向、そして上下方向の動きを緻密にコントロールする画期的なシャシーコンセプトである。

ZF 「Vision Zero Days Japan」(2019)ZF 「Vision Zero Days Japan」(2019)

具体的には、ZFの「sMOTION」フルアクティブ・ダンピング・システムを核に、アクティブ・リアステアリング・システム「AKC(Active Kinematic Control)」、ステア・バイワイヤ・パワーステアリング、アクティブ・ブレーキ・システム「IBC(Integrated Brake Control)」をインテリジェントに統合。サスペンション、ブレーキ、ステアリングを絶妙に制御し、乗員を快適に目的地へと到着させてくれるのである。これは自動運転の時代になると欠かせない技術だ。

4つのアクチュエーターと小型の電動モーター、ポンプユニットによるsMOTIONを採用したフライングカーペット2.0は、運転の状況や路面のコンディションに応じて4輪のサスペンションの動きを独立して制御する。走行中、路面などから受けるボディの動きを事前にセンサーで検知し、ダンパーの減衰力などを最適にコントロールすることによって路面からの衝撃を和らげてくれるのだ。

フラットライドな乗り心地と姿勢制御の巧みさに驚き

ZF 「Vision Zero Days Japan」(2019)ZF 「Vision Zero Days Japan」(2019)

VW『トゥーラン』に「フライングカーペット2.0」を搭載したプロトタイプに同乗し、ショートサーキットを走ったが、フラットライドな乗り心地と姿勢制御の巧みさに驚かされた。本線に進入するところに大きな段差のバンプがあるが、ここを越えたときのクルマの動きは滑らかだ。ガツンとくる衝撃を上手に抑え込んでいる。ウエット路面だったが、加速したときの前後の動きは滑らかで、コーナリング姿勢も安定していた。

タイトなコーナーを駆け抜けたときは、内側のサスペンションが縮み、外側のサスペンションは伸びてボディを水平に保とうとする。また、低速ではリアを逆位相にステアさせ、スピードが乗ってからは同位相にしてクルマの向きを変えやすくしているのだ。トレースコントロールも上手で、違和感がないから狙ったラインに乗せやすい。

スラローム走行も試したが、ここでもグラッとくる不安定な挙動はなく、乗員も大きく揺すられることはなかった。また、リアの過度な巻き込みやロール、揺り返しも上手に封じている。急ブレーキを踏んだときも絶妙に制御を行い、挙動を穏やかに保とうとする。ノーズダイブを小さく抑え、無駄な動きがない。その実力は想像していた以上に高かった。

ちなみに制御をオフにしての走行も行ったが、コーナリング時にロールは大きいし、荷重移動も遅れ気味だからグラッとした揺り返しの挙動も強く出る。助手席では何とか踏ん張って耐えたが、後席は揺れが強く、頭だけでなく身体も大きく振られた。段差やうねりを乗り越えたときも大きなショックを感じる。その差はかなり大きいと誰にでも分かる。

電動化、ADAS、自動運転…統合制御で安全・快適な製品を提供

ZFジャパン シャシ・エンジニアリング・マネージャー クリスチャン・ビーミュラー氏ZFジャパン シャシ・エンジニアリング・マネージャー クリスチャン・ビーミュラー氏

試乗した後、ZF社の開発者にフライングカーペット2.0を中心とした最先端技術の開発状況と今後の展望についてZFジャパン シャシ・エンジニアリング・マネージャー クリスチャン・ビーミュラー氏に話を聞いた。

----:フライングカーペット2.0はとても魅力的な先進技術に感じられました。この開発は単独ではなく、次世代のモビリティ戦略の一つなのですね?

ビーミュラー氏:あれは開発途中の車両で、私たちは「Innovation Vehicle」と呼んでいます。量産が始まっているプロダクトから最新のsMOTIONまで、色々なプロダクトを統合して行っているのです。

----:ZF社は世界有数のサプライヤーですが、この先端技術は自動車メーカーのクルマのパッケージにマッチするように最初から軽量コンパクトな設計としているのでしょうか。これから先、電動化の流れも早まります。ZFジャパンの多田直純社長もトランスミッションなどに加え、電動化を積極的にやっていることも強みだと語っていました。

ビーミュラー氏:電動化とともにADAS(先進運転支援システム)が重要になってきます。これから先、ZF社は電動化とADAS、その両方をカバーしていかなければなりません。それと自動運転ですね。これらについてはバイワイヤ技術を用いて、色々とコントロールしていくことになりますが、ブレーキを踏んだらしっかりと止めなくてはならないし、ADASのファンクションもカバーしなくてはなりません。全てをしっかりと行い、安全で快適な製品を生み出したいと思っています。

----:全てをセットで提供しないと実力をフルに引き出すことは難しいと思うのですが、一部の技術だけを切り取って自動車メーカーに供給することはあるのでしょうか?

