日産と三菱の協業がさらに進化…新型軽 開発の舞台裏

NMKVの遠藤淳一CEO(左)と三菱自動車の安藤剛史副社長
  • NMKVの遠藤淳一CEO(左)と三菱自動車の安藤剛史副社長
  • NMKVの遠藤淳一CEO
  • 三菱自動車の安藤剛史副社長
  • オフライン式にて。中央は三菱自動車の益子修会長CEO(右側)と日産自動車の星野朝子 専務執行役員
  • 水島工場の生産ラインを流れる日産の新型デイズ ハイウェイスター
  • 水島工場の生産ライン(エンジン搭載工程)を流れる新型軽自動車
  • 完成検査を終えた日産 デイズ ハイウェイスター

日産自動車と三菱自動車、および両社の合弁会社であるNMKVの3社は3月14日、3月末に発売する新型軽自動車のオフライン式を水島工場(岡山県倉敷市)で行った。

日産では新型『デイズ』『デイズハイウェイスター』、三菱では新型『eKワゴン』『eKクロス』として発売されるモデルは、NMKVが企画・開発のマネジメントを行い、日産の先進技術と三菱の軽自動車づくりのノウハウを融合させた新世代の軽ハイトワゴンだ。

オフライン式の終了後、NMKVの遠藤淳一CEOと三菱自動車の安藤剛史副社長が、今回の3社協業による新型軽の開発と生産について、メディア向け説明会を行った。

日産出身で、2011年のNMKV設立当初から最高責任者として指揮をとってきた遠藤CEOは、今回の新型軽自動車について「目指したのは『軽自動車』の概念を超える、居室・荷室の広さと先進安全装備」だとし、また、日産の場合は「Vモーション」、三菱の場合は「ダイナミック シールド」となる両社のブランドアイデンティティをスタイリングに取り入れた点も特徴だと語った。確かに、バッジを見ないと判別が難しかった従来モデルとは異なり、新型の作り分けは、特にデイズ ハイウェイスターとeKクロスの間で明確になり、eKクロスは新型『デリカD:5』の小型版のようにも見える。

「さらにもう一つ、今回目指したのは、『軽だから』という理由でやむなく妥協しているお客様の不満・不安の根本的な解消です。具体的には、動力性能、静粛性、実用燃費、荷室スペース・小物入れ、安全・安心といった点で、軽自動車と感じさせないレベルを目指しました」。

それらを実現するために、多くの新しい技術開発が行われた。大きく分ければ、新しいプラットフォーム、新しいパワートレイン、先進安全技術の三つ。プラットフォームについては、エンジンルームの縮小とホイールベースの拡大によって、室内と荷室を大幅に拡大。「具体的な数値は(発売前なので)まだ言えませんが」と断りながら、特に荷室については競合他社のモデルを上回る広さを実現したと述べた。

「パワートレインは、新開発のエンジン、新しい変速制御の新開発CVT、そして運転席下に配置した小型のリチウムイオンバッテリーによる新開発マイルドハイブリッドで、走りと実用燃費を両立しました」。

新開発エンジンは、ルノー日産が開発した海外向け0.8リットル3気筒エンジン「BR08型」がベースで、型式は「BR06型」。新型軽自動車用は、もちろん水島工場で生産される。これまでのスクエア型(ボア×ストローク:65.4×65.4mm)から一転して今風のロングストローク型となり、トルクフルな特性が期待される。また、マイルドハイブリッドについては、スズキが先行している技術だが、その採用は燃費だけでなく、アイドリングストップからのスムーズな再始動を可能にする点でも大きな武器になる。なお、噂のピュアEV仕様については「今後の商品計画に関わること」だとして今回コメントはなかった。

先進安全技術については、三つの「軽自動車初」を採用。一つ目は、日産が得意とする先進運転支援システムで、日産デイズでは『プロパイロット』、三菱eKでは『マイパイロット(MI-PILOT)』の名で採用される。これは単眼カメラを搭載することで、0km/h~25km/hの渋滞時も含めてインテリジェントクルーズコントロール(ICC)が作動し、追従走行や停止・発進を行うほか、車線中央を維持するように操舵アシストも行うもの。全車速対応型であることや車線維持支援を行う点が、軽自動車としては画期的だ。

また、カメラとソナーを使うことで、最新の踏み間違え衝突防止アシスト機能も採用された。後退も含めてブレーキまで作動させるのは、軽自動車では今回が初。さらにサイド&カーテンエアバッグが軽自動車で初めて全車標準になる。これらの先進安全装備を採用するために、新型車には日産の新しい電子ネットワークが採用された。

このように新型は、パワートレインや先進技術については日産主導で開発されているが、一方で、生産に向けた開発という点では、軽自動車を生産した経験がない日産ではなく、軽自動車づくりで半世紀以上の歴史を持つ三菱の存在感が増してくる。

遠藤CEOは、「今回、三菱、日産、NMKVの新たな協業体制については、日産と三菱、それぞれの強みを融合させることを目標にしました。三菱の強みは、水島製作所やサプライヤーが持つ、軽自動車に最適のモノづくりノウハウ。今回はそれらを活かして、同一生産拠点、1ヶ所開発、日産-三菱車 同時生産開始(SOP)を実現しました」と語る。

さらに、三菱自動車の安藤副社長は、今回の協業で最大のポイントは「試作工場で試作車を作るのをやめて、量産工場(水島工場)で試作車の生産を行ったこと」だと言う。

試作車を量産ラインで作るのは、日産と三菱、どちらにとっても初の経験。また、協業についても、実現するのは簡単ではなく、特に専門用語や図面、解釈の仕方の違いなど、企業文化の違いが最も苦労した点だという。ここで浮上した基盤課題は198項目に及んだが、組織管理体制の主体であるNMKVが、日産と三菱の、いわば橋わたし役となることで、サプライヤーである愛知機械やジヤトコも巻き込んでの協業プロジェクトをスタート。試行生産の初期段階から、設計者、部品メーカー、生産が一体となった「サイマル活動」を行うことで、生産準備期間の短縮や、早い段階での品質向上が実現できたという。

現在、NMKVが大々的に掲げるスローガンは「フュージョン for イノベーション(革新のための融合)」。激戦の軽自動車市場において、遠藤CEO率いるNMKVの本当の戦いは、この新型軽自動車から始まるのかもしれない。

《丹羽圭@DAYS》

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