ビーミュラー氏:当然、こういう一つのプロダクトにも対応できるようにしていますが、他のメーカーが作った製品と協調していかなければならないので神経を遣います。当然、私たちの開発した部品は、それぞれがきちんと機能し完璧に仕事をしています。ですが、今、ZF社が力を入れているのは統合制御のモジュールです。先ほど乗ってもらったプロトタイプでは走行中にsMOTIONが働いており、安全性や快適性を高めています。これを補完する形でアクティブ・リアステアリング・システムも働いているのです。

----:ADASの時代になっても使える技術は多いのですね。

ビーミュラー氏:これからはADASのシステムからの指令でシャシー側がどう動かなければいけないかというのを把握し、統合制御していく方向に向かうと思います。例えばコーナーを曲がるとき、ADASが指令を出すと、どの製品をどう使ってシャシー側で動きを成立させていくかといった実験などを行っています。

道路状態やドライバーの好みに合わせてシャシーを制御

ZF 「Vision Zero Days Japan」(2019)ZF 「Vision Zero Days Japan」(2019)

----:ヨーロッパ、アメリカ、アジア、そして日本など、国や地方によってクルマを取り巻く環境や道路事情は異なります。道路環境の違いについても対応できる技術力を備えているのがZF社の強みでしょうか?

ビーミュラー氏:国や地域によって路面状況は違うので、今は国や地域に合わせてチューニングしています。ですが、これから先は、カメラが付いているクルマなら、それを使って路面の状況を読み取り、シャシー側をうまくコントロールしていくようになるでしょう。乗ってもらったプロトタイプにもカメラが装備されており、工事中の標識を読み取ると、自動的に車高を高くします。将来的には、このプロトタイプのように、カメラが進む方向の道路コンディションを読み取り、路面がデコボコなら車高を上げるなど、シャシー側をどう動かしたらよいか、判断するようになるでしょう。これを推し進めていくと、クルマの設定は基準化されるようになると思います。

----:自動車メーカーの好みに合わせた味付けも難しくはないのでしょうか。

ビーミュラー氏:スポーティな方向にしたいとか、スムーズな動きのクルマにしたい、などの要求全てに対し、ソフトウェアのプログラム設定で対応していく予定です。将来はドライバーの要求に合わせたクルマができると思います。

----:快適性も大きく向上しますね。

ビーミュラー氏:ショックアブソーバーのダンピングを最適に制御するセミアクティブサスペンションを搭載したCDCプロダクトでは、コンフォート、ノーマル、スポーツと3つのモードを選ぶことができます。これを一歩進めてシャシーのプロダクトと統合制御すれば、ADASのキャビンのなかで快適に過ごすことができるなど、対応レンジも広がるのです。一人で運転するときはスポーティに、家族を乗せているときは自動運転で快適に、という使い方が実現します。

----:カメラやセンサーから多くの情報を集め、瞬時に判断を下していますが、演算能力は足りているのですか。

ビーミュラー氏:カメラやシャシーを動かすための演算能力はかなり高いのです。今、研究中、開発中のプロダクトは自動運転技術、オートマスドライブのレベル4まで対応可能なレベルにあります。ひとつのECU(コンピューターユニット)に全て任せるのではなく、飛行機のようにいくつかのECUを使い、危険を回避しているのです。人々の安全性を高めリスクを減らすことがZF社の設計理念ですから、安全性には最も気を遣っています。

----:フライングカーペット2.0の実用化はいつ頃になるのでしょうか。

ビーミュラー氏:後輪操舵のAKCは2013年に実用化し、フェラーリやポルシェに採用されています。これ以外の技術も、かなりのところまで来ました。フライングカーペット2.0に搭載しているsMOTIONは2020年からカスタマーに渡り、実用化に向けて動き出します。これからの発展と進化に期待してください。

ZFジャパンのホームページはこちら

《片岡英明》

片岡英明

片岡英明│モータージャーナリスト 自動車専門誌の編集者を経てフリーのモータージャーナリストに。新車からクラシックカーまで、年代、ジャンルを問わず幅広く執筆を手掛け、EVや燃料電池自動車など、次世代の乗り物に関する造詣も深い。日本自動車ジャーナリスト協会(AJAJ)会員。

+ 続きを読む

【注目の記事】[PR]

編集部おすすめのニュース

特集